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「お母様。」



いたいた、やっぱりここに居た。

屋敷が綺麗になって、庭も綺麗になっていたから、まだあるか分からなかったけど、やっぱりこれは残していたのね。

お母様がお父様と喧嘩した時や、悲しくなった時にいつもやってきていた場所。



「ここは、前のまんまなんですね。お母様の作業小屋は。」



庭の片隅にある小さな小屋。

この小屋は薬草に詳しいお母様が作業を出来るようにってお父様が立てた小屋。

部屋に入れば、薬草の香りに包まれて、この匂いこそお母様の匂いだって思えるぐらい。

お母様の薬草の知識は本当に凄くて、正直その才能があればと思ったけども、私には才能がなかった。

お母様が領地の人々の為にって薬を作っている時も、私は見ているしかなかったけ。



「この小屋は、お母様の宝物でしたよね。」


「ズズッ、そうよ。ここはあの人が私のために作ってくれた、私の楽園よ。壊すわけがないわ。」


「そうですよね。」



良かった、お母様、ちゃんと答えてくれた。

拗ねてしまうとなかなか話してくれなくなっちゃうから、どうだろうかと心配していたけど、どうやら、今日は話してくれるみたい。



「実家では、草なんか集めるんじゃないって、怒られて。草ではなくて、薬草だと言っても聞いてはくれなかったわ。でも、あの人は違った。」


「お父様、ですよね。」


「そう、あの人は、出会ってまもない時に、その花はとても綺麗ですねって言ってくれて、そして、これが薬となるって言えば、綺麗なだけじゃなく、薬にもなるとても凄い植物だと驚いてくれて、そして、その事を知っているあなたはとても凄い人だと褒めてくれたのよ。」



そう言って差し出されたのはクコの実が沢山つめられた瓶だ。

この話を聞くのはもう何度目になるかしら。

お母様とお父様の出会いの話。

何度も何度も話してくれ、憧れた話。

私もいつか、そんな出会いをしたいと思っていた幼い頃。



「クコの花言葉を知っているかしら?」


「お互い忘れましょう、でしたっけ。」


「そうよ、よく知っていたわね。公爵家ではそんなことも習うのね。野菜がどのようにしたらよく育つかしか覚えていなかった子が。」


「うぅ。」



嬉しそうに笑いながら話すお母様に、思わず唸ってしまう。

お母様は薬草のこと、植物のこと、それこそ花言葉だってよく知っていた。

そのことを教えてくれたこともあったけども、何よりも食うことが大事すぎて、それよりも野菜をどれだけ育てるかに集中していた私は覚えてもすぐに忘れてしまっていた。



「ふふ、あなたにこの先を話したことは無かったわね。子どもに話すにはあまりにも理不尽で腹の立つ話だったから。」


「えっ?」


「ここまでのお話は、本当に綺麗でキラキラと輝いているお話。彼は、旅の途中で出会った私に対して、こんなにキラキラしたものを与えておきながら、何も言わずに旅立ったのよ。クコの花を置き手紙にして。」


「ええ?お父様が!?でも、あのお父様は花言葉を知らずにただ、始まりの花だったから置いていったのでは?」


「違うわよ、私、熱心に教えたもの。花言葉。彼もよく覚えていたわ。何よりもクコの花言葉はね。だから知ってて置いたのよ。お互い忘れましょうって。本当に酷いと思わない。あれだけキラキラした思い出を置いて、さっさと自分は旅立ちやがって!!」



お父様。

ううん、でもあのお父様が何も考えずに置いたとは思えませんが。



「そうよ、ミミ、あなたの考えている通り、あの人は別に負の感情があってそうした訳では無いわ。ただただ善意で置いたのよ。本当に腹の立つ善意でね。」


「善意で?」


「えぇ、私は良いところの血筋だったから。だから、自分では釣り合わない。この日々をお互い忘れましょう、忘れて幸せに過ごしてくださいって言っていたのよ。」


「幸せに。」


「でも、忘れるわけない。忘れることなど出来るはずもないのよ。あの人以外と幸せに慣れるはずがないのよ。この思い出を胸に他なんて見ることが出来るわけないのよ。」


「お母様。」


「その後、私は彼を追いかけて、捕まえた。そんな私の子だからこそ、私がそうやって彼を捕まえたからこそ、だからこそ、母として、見守りたいと思っていた。私は自分の娘にはかならず幸せになって欲しいと思っていた。家の事なんかに振り回されずにいて欲しいと思っていた。」


「お母様!!」



母の胸に抱きつき、その温かさに涙が流れる。

まさか、お母様がそんなことを考えたくださっていたなんて。



「ごめんなさい、お母様。でも、私は幸せよ。何度も言うけども本当に幸せなのよ。お母様。」

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