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「ハックッシュン!!」
「風邪か、クリス。」
「いや、多分、違います。」
寒気はするが、これは風邪とかの類では無い。
エレナが奥様の所に、旦那様の部下の方と出発されて、数日。
もう奥様の実家の方に着いているだろうが、きっとエレナが変なことを言っているのだろうな。
「奥様に変な入れ知恵をしてないと良いが。」
「ハッハッハ。お前も色々と大変だな。」
「その大変を連れてきた方が何を。」
目の前に豪快に笑うは大旦那様の現執事であり、元この屋敷の執事長、つまり私の前任者であり、私の師匠でもあり、そしてエレナの叔父に当たる方。
曲者で一筋縄ではいかず、この方がいた時、どれほど頭を抱えたことか。
「エルビスさん。今回は来ていただいて助かっておりますが、本当にこちらに来た理由はいつになったらお話頂けるんですか?」
「ん?本当の理由など、最初に言っただろう?この地を少し離れる若様の変わりをする為だ。」
「はっ、それは建前であることはよく知っています。」
エルビスさんはそれこそ突如やってきた。
旦那様が無茶を言って、仕事を休み、奥様の実家帰省について行った。
その日の午後にエルビスさんはやって来て、普通に業務に取り掛かっていた。
それを見ていたエレナもそのまま業務に取り掛かっていて、私は一瞬、普通の光景かと思ったが、そうじゃないと気づき、エルビスになぜ居るか問いかければ。
「えっ、若様の代わりだよー。」
とピースサインを出されながらいわれて、思わず持っていた書類を叩き落としてしまった。
「わぁお、数年見ない間にバイオレンスになってしまって。」
「叔父様、クリスさんは昔っからこんな感じよ。」
「へー。そうだったかー。まぁ、エレナ達は幼なじみだからなー。俺が知らない顔も知ってるよね!」
「っで、本当に叔父様ったら旦那様の変わりに来たの?大旦那様の傍を離れて?」
「そうそう。本当は旦那様が来たがったんだけども、旦那様もあちらで外せない用があってね。だから変わりに俺が来たんだ。奥様もこちらに来たがったけども旦那様が逃げ出さないようにって見張りであちらにね。」
「なるほど。でも、だからって叔父様がわざわざ来ることもないのでは?叔父様って一応、大旦那様の右腕とか言われてるでしょう?正直言って、多少はうちの旦那様も領主としての仕事を始めているけども、でもそれをわざわざ叔父様がここまできて変わってするほどのものはしてないハズ。」
「いやいや、結構してるんだよな。これが。若様、結構頑張ってるんだよ。それに、今はコッチにいた方がいいんだよ。俺がね。」
そう言って笑うエルビスさんは忘れていませんよ。
エレナは呆れたようにして、それ以上聞きはしてなかったけども、ずっと私は気になっていました。
何故、エルビスさんがこちらにいた方がいいのかと。
「ここ数日、何も言わずに、ただこちらのお手伝いをして下さっていましたが、何かを気にかけているのは分かっています。そして、今回、旦那様がこちらに急に戻ってくることになった。それも、奥様のご実家で得られた情報のおかげで。まるで、そうなるのが分かっているかのようなんですよね。今のエルビスさんの行動は。」
「やだなぁー。分かってなんかいないよ。ただ、本家から言われただけさ。今、お前はこちらにいた方がいいって。」
「本家って、つまりレオルド国にあるクロオード家ですよね!それってつまり暗部ってことじゃないですか!!」
「んー、まぁ、そうなるよねー。」
エレナ達は分家だが、大元を辿れば隣国のレオルド国の暗部の長を務めている山猫族のクロオード家の血筋。
つまりその本家からの命令ということは、レオルド国の暗部から、つまりつまりそれって。
「レオルド国の王族からの命令ってことじゃないですか!!」
「んーー、まぁ、そうなるかなぁ??」
「そうなるかなぁ?じゃないですよ!!そんなこと、旦那様が知らない間に!!」
「大丈夫大丈夫!うちの旦那様を通じてだから。だからちゃーんと話はいっているさ。ただ、若様はタイミングが悪かったからね。話がいかずのままだったけど、ちょうど良かったよね。若様の奥様の方から情報をえられたんだからさっ。」
ちょうど良かったと笑うエルビスさんだが、絶対に違うな。
その情報が奥様の方からくると知っていた、もしくは予想されていた。
だから彼がこっちに来たという訳か。
「流すつもりですか?情報を。」
「いやー。多分、こちらの陛下からあちらに情報はもう行ってるだろうなぁ。だから、わざわざこちらから情報を流さなくてもいいさー。」
「じゃあ、なんでまだこちらに?」
「んー?なんでーー??」




