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プージャ様から聞いた話は、それこそとても都合良い夢のようなお話だった。

彼が、私との記憶を1番大切だと思い、そして、その思い出が彼を救うことが出来たのだという。

私との記憶がもう二度と彼の中では思い出されないというのは辛くないといえば嘘になる。

でも、それよりもそのおかげで彼が生きている。

それは何よりも彼の幸せを祈り続けた意味となるのでは無いか。

それだけで、彼への思いを断ち切れるのかと聞かれれば、正直言って分からないのだ。

果たして、私は今も彼を愛し続けているのだろうか。

長すぎる初恋は、本当に今も初恋なのだろうか。

勿論、彼を思い、幸せを願っていたことは事実であり、今だって、思っている。

ただ、長すぎたこの恋は、本当に恋なのだろうか。

そう思えてしまったのだ。

ただただ、私は彼を思い続けるだけで良いと思っていた。

でも、最初は確かに彼が再び戻ってくることを求めていたのだ。

しかし、長い長い時間の中で、私は彼が来ないことを知り、でも、それでもこの初恋を終わらすことは出来ず、ただただ祈り続けることで満足していたのだ。

しかし、これが恋ではないのではないかと思い始めてしまった。

気づいてしまったから。

私は、今、彼に対してではなく、少なからず、今、私が幸せにしてあげたいと思い始めているのは他にいると。



「ミミ。」


「あっ、お帰りなさいませ、旦那様。お迎えもせずに。」


「いや、いいよ。来たんだってね、あの人。」


「プージャ様、ですね。あの、旦那様、その。」


「ミミ、君はやはり、彼の元に行きたいかい?」


「えっ?」



気づけば、旦那様が帰ってくる時間になっていた。

声をかけられてようやく気づいた。

視線を上げれば、旦那様の顔がすぐ側にあった。

旦那様の表情、何故、こんなにも苦しそうに?

それに、彼の元って一体。



「彼って、もしかして、旦那様、金さんのことを聞いて?」


「あっ、嗚呼。詳しいことまでは聞けなかったが、彼が記憶を無くしたこと、それ以前はとても君を愛していたことを聞いたよ。」


「そんな、でも、その、何故、私が?」


「いや、だって、君はずっと彼を想って。」


「もうっ、旦那様。私は言いましたよね?私は旦那様と離婚する気はありませんよ。」



まさか、また旦那様にそんな風に思われているなんて。

そのせいで、こんなにも苦しそうにしているなんて。

嗚呼、もうっ。



「ふふふっ、本当に仕方がない人。」


「ミっミミ?」



嗚呼、もうっもうっ。

エレナが言っていたけども、本当になんで、恋愛では旦那様はポンコツになるのかって言っていたけども、本当に、ね。

ふふふ、でも、そんな彼を可愛らしいだなんて、思える日がくるなんて。



「全て。全て、話しますね。」


「えっ、いっいいのか?」


「勿論、旦那様が安心できるように、お話させて下さい。」



旦那様の手を繋ぎ、ソファに座らせてから、全てを話した。

彼の記憶が消えた理由、もう二度と思い出すことは無いこと。

そして、私は大事にこの思い出を覚えていたいことを。



「だから、目元がこんなに腫れているのか。」


「腫れていますか?」


「嗚呼、誰とも会わなかったのか?」


「えっ、えぇ、そのプージャ様から話を聞いた後、1人になりたいと言って、そのままでしたから。」


「そうか、後で冷やすものを持ってきてもらおう。」


「ふふふ、ありがとうございます。」


「そうか、君との記憶を対価に。」


「えぇ、私との記憶はあの人を守ることが出来ました。それがとても嬉しいのです。」



何の価値もない記憶ではなかった。

彼にとってもちゃんと大切にしたいと思える記憶だった。

残念ながらも、彼を救うために犠牲になったかもしれないが、それでも、その事実が嬉しい。



「いや、だが、それならば、彼の元には行けないが、だが、その、このまま俺といることが辛いとかはないかい?」


「えっ?なんでですか?」



何故、そんな考えになるのでしょう?



「いや、だって、結局、彼は君をずっと思っていたのだし、そんな彼を君は今でも愛して。」


「えぇ、愛しています。でも、それは親愛に近いものです。長すぎた初恋は今では、違う形になって、今も彼を思っています。だから、そんなことはありません。寧ろ、私は、今、その旦那様に対して、その、恋愛感情というものを持っているのかも知れません。」


「えっ?」


「あの!その!まだよく分からないのですが、その旦那様の傍でいるととても落ち着いて、でも、そのドキドキして落ち着かない時もあるし、でもでも、これが本当に旦那様が言ってくださったような同じ気持ちなのかは分からなくて、その、その。」


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