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今の状況は正直言って、気まずい。
目の前の辺境伯、つまり義理の御父上はにこやかに笑われているが、急に2人っきりにされてしまったので、動揺してしまい、何も言えず、ミミが部屋から出ていってから数分経つが、お互い黙ったままだ。
一体、どうしたら。
「公爵様、本当に申し訳ありませんでした。我妻が。」
「いっ、いや。」
「どうぞ、お座り下さい。セッカ、居るんだろう?公爵様にお茶を。」
「はい、旦那様。」
スっと気配なく表れた少女。
なるほど、彼女がエレナの言っていた、獣人族の。
ミミをエレナ以上に慕っているとか。
いや、これはクリスからの情報で、エレナは自分の方がミミを慕っていると言ってはいたが。
それほど、ミミに忠誠を誓っている侍女で、俺がいない時だったが、やってきて屋敷の者たちを混乱させたとか。
特にエレナが。
しかし、あのエレナが、と思っていたが、なるほど。
エレナも大変優秀だが、同等の技術をもっているな。
そして、彼女は。
「山鴉の獣人族のセッカです。」
「山鴉、それって。今は亡きと言われている暗殺族では?」
「えぇ、そうです。一応、私以外にも生き残りはいます。しかし、今はその姿を隠しており、姿を見せる者はほとんどいないでしょう。故に今は亡きと言われておりますね。鴉の一族は他にもいますが、山鴉とはなかなか出会うことは出来ませんね。」
「はっ、はぁ。」
サラッと言っているが、これってかなり重要なことでは。
こんなんに簡単に言ってもいいのか?
というか、これは俺が聞いてもいいのか?
「公爵様の秘密を知っていますので、これで、平等かと。」
「えっ?」
「公爵様が獣人族、銀狼族であることは、以前、屋敷の方に侵入した際に調べさせていただいたので。」
「えっ、あっ!て、いや、あの、違っ!」
お義父様の前で!
国家機密なのだが!!
「嗚呼、私なら大丈夫ですよ。知ってますから。」
「えっ!?」
「あれ?ミミから聞いてませんか?うちの母の話を。」
お義父様の母ということはミミのお祖母様のことだよな。
確か、ミミのお祖母様は。
「陛下の師匠、ですか?」
「ええ、うちの母は弓において、右に出る者がいないほどの名手で、国を問わず、引っ張りだこで、どこにでも弟子や知り合いがいるほど。私も幼い頃、よく母に連れられて他国に行きました。そして、勿論、陛下にもお会いしてますし、それこそ幼い時にはよく遊んでいただいたこともあります。残念ながら、私には弓の才能は受け継ぐことはなく、母のようにはなりませんでしたが。」
「それと私の、いえ、国家機密のことを知ることに関係が?」
「えぇ。このことを知っているものは、一部の貴族のみ。その貴族からしか、公爵家に嫁入りすることはできませんよね?さて、問題です。何故、ミミは、ミシェルは公爵様の元に嫁入りすることができたのでしょうか?」
「あっ。」
そうだ。
そうだった。
我が公爵家は秘密を守るためにも、決められた一族としか結婚できないはずだった。
でも、ミシェルとの結婚はすぐに許された。
陛下も反対はしなかった。
もしかして。
「お義父様が、知っているから。」
「えぇ、陛下には、必要以上に手出しはしないで下さいとお願いしましたから、特になにかあったことは無いでしょうが、でも反対されることはなかったでしょう?」
「確かに。」
「ふふふ、あまり裕福な家ではなく、式典等にはなかなか参加することもないので、陛下とお会いする機会もほとんどありませんが、手紙のやりとりは今でもさせて頂いています。なので、私は少々王都の方の事情は知ってます。公爵様のことも知っていましたが、娘が選んだのならばと思い、妻にも何も言わず、また心配そうに伝えてきた陛下にも、大丈夫と伝えて、この結婚を進めたのですよ。」
にっこりと笑うお義父様は、確かに辺境伯だと感じさせられた。
領地で、大きな災害があって、復興のために自分達の身を削ったが故に貧乏となった辺境伯と聞いていた。
爵位返上することも視野に入れていると聞き、そんな家ならばと思い、契約結婚をもちだしたが、もしかして、返上など、無理だったのではないだろうか。
それほど、陛下と親しく、また、信頼されているということだ。
国家機密を知っているということは。
「まぁ、我が一族がこうなったのも全て母のせいですがね。」
「えっ?」
「あまりにも強力すぎる母を他国に渡したくないからこその地位ですからね。母は感もよく、嘘を嫌う人ですから、故に、バラさずにはいられず、そして、その息子の私も巻き込まれたという感じですから。」




