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「ほんとにもう。」
奥様と一緒に帰ってきてから、それはもう忙しく、奥様と過ごす時間もあまりない。
それが本当に不満で、不満で。
私は奥様にお仕えするのが本来の仕事なのに。
「そうは言っても、今は仕方がないだろう。」
「分かってますよーだ。でも、本当に奥様を狙うかも知れないなんて。しかも、それを叔父さんが言ってくるなんて。あのグーダラ叔父さんがね。」
「こんなんでも、あの人は凄い人だからな。」
「こんなんでもって酷くないかぁー。うちの弟子と姪っ子がひどいなぁ。」
「酷くもなるわよ!久しぶりに会ったかと思えば面倒事を押し付けてくるんだから!」
本当に、これが奥様と関係ないことならば、ほっとくんだけど。
奥様にとって大事な事と言われたら、仕方がない。
「しょうがないだろう?お前が1番向いてるんだから。」
「姉様達だっていいでしょう?」
「まぁ、アイツらもできるが、何よりも熱意がないだろう?でもお前にはあるからな。」
そりゃあそうよ!
なんたって奥様の為だもの。
そう言われたら納得しかないわ。
わざわざこっちまで来て、姉様達じゃないのはそういうことね。
「レナ達には別件を任せてるって兄さんが言ってたからな。お前にはこっちで動いてもらいつつ、若奥様の護衛もしてもらいたいんだ。」
「そりゃあ、もちろん。護衛はいつも通りするわ。」
奥様の護衛は今までずっとしてるもの。
奥様がこの御屋敷に来てからの任務でもあるもの。
まぁ、奥様がお外に出ることはなかなか無かったから意味があまりなかったけども。
力だけならば、私よりも力持ちもいるし、武力も強いのも居るけども、何より、私は隠密向きだから、奥様にバレずに動けるのよね。
それこそ、奥様のご実家にいるセッカさんの一族の次ぐらいには並べるぐらいには。
セッカさんの一族は隠密でもあるけど、暗殺向き。
私は山猫族だから、隠密しつつ情報収集ができるし、なにより狐や狸と同じように化けれる。
それが今回役に立つ。
この屋敷には狐も狸もいるけど、奥様の傍付きではないし、他にも仕事を持っている。
何よりこの仕事を他の誰にも譲りたくはない。
「奥様に化けて、あらゆる場所に行って情報を混乱させるなんて、もし奥様のイメージを壊すようなことを他の誰かがしたら絶対に許さないから。」
「おーおー、だからお前に向いてんだよ。」
「それにしても、よく化けられているな。昔見た時には、まだまだ甘かったのに。」
「そりゃあ、スパルタな師匠がいますからね。ここに。」
ほんっと、このスパルタ鬼畜叔父さんには何回も泣かされたけど、この能力のお陰で侍女長に今なってるのだから仕方がないわよね。
「可愛い姪っ子を困らせたくなかったからなぁー。」
「あのー、俺も相当スパルタだったと思いますが。」
「そりゃあーなー、この後、執事長としていくんだから、スパルタにもなるさー。ハッハッハ!」
クリスさんと顔を見合わせれば、同じ表情を浮かべている。
本当に呆れて何も言えない。
結局、誰が相手だろうとスパルタなんじゃない。
「それで、若奥様は?」
「奥様は今はお帰りになって、旦那様と一緒に居ますよ。」
「なぁんだ、入れ違いになってたか。」
「えぇ。エレナが旦那様にまた1つ説教をしたので、凹んでますけどね。」
「説教などしてませんよ。ただ事実を言ったまでです。」
説教なんてしてないわ。
本当に今の今まで、ドレスを一着も奥様の為のを作られていないっていうのに気づかない旦那様が悪いわけ。
前の夜会の時だって、旦那様なんて浮かれていてドレスのことなんて忘れてたのよ。
本当に酷すぎる。
それを奥様はなんとも思ってないから、良かったものの。
夜会なら、しかも王宮での夜会なら新しいものをってなるのが普通でしょ!
本当の本当に恋愛ではポンコツすぎるんだから!!
まぁ、あの時は結局、奥様はあのバカ姫のせいでドレスもボロボロになってしまったから、新しく奥様の為のドレスじゃなくて良かったのかもだけど。
いや、良くない!
「ドレスに関しては、奥様がなかなか望まないだろう?それをあの旦那様が上手く言えるとは思えないからなぁ。」
「そりゃあそうですけども!気づけよってなりません?私はなります。腹立ちます!」
「なんだなんだ。坊ちゃんの悪口か?」
「いいえ、事実を言ってるだけよ。本当に恋愛においてポンコツ中のポンコツなんだから!!」
「まあまあ、怒るな。これからまた若奥様に化けて、出かけるんだからな。」
分かってます!
分かってますよーだ!!
奥様に化けたらそれはそれは完璧にこなしますよ!
なんたって奥様はこの世で1番素晴らしくて尊いお方なんだから!
私なんて足元にも及ばないけども、ちゃーんとしますよ!




