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僕の姉上は、少し年の離れた姉上で、僕が思い出される時には必ず姉上が傍で世話をしてくれていた。
そんな姉上が僕は大好きで大好きで、ずっと傍をついて回っていた。
それはすぐ下の妹もそうで、よく姉上を2人で取り合いしていた。
姉上は基本のほほんとしていて、落ち着いているけども、少し危なかっしい所があるから僕達が守らなきゃと妹とは常日頃話していた。
姉上は僕達と違って父上にそっくりで、僕達は母上似だ。
外見も中身も。
母上は父上をとても愛していて、父上によく似ている姉上もとても大事にしている。
いや、心配しているとも言えるか。
勿論、僕達のことだって大事にしてくれているし、愛してくれていることはよく分かっている。
けれども、父上と姉上はのんびり屋で、お人好しすぎるから悪意をもった人に騙されやしないかと、僕達は心配で心配でたまらない。
といっても、姉上達が騙されたことなんてないんだけども。
父上も姉上も人を見る目は確かで、本当の悪人にはまず目もむけない。
騙そうとやってきた人達も、結局、最後には姉上達の味方になってしまう。
根がいい人だと本能的に分かっているんだろう。
逆に僕達は基本他人を信じずなので、それを父上と姉上がカバーしてくれているのかもしれない。
特に母上は。
母上は父上が言うには、他国のお姫様だったとか。
確かに母上は、その辺の貴族とは何かが違うし、でも、他国のお姫様がこんな辺境伯に嫁ぐとは思えない。
だから他国のある程度地位のある貴族の娘なんだなって思っている。
本当になかなか会えないけども、母上のお爺様、お祖母様だって会ったことはあるけども、国王陛下とは思えないし、本当に孫に甘い爺婆だと思う。
2人とも美人だけども。
特にお爺様の方は孫馬鹿で、特に姉上を可愛がっていた。
そりゃあ、僕達よりも姉上の方が愛らしいものだからね。
だから、多分、姉上が結婚する時は父上よりもお爺様の方が滅茶苦茶反対するだろうなっとは思っていた。
けれども、まさか、お爺様達には内緒で結婚するとは思わなかった。
僕達だつて、寝耳に水の状態だったのだ。
姉上の結婚は。
急に現れた求婚者に、驚きながらも何が変だと感じた。
だって相手はこの国の公爵様だから。
まぁ、見た感じ普通のイケメンだったが、何かあると思い、少し調べてみればやはり事情があった。
セッカから聞けば、なるほど。
だから、姉上はお爺様達にも何も言わずに行ってしまわれたのだな。
いつ帰ってもいいように。
お爺様達は、多分、何処かの国の地位のある貴族であることは間違いないから、もし、姉上の結婚が契約結婚だったなんて知れたら、それこそ姉上はお爺様の国に連れて帰られるかもしれない。
そんなの絶対に許さない。
だからこそ、僕は気づいていたけども黙っていたんだ。
それこそ母上にも。
でも、ついセッカと父上の会話を聞いてしまった母上。
それはそれは恐ろしかった。
数日、自分の作業小屋に籠り、一体何を作っていたのやら。
まぁ、流石に公爵相手に大層な物を使うことはないだろうが、目を光らせておかないと。
そう思いながらも、姉上がこの家に戻ってくることを今か今かと待ち望んでいたのに、まさか、公爵様が姉上を本当に愛してしまうとは。
しかも、姉上も酷い始まりでしかなかった公爵様を愛してしまうなんて。
「本当に姉上は酷すぎる。」
本当に、本当に、姉上は、姉上の才能には困ったものだ。
姉上には2つの才能がある。
自分自身のことを、無能だとか、平凡だとか言ってはいるけども、そんなことはない。
僕が異様に頭がいいのとはまた違った才能を姉上はもっている。
とても厄介な。
1つは弓の才能。
これは本当に凄まじい。
姉上は天才、いや、神の域に達している。
正直、姉上は昔狩りをしていたぐらいでまともに弓を練習したことはないと言っていたが、百発百中だ。
それも同時に3発打ってもだ。
そんな姉上を見たお祖母様、父上の方のお祖母様だ。
弓の女神なんて言われているお祖母様に連れられて、諸外国を幼い時に回ったらしい。
それも僕が産まれる前だ。
幼子を連れ回すなんてって思ったが、お祖母様は規格外な人だ。
それを嫌がらずついて行った姉上も姉上だが。
その時に色んな地位の人達と会ったそうだが、どの人とも結局親しくなって可愛がられていたという。
そうだ、姉上の才能はこれだ。
弓よりも恐ろしい才能。
相手の懐に容易く入ってしまう才能だ。
領民は勿論、あまり交流のなかった人達、つまり他の貴族でさえだ。
しかも本人には全くと言って自覚はない。
父上から聞いた話だと、デビュタントの時に、ある貴族の娘にそれはそれは気に入られてしまい、逃げるように帰ってきたとか。
幸いだったのが、うちが片田舎であったことと、姉上が自分のことをあまり話さなかったこと。
故に、相手は姉上のことをあまり知らなかった。
でもその一瞬でさえ、姉上は人の懐にはいり、そして懐かせてしまうのだ。




