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「そんな、そんなこと。」
いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ!!
ミシェルと出会えない、ミシェルと夫婦になれない未来なんて。
「まぁ、それはもしもの未来でしかないので。そんなにお気になさらず。」
「いや、でも。」
義父が言い始めたことですよね?
想像するだけでも辛すぎるのに。
それを想像させたのは義父なのに。
気にするな、なんて。
「それよりも、です。今話した通り、ミシェルの才能であり、危険性はよくお分かりになりましたよね?」
「えっ、えぇ。」
そっそれよりもって。
さっきも思ったが、それを想像させたのは義父だからな!!
なんだ、この理不尽。
今の俺、義父に振り回されてはいないか?
この人、祖母のことも結構言っていたが、確かにその血を受け継いでいるぞ。
今、現在、振り回されているから。
いや、今は気にしてられないよな。
今はミシェルの話だ。
「現在は、色々な縁が結ばれ、公爵様と結婚することになり、それこそ、ミシェルは幸せになっています。公爵様ほどの地位の方ならば、無理矢理奪おうとする方はいないでしょうし、それができる王族は、まず陛下がミシェルの幸せを壊すようなことをするはずがないでしょう。」
まぁ、それは確実だろう。
それこそ、ミシェルが離婚したいと言い出さない限りは、陛下は手を出さないだろう。
いや、それは逆に離婚したきと言い出したりしたときは力技でも、それこそ王命でもして別れさせられるだろうな。
そんなことは絶対にさせないが。
「つまり!この国の者ならば、誰もミシェルを無理矢理、嫁にすることはできないという訳です。」
なるほど。
陛下以外は地位的に、俺より上はいない。
だから、例え、どんなにミシェルに惚れようとも奪われるわけはない。
「しかし、しかしですよ。この国ならば!というわけで、もし他国の、しかも王族だったら話が違うんです。」
「あっ。」
そうか、そういう事か!
「もし、ミシェルを気に入ったのが、他国の王族の場合、国際問題にもなりかねないから、もしかしたらと。」
「ええ。まぁ、王族だけではなく、それこそうちの国よりも大きな力をもった国の公爵同等の力を持つ者だって、可能性はあります。今まではこの辺鄙な場所にやって来るような、それこそ他国の方等、早々居ませんし、居たとしても、それほどの方は居ませんでした。だから、ミシェルは今まで何も知らずに過ごすことが出来ましたが、王都では、そうは言ってられないのです。何処で出会うか分かりません。」
「それは、確かに。」
王都に集うのが一般的だ。
故にいつ、どこで出会うかも分からない。
もしかしたら、もう出会って。
「いや、それは今のところなさそうですよ。それこそセッカが暗躍していて、監視してましたし。そこから情報としてミシェル自身がなかなか公爵邸から出ていなかったと聞いていました。でも、それは公爵様がミシェルを気にしていなかったから、ですよね?」
「うっ。」
「そんな気まずそうな顔をしなくても。そのおかげで、今の今までミシェルは公爵様の御屋敷の者以外には知られてはいなかった。それは結果、良かったんですよ。もし、ミシェルが色々な場所に出ていたら。公爵様と結婚した時なんて、他国の王族が沢山来ていましたよね?陛下の娘であるお姫様の嫁入り先を探すために。」
確かに、俺達が結婚した当初は姫の嫁入り先を探すためにも、色々な国の王族達を呼んでいた。
それで、姫様の護衛も増やしていたから、俺もよく駆り出されて、喜んで行っていたな。
逆に、他国に行くことも多かった。
だから、ミシェルを放置して、屋敷に帰らないことも多かった。
あの頃のことを思い出すと、自分自身が酷すぎて、本当に殴りたいぐらいだ。
「そんな時に、もし出ていたら、もし公爵様が知らないうちに出会っていたら?そうなっていたかも知れません。でも、結果ならなかった。・・・今のところは。」
「今のところ・・・、それって。」
「えぇ、これからは分かりません。これからは、それこそ公爵様と一緒に出かけることも増えるでしょうし、公爵夫人として社交界に出てしまったのならば、それこそ公爵夫人として社交界に出ていかなければならなくなったということ。つまり、これから出会うかもしれないというわけです。」
そんな!
嫌だ、嫌だ!
「だから!公爵様の出番なのです。」
「俺の出番?ですか?」
「えぇ、公爵様、あなたに守って頂かなければならないのです。私達が守ってやることはできないのです。私達の娘は、もう、あなたの妻なのですから。」
そう言って、真剣な目で俺を見る義父。
義父は今までミシェルを静かに守ってきた。
でも、もうミシェルは我が公爵家の嫁。
俺の妻。
だからこそ、今度は俺がミシェルを守る。
そうだ、そうだよな。
来るかも分からない未来に怯えるのではなく、そうならないように全力でミシェルを守らないと。
俺はミシェルの夫なのだから。
「守っていただけますか?」
「ええ、勿論。私の妻は、私の愛おしいミシェルは、誰にも奪わせはしません。私が、俺がミシェルを幸せにします。」




