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そうやって憎たらしげに笑っていたビィが今でも思い出される。
というか、ミミはもう。
「ビィには会ったか!?」
「えっえぇ。少し前まで居ましたよ。ノエルママとジウさんと一緒に。」
「師匠達もか!」
一家総出か!
クリスも、裏切るとは思わなくて初手が大分遅れてしまった!
「えっ?ビィが?いいえ、何も。」
「えっ、そっそうか。」
「なんですか?ビィに何かあるんですか?」
「いっ、いや、その、ビィと言うか、師匠達一家はその暫く、殿下達の命令で隣国と共に仕事をしてもらうことになって、その暫く屋敷から離れることに。」
「えぇ!?そっそんな!そんなこと一切、聞いてません!!一体、仕事って?庭師ですか?いいえ、ノエルママ達もってことは、えぇ、一体、どんなことをするんですか!?」
しまった!
アイツ、敢えてミミに何も言わなかったなっ!
俺から伝えさせるために!!
「そっ、それがな。」
包み隠さず、今まであったことをミミに伝える。
殿下から無茶ぶりされたことも、全部。
「成程、それは、殿下達のせいだけではありません。私のお祖母様がきっと、この作戦を考えている人の中の1人です。」
「お祖母様が?」
「えぇ、陛下は弟子ですから、きっと、お祖母様から言えば聞きます。お祖母様のお弟子さんたちは、みんなお祖母様のことを盲信している節がありますので。」
「盲信か。」
「えぇ。一応、皆さん、考えてらっしゃるとは思いますが、お弟子さん達は、お祖母様のすることすること素晴らしいと思うことが多くて。それじゃあ、ダメだとお祖母様も言ってますが、なかなかそれを変えることって難しく。お弟子さん達って、今までお祖母様に助けられたって方が多くてですね。それも九死に一生って方が多くて。」
「成程。自分の九死に一生を救って貰い、尚且つ、その後も弟子として慕っている訳だから、なかなかその盲信は無くならないな。」
「えぇ。しかも困ったことに今だに、お祖母様は勢力的に色々な場所に旅行だのなんだの言って、回ってます。お祖父様が一緒に居てくださるので、少しは危険なことには関わってはいらっしゃらないとは思いますが。」
はあと大きなため息を付くミミのそんな姿も、可愛らしいが、普段とっても優しくて、どんなことでも受け止めてしまうミミがここまでとは。
本当にどんな方なのか。
「お祖母様のことは置いといて、何よりもビィ達のことです。ノエルママは元々レオルド国にいらっしゃった方達なので、分かりますが、ビィは確か1度も行ったことがないと聞いてますよ。そんなビィがあちらの方達と一緒になんて、大丈夫なのかしら。」
「そうだな。正直言って、ビィはあまりこの屋敷から出ることも無く育ってきた。一応成人はしているが、それもついこの間で、まだまだ若い、いや、幼い所がある。実践経験もこの国以外だと無いし。」
「実践経験とは?ビィはただの庭師ではないのですか?」
「あっ、そうか。ミミは知らなかったんだな。」
「えっ、一体、何を?」
「奥様、私、一応、奥様の所のメイドさんと同じことをしてるんだ。」
「ビィ!!」
「お前、いつの間に!?」
「旦那様が帰ってきたって聞いて、きっと直ぐに奥様の所行ってるだろうなって思ってね。案の定だけど。一応、今のところは情報収集がメインで時々、庭師以外でも働いてるだ。母さんの方がそういう能力持ちの血筋だからね。うちの旦那様が獣人族であることがバレるのは国の一大事になってしまうから、基本、そんな傾向がないように情報収集は怠らないようにしないといけないんだ。私の前は母さんがしていたことを受け継いでるだけだけど。」
「ジウさんが。」
「そんなに難しいことじゃないよ。昔っから母さんにしっかりと訓練してもらってるから。それにそんなに頻繁じゃないし。怪しいなって思った時に動くのが基本だから。」
そうだな。
ジウ以外にも何人もいて、数人でチームを組んで動いてもらっている。
ビィもその中の1人であるが、特攻隊長的役割で、国中を動いて回っている。
ビィはジウの能力も受け継いでいるが、ノエルの能力も受け継いだハーフだから、情報収集専門の者たちよりも動きやすい。
「それに私には、親父の能力も受け継いでるから、他の人よりも、もし戦闘になった時には対応出来る。まぁ、母さんはそっちも凄いけども。」
「ノエルママの能力?」
「黒熊族だから、うちの親父。それこそ怪力持ちだし、大剣を振り回せるんだ。私も。」
「そうなの?」
「うん、昔、親父もそれに爺さんも騎士団長ってのをしてたらしいし。今では爺さんは庭師となって、親父も何故か料理人になってるけども。」
確かムエ爺は、お爺様の代にさっさと息子に騎士団長の座を受け渡して、元々好きだった庭いじりを極めて庭師になったんだったけな。
それを追って、師匠はここに来て料理人として修行して、今では料理長だからな。




