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「あっ、あの、旦那様。」
「どうした?ミミ。」
とってもいい笑顔の旦那様。
その笑顔は素敵だと思いますが、その。
「あっあの。ちっ近すぎでは?」
「ん?そうかい?」
そうかい?では、ないですよ!
絶対に近すぎます!
お母様と話をして、ようやく落ち着いて、お母様と部屋に戻ってきたら、何故か旦那様とお父様がしっかりと握手してて、何故?って思いながらも、仲が良いことはいいことだと納得して、お母様が素直にではないですが、旦那様に謝罪され、なんとか和解し、その後またお母様が色々と言いそうになったのを止めて、さっさと部屋に戻ってきたのですが、部屋に入ってから、いえ、再度お父様の部屋に戻ってからずっと旦那様、私の腰を抱いたままなのです。
距離が近すぎます。
部屋に入ってからもずっとなんです。
おかしくないですか??
「旦那様、何か、あったのですか?父と話していて。」
「いや、特に何かあった訳ではないよ。でも、義父上と話していてとても感じたんだよ。俺のお嫁さんはやはり魅力的過ぎて、誰もが好意をもってしまう人だって。だから、いつどんな時でも安心していてはいけないと。」
「なっ!そんなことはありません!」
「いいや、そんなことあるんだよ。俺の奥さんは謙虚すぎて、自分がどれほど素敵な女性であるかを理解していないだけでね。」
もうっ、お父様はいったい何を話したの??
旦那様が真剣な顔してこんなことを言うなんて。
私は本当にどこにでもいるような平凡な存在だと言うのに。
誰よりもそのことを正しく、自分自身が理解していると思っていますし、お父様達だって、そう理解していると思っていましたが。
確かに少々親バカな所はありますが、それを他所に言うような方ではないと思っていました。
けど。
「本当に、父と何を話したのですか!?」
「だから、特に何にもだよ。」
いくら聞いても旦那様は答えてくれず、そして、腰を抱いている手もそのまま。
どうしてと聞いても、私を守るためだとかなんとか。
もう何がなんだか分かりません。
これは後でお父様に聴かないと。
「そう言えば、義母上なにか病気でも?」
「えっ?いいえ。お母様はとても元気ですよ。お腹の子も元気に育っているって聞いてますし。」
「そうかい?なら、何で、匂いが。」
「匂い?」
「嗚呼、義母上から薬の匂いがしてね。そんなに濃い匂いではないけども、俺の鼻では匂ってきてね。しかも色々な種類の匂いだから、いったいどうしたのかと思って心配になってね。」
「嗚呼、それは。」
お母様の趣味について話せば、旦那様は驚いていました。
なかなか珍しい趣味ですもんね。
でも、うちでは特に珍しいものでもないんですよね。
「お母様だけではなく、弟も詳しいんですよ。」
「弟って、長男の。」
「はい、この家の跡継ぎでもあります。歳はまだ10歳ですが、とっても優秀で、お母様の薬草の知識も受け継いでいて。まぁ、妹も興味をもっていますので、うちの家族では薬草は身近なものですね。」
「そっそうなのか。」
「はい、そうですね。ただし、違うところが1点。僕の歳は先日の誕生日で、11歳になりましたよ。姉上。」
「えっ?」
「ドアが開いていますよ、姉上。」
旦那様と2人っきりのはずの部屋に、懐かしい、でも記憶よりも少し低くなったような声が聞こえる。
ドアを見れば、上手く閉まってい無かったようで、隙間が空いていた。
「入っても構いませんか?姉上。」
「えっ、えぇ。」
返事をすればすぐ様入ってきたのは、やはり記憶よりも背が高くなった私の弟。
「イーサン。」
「お久しぶりです、姉上。そして義兄上。」
しっかりと挨拶をする弟の姿に、感動も感じるが、何よりも違和感が。
だって、記憶の中にある弟のイーサンはこんな感じではなくて。
「えぇ、えぇ、聞きましたよ、義兄上。まさか、姉上ほど素晴らしい女性を捕まえておいて、他に意中の相手が居たとか。えぇ、えぇ、義兄上は本当に見る目がないのですね。」
「あっ、デジャブ。」
「ミミ、もしかして、弟も。」
「あはは、その、そうです。」
そうです、そうでした。
やはり、そうでした。
イーサンは、超シスコンの甘えん坊。
少し出掛けていた時でも、帰ってきたら勢い任せて抱きついてきていた、幼き時。
いえ、つい1年前もしていました。
そんな彼が、こんなにもしっかりとしたなんて、って驚いてもいましたが、何よりも違和感があったのです。
何年も改善されなかったあのシスコンが、この1年で改善されることがあるのかと。
でも、これは改善された訳じゃなくて。
「あはは、旦那様。第2ラウンドかもしれませんわ。」
「マジか。」




