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「本当に姐さんは恐ろしいね。」
手に馴染むこの弓。
まさか、あの頃の物とは思えないのだけども、この手の馴染みようは、その疑いようがないのです。
「魔石ならば出来るんだよ。まだまだ魔石は分からないことだらけだ。探求するには魔導師の協力が必要だけども、なかなか個性の強い魔導師が協力するのは難しいのが現状だ。だから、結局魔石は謎のままなんだよ。」
「そうなんですか?でも、この魔石はルーミックさんが。」
「そう、そうなんだ。あの魔導師は、ミミに対してとても友好的で、珍しいタイプだ。魔導師は、基本個人でいることが多く、人と接するような者が多い。けど、あの魔導師は、店を構えて積極的に人と接しているのが本当に珍しいタイプなんだよ。」
そんなルーミックさんはいつだって気さくに話しかけてくださる人です。
他のお客さんにだって、笑顔で接していて、人と関わりたいからお店をしているって。
「まぁ、その魔導師様がどうであれ、その魔石はミシェルちゃんの為を思って物であるのは確かだし、今の通り、ミシェルちゃんだからこそ使えるみたいだから。さあって、これを姐さんに伝えないと!」
「お祖母様は、プージャ様の所にいらっしゃるのですか?」
「ううん、姐さんは今、また動いているから正確にこの場所に居るってのは分からないけど連絡する手段はあるから。」
そうなんですね、お祖母様はまた何か考えて行動されて。
私では到底考えつくことはできません。
「大丈夫、姐さんも昔みたいに無茶はしないよ。大切な者があるからって。でも、その大切な者を守る為には、動かないといけないって言っていたからね。」
「大切な者?」
「ミシェルちゃん達だよ。確か、息子さんの方にも手紙を送ってるそうだよ。」
「父様に。」
「だから、そんなに心配しないで。勿論、私も姐さんが無茶しないように、気にかけているからね。さあって、私の用は終わったし、早く帰らないとね!」
そう言って、プージャ様は風のように去っていきました。
お祖母様から預かったという魔石のネックレスは、常に身につけておくように約束して。
「一体、私はどうすればいいのかしら。」
「ミミ、大丈夫。俺が絶対にミミを守るから。」
「旦那様。」
「旦那様だけではありません!私達も奥様をお守りします!」
「そうです!だから、ご安心を!」
「エレナ、皆。」
ふふふ、なんだか、色々なことが一気に起きて、混乱してしまったけども、そうだった。
私には旦那様も、エレナたち皆もいるものね。
「ありがとうございます。旦那様。それに皆も。」
まだ、私が狙われているとは決まっていないもの。
まだまだあちらも情報は掴めていないことも多いと思うわ。
「だから、その間に自分のことは自分で守れるようにしないと。」
「ミミ?」
「その、旦那様。1つ行きたい場所があるですが。」
「行きたい場所?」
行きたい場所。
それは。
「お邪魔します。ルーミックさん。」
「やあ、来ると思ったよ。お嬢様!それにそんなに睨まないでくれよ。公爵様。私からの贈り物はそれほど悪いものでは無いだろう?」
笑顔でコチラを眺める美女。
そう、ルーミックさんのお店。
「えぇ、とっても私の手に馴染む素晴らしい物ですね。」
「そりゃそうさ、あれは何十年も掛けて、唯一1人のためだけに作られた魔石だもの。」
「まさか、あの頃から?」
本当にあの頃から、私の為に作られたというの?
そんな。
「そうだよ。姐さんから依頼されて、作り始めたんだ。元々、その魔石は姐さんが持っていたもので、それを私に預けて今の形にしたんだよ。」
「お祖母様が。」
「随分時間がかかったけども、最高傑作となってるよ。まぁ、出来ればこれがお嬢の手に渡ることは無かった方が良かったんだけどね。」
「ルーミックさん?」
何故、ルーミックさんはそう言うの?
何故、ルーミックさんは寂しげに笑うの?
こんな風に笑う方ではないのに。
「そりゃあ最初はあの姐さんからの依頼だし、魔石を弄ることが出来るなんてとっても面白そうだから、すぐに返事したさ。でも、それを扱うことになる子がまさか、とってもいい子で、私はその子のことが大好きになったんだ。」
「その子って。」
「そうさ、お嬢。君のことだよ。小さな時からずっと見守ってきた小さな私の可愛いお嬢様。あの領地にずっと居てくれれば、こんな物を渡さなくても良かったのに。何の因果か、領地を離れてしまい、しかも、姐さんの感通りにまたアイツらが動き始めたんだ。そうでなければ、この魔石は封印でもしようって思っていたのにね。」




