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「奥様ー。今日はどうなされたのですか?」


「えっ?どうって?」



ひと夜明けて、いつも通りに目が覚め、いつも通り皆のお手伝いをしているとファームがそう声を掛けてきた。

ファームはメイドさんの1人で、洗濯を担当している子だ。

因みに浣熊族、アライグマの獣人さんだそうなので、とっても洗濯が上手。

時折出るフサフサの尻尾と小さな耳はとっても可愛いし、ファームも小柄な女性で、ふわふわしている。

でもしっかり者で、洗濯に対して並々ならぬ情熱を持っているので、私も最初は怒られることもあったなー。

今では合格点を貰えるほどにはなったのだけども。

そんなファームと一緒に洗濯をしているときの話なのだけども。



「いえ、いつもよりも旦那様に対して距離が近いような気がして。」


「えっ?近い??」


「あれ?自覚なしでしたかー?」



ファームに言われて驚いた。

私、旦那様と近くなっていたの??

あれ?



「嗚呼、物理的な距離がとっても近くなった訳ではなくて、雰囲気?が、近くなったような気がしまして。」


「えっ?えっ?ええ?」


「んー、皆が言ってましたから、そうだと思いましたが、んんー、奥様の自覚がなかったとはー。」


「えっ、いや、その、確かに、昨日、旦那様には沢山助けて頂いて、その。」



昨日は旦那様に沢山助けていただき、旦那様はこんな私でも呆れずにちゃんと話を聞いてくださる方だと知ることができ、それで、その少し甘えて、いえ、かなりでしょうか。

甘えているのは甘えていますね。

しかし、ただそれは、私の中でのことだと思っていたのに。

まさか筒抜けだったとは。



「旦那様と奥様が仲良くされていることはとってもいいことですよー。それこそ最初は旦那様、急に奥様をお嫁さんに貰ってきたと思ったら、まだ姫のこと思っていて、奥様がとっても可哀想で仕方がなかったと、皆言ってましたから。」


「あっ、そっそれは。」


「嗚呼、大丈夫です。奥様が全く気にしていなかったことは皆もよーく知ってますし。それは旦那様の自業自得なのもよーく知ってます。こーんなに可愛らしい奥様を置いて、よく仕事に行けるものだと思ってましたけども。」


「えぇ?お世辞も言いすぎるといけないわよ?」


「いいえ、事実です。うちの奥様はとっても可愛らしい素敵な奥様です。どこの誰よりも可愛らしい奥様で、私達は本当に毎日毎日幸せですから!それに、奥様が何度か社交界に出てらっしゃるから、他の屋敷のメイド達も羨ましいと言われるぐらいですよ?今、うちの仕事に付きたいと言うものが後を絶たないとか。」


「ええ?私、そんな話は一切聞いてないわ。」


「嗚呼、それはクリスさんとエレナさんが門前払いをしているからですよ。うちは特殊なので、紹介でないとまず屋敷の中にも入れませんから。」


「特殊?」


「はい、うちは皆獣人族なので。まず、第1の条件として獣人族でないといけません。」



嗚呼、そうだったわ。

私ったらすっかり忘れていたわ。

旦那様の秘密を守るためにも、屋敷の人々も獣人族でないといけないとクリスが言っていたわ。



「まぁ、獣人族の紹介の人も稀に居るみたいですけども。どうやらかなり遠縁の者が話を聞いて、無理やり紹介状を書かせて来ることもあるそうですが、そういったものはすぐさまエレナさんがたたき出してます。」


「たっ叩き出す!?」


「えぇ、言葉通り叩き出していますよー。あっ、時には蹴り出していたこともあったけ。」


「えぇ、勿論です。奥様に御遣いするに耐えないものがこの屋敷の門を潜ることなど絶対にありえませんから。うちに雇われたかったら、何事も完璧にこなせるようになってからでは無いと。」


「あっ、エレナさん。」


「ファーム、遅いと思ったら無駄話をしていたのね。奥様を長く外に連れ出すのはやめて欲しいのだけど。」


「えっ、だっ大丈夫よ。エレナ。実家ではそれこそ一日中外にいる事だってあったのだからね。」


「もう、エレナさんは厳しすぎますよー。奥様はお外が好きだって言ってらっしゃるんだから、もうちょっと甘く見ても良いかと思います。」


「ファームはのんびりしすぎることがあるから、それに奥様が付き合ってないか心配なのよ!別に奥様が望まれているならごちゃごちゃ言いませんよ!もうっ!」


「あらあら、ふふふ、大丈夫よ、エレナ。ファームはおっとりしているようで、本当にしっかり者だから。これ以上ダメって時は絶対に引いてくれないから。ねっ、ファーム。」


「はい、そうですよ。以前、奥様ったら私に認めてもらいたいからって、熱中しすぎた時はお止めしましたもん!」

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