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ギギギッ。
思わずそんな擬音が聞こえそうなぐらい、重い首を回せば、何故いる?!
確か今日は領民達とりんご狩りをするって言ってたはずだ。
だから、朝から送り出したはずなのに。
「もうっ、お兄様ったら酷いですわ。姉様が帰ってくるなら、帰ってくるって教えてくれないと!もう、良かったわー。今日のりんご狩りをたまたま途中でやめて帰ってきて。じゃないと姉様に会えるのは夕食の時だったわ。ふふふっ。」
たまたまじゃい。
絶対に違う。
コイツ、姉上が帰ってくる日を知っていながら、知らないフリをして出かけていき、姉上が帰ってくるであろう時間に戻ってきたのだな。
僕が、邪魔をすることがないようにと。
「あら!お義兄様も一緒だったのですね。ようこそ、お義兄様。遠いところからよくいらっしゃいました。こちらにいらっしゃったのは結婚式以来ですね。ふふ。」
「あっ嗚呼。お邪魔しているよ。」
「お邪魔だなんて、お義兄様も家族ですから!いつでも来てくださって構いませんわ。」
一言目の訳:結婚式以来1度も来なかった公爵様がよくノコノコと現れやがれましたね。
二言目の訳:仕事が忙しすぎて来られるわけがねぇよな。
だな。
まぁ、しかし、リディにしてはこれだけの訳、ないよな?
リディがいつ公爵様に飛びつかないか気配に気を配っておかないと。
そう心配していたが、一向にそんな様子はなかった。
可笑しい、あのリディが。
訳的にはあっているはずだが。
「そういえば、姉様、1つ小耳に挟んだことがありますの。」
「えっと、どんなことかしら?」
「あのね、ある領民の話なんだけど。ある夫婦の夫がね、浮気したんだって。っでね、それはそれは奥さんも怒ったそうだけど、夫を愛しているからってその浮気を許したんだって。でもね、まさかまた、浮気をしたんだって。1度目がバレた時、それはそれは泣いて縋って、そして、もう二度としないと誓ったのにね。でね、なんで浮気するかって聞いたら、病気なんだって。浮気は病気でね。なかなか治療することが出来ない、完治することが難しい病気。難病なんだって。だから仕方がないんだって。だから、もしその浮気が辛くて辛くてしんどいなら、1番はその人と離婚することなんだって。じゃないと、それこそその相手が病んでしまうんだって。」
「そっそうなの?けど、一体、誰がそんなことを貴方に話したの?」
「えぇ?みーんな話してくれるよー。こういうことは先にちゃーんと知っておくといいよって。特に、お姉様たちはね、私が外見は美人だからってね、よく分からない貴族に騙されないかって心配してくれてるの。君のことを一生愛するだの何だの言って、でも結婚したら愛人がいたとか、ね。そんなのになったら、それこそ逆にそんなクソ野郎は尻にひいてやって、お嬢の好きなようにやりなさいって。私にはそれができるからって。そんな野郎は愛する価値も無いやつだから、利用だけしてやりなさいって。」
うわ、うわ、うわーーー。
エグいな、これは。
後ろで黙って聞いている公爵様の顔が青白い。
何もいうことができずにただただ耐えるしかない現状だよな。
リディ、こいつ、本当にエグい奴だ。
知っているはずなのに、知らないフリして、しかも姉上に忠告する体を装って、公爵様を攻撃している訳だ。
そりゃあ、今、なにか言えば、それこそ何故だとリディが問い、一応公爵様の前ではなーんにも知らない義妹に自分の愚かな行為がバレてしまうという最悪の事態になるだろう。
ただでさえ、敵しかいないこの状況で、表向きには慕っている義妹まで敵には回したくないだろう。
それに今の状況で知らないということは、僕も母上も義妹には伝える気はなかったという事だと考えているのだろう。
公爵様は。
幼い妹までも、姉がそんな悲しい結婚していたなんて、同じ女である妹には言うつもりはないのだろうと。
残念ながらそれは不正解だがな。
リディはそんな公爵様の考えを見通した上で、知らないフリをしているのだ。
「でも、姉様は大丈夫よね!だって運命的な出会いをして結ばれたんだもんね!もうね、皆の憧れだよ!姉様とお義兄様のお話は!」
こうやって攻撃し続けるつもりだ。
物理ではなく精神的に攻めるつもりだ。
まさかの行動だが、成長したと褒めればいいのか、それともエグく成長してことに対して嘆けばいいのか。
公爵様、きっと僕や母上を警戒しているだろうが、1番警戒しなくてはならないのは。
「ふふふ、姉様と公爵様の話をねー、みーんなに話したの!私の憧れの恋愛小説みたいだもの!」
キラキラと目を輝かせて見つめているように見えて、目の奥は全く笑っていないこの妹。
彼女を1番に警戒しないといけないのだ。
公爵様は。




