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本当にうちの姉上には困ったものだと何度頭を抱えたことか。
しかし、何度抱えても、やはり誰よりも美しく愛おしい存在だから、結局は姉上を許してしまう。
そう、今回のことだって、なんで僕に、僕達に話さなかったんだって、思うけども、許してあげようと思っていたのに。
「ねぇ、兄様、姉様はいつになったら帰ってくるの?」
「リディ。」
「私、ずっとずっと待ってるのよ。悲しげに帰ってきても大丈夫よ。私がずーっとずーっと傍にいて慰めてあげるから、ねっ。」
ねっ、じゃないよ。
我が妹ながら恐ろしい。
まだまだ幼いと思っていた妹にこれほど恐ろしさを感じるなんて。
妹のリディアは、それこそ外見だけなら天使のようだ。
母上から受け継いだ外見に、唯一、父上から受け継いだタレ目のおかげで、母上は少しキツ目に見えるのが、リディアは本当に優しげで、そして儚げだから天使のようだと領民達には言われている。
嗚呼、間違えた、外見だけは天使のようだと言われているな。
それこそ、領民達からは姉上は女神、リディは外見天使の暴君だったけ。
姿で騙される領民はもう誰一人として居ない。
「それは、リディだけじゃなく、僕達兄弟でだろう?」
「えっ?兄様も?別に兄様は必要ないわ。兄様はお勉強が忙しいんでしょう?私に任せて。姉様は私がちゃーんと慰めるからね。もう二度とお嫁に行こうなんて思わなくなるぐらいにね。」
笑顔が怖い。
本当に怖い。
いや、普段はここまでではない。
確かに、姉上のことに対して、結構恐ろしいことを考えがちだが、ここまでではない。
もう少し穏やかなはずだ。
しかし、愛する姉上を利用しようとする輩に、我慢の限界を超えて居るのだろう。
姉上を心から慕い、それこそ4歳の時には姉上のことを本当に女神だと思っていたぐらいだ。
女神様が私たちの為に舞い降りて、姉妹としていてくれているのだと。
まぁ、これも僕や領民達のせいもあるんだが。
姉上が女神ではないけど、女神だということを今は知っているけども。
そんな姉上至上主義なリディにとって公爵様は目の敵にしてもおかしくないのだが、そんなのは一切ない。
僕は聞いて、それはそれは怒りが込み上げたというのに。
何故かと聞けば。
「何故って、だって、姉様は私達の為にお嫁に言ってしまったのでしょう?それが、どんな人でも一緒だったでしょう?そりゃあ、なんて契約を持ちかけるんだと腹が立ったけども、でも、きっと姉様は人を見る目はあるから、それほど酷い人ではないとは分かっているし、それが分かっていたら誰に言われようと行ったのよね。それってつまり、公爵様でなくても、私達がいれば言ったわけだし、私は、正直言って、姉様に怒ってるの。私達を思って、それこそ自分を犠牲にするなんて、なんて馬鹿げたことをしたんだって。だけど、そのことを怒ったって、多分、姉様はまたする。だから兄様が必死に領地を建て直してもらって、私は姉様に二度と嫁に行かなくても、この屋敷で過ごすことが姉様の1番の幸せだって分かってもらうの。うふふ。だから、正直、公爵様とかどうだっていいの、眼中にないの。」
そう言ったリディの目はそれはそれは闇のように深い黒だった。
つまり、リディにとって公爵は姉上にとってなんの役にたつことも、害になることもないから、どうでも良いと。
だからこそ、なによりも姉上に、黙って言った姉上に怒っているが、しかし、怒ったところで効果がないと知っているリディはある意味の実力行使をするといっているのだ。
もう二度とこんなことをしでかさないようにと。
でも、それはやりすぎなような気がするが、今のリディに言ったところで聞きやしないし、下手したら、僕にも何も言わず勝手に実行するかもしれない。
そうなったら困る。
だから、今は聞くだけで留めておく。
姉上が帰ってきたら、きっと満足して正気に戻るはずだから。
そう思っていた。
「イーサン君。君の言った通りだ。始まりが始まりだったし、その後だって。聞いていたのなら、よく分かっているだろう。君のお姉さんに対して不誠実な態度をとっていたし、この事はずっと消えない。だからこそ、私はこれから先、君のお姉さんに、ミミに、そして、君たち家族に信じてもられえるように、私の一生掛けるつもりだ。」
だからこそ、今の状態をリディに見せる訳にはいけないのだ。
勿論、僕だって本当に怒っている。
でも、まだ僕は常識を弁えているはずだ。
だから、公爵様に対して言葉だけで反抗したのだ。
しかし、リディがこのことを知ったら、それこそ公爵様に何をしでかすか。
今の公爵様は姉上に影響を及ぼす人物となってしまっている。
これが害になるとリディか判断したら。
とりあえず、なによりも姉上にリディを止めてもらわないと。
そう思い、まずリディと姉上だけを会わせないと振り返れば、とってもいい笑顔の悪魔がいた。
「あらっ、姉様!帰ってらっしゃったのね!」




