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「姉上、僕はずっとずーーっと待ってました。姉上がいつか離婚して家に帰ってきてくださることを。」
「えっ?」
「だっておかしいではないですか。今まで王都にいくことなんてほとんどなかった姉上が急に結婚だなんて。しかも相手は縁もゆかりも無い公爵家ですよ?母上達は昔行った夜会だということで信じてましたけども、僕は全く信じてませんでしたから。」
「そっそうなの?」
まさか、イーサンがそんなことを考えていたなんて。
お母様に似て、とっても頭の回転の早い子だっていうことは知っていたけども。
「ええ、どうせ、僕達のデビューやら学費やらを考えて、契約結婚でもしたのだろうと思いました。正直、どこかの後妻とかならば止めましたが、とても美形で、優秀だと言われている公爵様がわざわざやって来て結婚を申し込むなんて、きっと裏になにかあるっとは思いますが、姉上に対して害のあることはしないだろうと考え、止めませんでした。」
えぇっと、これほどの少ない情報から本当によく考えられているわ。
本当に、我が弟ながら天才なのでは?
昔っから、機転に優れていて、幼いながらも領地運営にも興味があったものね。
辺境で、なかなか難しい土地だからこそ、お父様達は困ることもあったようだけど、それを逆に利点として考えられていたものね。
そんなイーサンだから、ちゃんとした学校に通えば、それこそとっても凄い辺境伯になると思ったのよね。
お金さえあれば、領地を豊かにすることが出来る辺境伯に。
だからこそ、イーサンのためにも地位を返上するのではなく、守っていきたかったし、学費のためにもお金はすぐに必要だったのよね。
それをイーサンが気づいていたなんて。
でも、なら何故?
「なっ、なら離婚なんて、何故?」
「えっ?どうせ、結婚できない相手とか、愛人がいるとかでまともに結婚することができないからこそ、この片田舎までやって来て、姉上に契約を申し込んだのですから、最長でも数年で戻ってくるとは考えていました。離婚してね。」
わぁ、本当に頭のいい子だわ。
そりゃあ、私も数年後にはそんなこともあるかなって、結婚当初は思っていたわ。
それをエレナに言えば、相当怒っていたけども。
それで、御屋敷辞めて、私について行くなんても言っていたけども。
「でも、話を聞けば、離婚ではなく、どうやら逆だとか?」
「話?」
「えぇ、先程まで義兄上は父上の書斎でお話されていたでしょう?その話が聞こえてきましてね。」
「えっ?」
「僕、今、領地運営を学んでて、父上の書斎の更に奥にある資料室でよく勉強しているんです。今日もしてましてね。よく聞こえるんですよ。書斎での話し声がね。」
「そっそうなの?」
まさか、もう領地運営について学んでいたなんて。
本当に賢い子なんだから。
でも、あの資料室で学んでいたなんて。
「母上の怒った声もよーく聞こえていました。まぁ、母上が怒るのも当然ですが。それでもその後の会話を聞いて居れば。まぁ、父上の考えはよく分かります。正直、姉上は領地から出るべきではないと思いますが、でも、それでは姉上の幸せの邪魔になる。」
「私の幸せ?」
「僕は姉上の幸せを何より望みます。だから、どこの骨の馬かも知れない者に姉上を攫われることになったらそれこそ、何をしでかすか分かりません。その意味、義兄上はよーく分かりますよね?」
イーサンはニッコリと微笑みながら旦那様を見ているけど、目が笑っていません。
この目、お母様にそっくりです。
「だからこそ、今の僕は義兄上を認める訳にはいけません。例え、今は姉上を愛していようとも。いつその気持ちがひっくり返るか分かりませんから。だって、始まりが始まりですからね。僕はあなたを信じられません。」
「イーサン!?」
「いいんだ、ミミ。」
さっきからとっても失礼だったけども、認めないとか信じられないとか。
旦那様にとても失礼では?
旦那様は沢山援助してくれて、それこそイーサンの学費だって援助してくれるって言ってくださっているのに。
思わず止めようとしたけども、それを旦那様に止められてしまった。
一体、何故?
「イーサン君。君の言った通りだ。始まりが始まりだったし、その後だって。聞いていたのなら、よく分かっているだろう。君のお姉さんに対して不誠実な態度をとっていたし、この事はずっと消えない。だからこそ、私はこれから先、君のお姉さんに、ミミに、そして、君たち家族に信じてもられえるように、私の一生掛けるつもりだ。」
「言葉ではなんとでも言えますよ。僕はそんな奴らを沢山見てきた。」
「今は信じられなくてかまわない。」




