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それを聞いて確かにと納得してしまったのは私も魔導師だからか。
確かにお嬢はそれこそとても特殊な体質だ。
姐さんの能力は、一度に多くの標的を視る能力と射抜く技能、そして先を見透す能力がある。
それこそ魔法のような能力を。
でも、その能力は魔法でもなく、姐さんの元々の能力だからというのだから研究対象にもなる。
そしてそんな能力を受け継いだなんて、また研究対象になるだろう。
私なら研究したくなるだろう。
でも。
「だから、私に何も言わずにお嬢を見守らせたんだね。」
「ハハッ、嗚呼。そうだ。研究対象となんてもう見れないだろう?」
「はぁ。お嬢のことをそんな風に見れるわけないでしょうが。あの子はこれから、自由に羽ばたいて、笑顔で過ごしてもらわなきゃ困る。」
「そうだろう、そうだろう!だから、お前に頼むのさ!」
姐さんの思惑通りという訳だが、正直言って嫌じゃないし、お嬢を守れる物を作れるんだったら、真剣さも違って、本当に細心の注意を払って作ったさ。
「だから、こんなに時間がかかったのだけどね。」
「そんな、昔からなんて。」
「これには私の魔力もたっぷり入っているから、それこそ馬鹿みたいに矢を打っても大丈夫さ。まぁ、そうならないことが一番なんだけどね。」
「ルーミックさん。」
「本当に言えば、これはお嬢に渡したくはなかったさ。これを渡すってことはお嬢が危険に合うかもしれないからってことだからね。あの領地でずっと居て、幸せに笑ってくれていたらいいと心の底から思っていたさ。」
でも、運命っての残酷だね。
私が予想していたのよりも、より事態は深刻になっている。
「お嬢の能力を狙って誘拐ぐらいは考えていたけども、それがあの国が絡んでくるとはね。本当に、あの時滅亡させてしまっていれば良かったのに。」
「えっ?ルーミックさんは知っているんですか?」
「知っているもなにも、あの国の被害者の1人さ。私は、いや、魔道士と呼ばれるもの達はね。」
「ミミ、前の大戦で、敵国が使ったのは兵器だけでなく、魔力を持った魔術師、魔道士だ。魔力を持つ者たちはその昔、酷く嫌うものもおり、差別されてたんだ。」
「そんな!」
「まだ差別されてるぐらいなら優しいものさ。隠れて暮らせばどうてこともないからね。それよりも酷いのが、あの国だったわけさ。隠れ住んでいた魔力を持つ者たちをわざわざ見つけ出して、捕まえ、奴隷として戦争の前線でそれこそ使い捨てのように扱ったのさ。私もその中の1人さ。」
「えっ、そんなことが。なっ何故、私はその事を知らずに。」
「嗚呼、それはそうさ。これは禁句にもなっているからね。特にこの国ではね。姐さんが目を光らせて、そんな事実がないようにしてくれたんだよ。戦争を終わらせたのは私達魔力を持つ者、魔道士、魔術師のお陰だってね。自分の手柄もぜーんぶ、私達に明け渡してね。だから、若い子達が習う物には魔道士、魔術師が戦争で大活躍をし、終戦させたってことになってるのさ。」
本当に、姐さんは凄いよ。
それまでの魔力の持つ者たちを、あっという間に差別の対象から憧れの対象へともっていったんだから。
でも、それまでの差別の記憶が私達から消えたわけじゃない。
していた側はすぐに忘れるだろうけども、された側はずっと覚えている。
だから、魔道士、魔術師達は基本表には顔を出さず、隠れて暮らしている。
だから、それこそおとぎ話のように語られているが、それも別に悪くないだろうと思う。
やはり、大多数がもたない力をもつのは恐怖の対象となるからこそ、差別にも繋がる。
だから、いるかもしれない存在でいいのさ。
「お嬢、泣かないで。大丈夫、姐さんがそれこそやりすぎってぐらいやってくれたからさ。」
「うっ、ごっごめんなさい。私が泣いたって意味なんてないのに、私が泣いたって、ルーミックさんの傷が癒えるわけじゃないのに。なのに、なのに、涙が勝手に。」
「ミミ。」
「旦那様ぁ。あぅ。うぅ。」
嗚呼、もう、本当に。
お嬢は一体どれだけ、お嬢に依存させれば気が済むのか。
本当に無自覚だから、恐ろしいね。
「ふふふ、お嬢。笑ってよ。その方が私は嬉しいから。」
「うぅ、ずずっ、うっ。はい。」
もう、なんて下手くそな笑顔なのか。
でも、この笑顔がとっても愛おしいのだから仕方がない。
「お嬢。今回、またアイツらが攻撃してこようと、あの頃とは違って、私はアイツらをコテンパンにできるんだ。だから、大丈夫。寧ろ、今回のこれは私にとって最高の復讐ができる舞台なんだよ。」
「ルーミックさん。」




