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「どうしよう、どうしたらいい?クリス!!」
「どうとでもしたらどうでしょうか、旦那様。」
「なっ!真面目に考えろ!!クリス!!このままでは俺はいつか死ぬぞ!!」
「大丈夫です、死にはしません。」
「何故、そんなにハッキリと言いきれる!!」
「ときめきで死んだ人は居ませんから、大丈夫です。」
はあっと大きなため息をつくクリスに、なんて失礼だと思いながらも痛む胸を抑える。
ときめきで死んだものが居ないからと言っても、もしかしたら俺が最初の人になるかもしれないのに!!
全くと言って、クリスはまともに取り合ってくれない。
嗚呼、俺はこれほど悩んでいるというのに。
「ミミが可愛すぎて死んでしまう。」
「奥様が可愛らしいのは前からでしょう?何を馬鹿な。」
「そりゃ、前からも天使のようだったが、今のミミはそれこそ神だ、女神だ!!!」
そう、そうだ!
今のミミは以前より格段に可愛らしくて美しい!!
あの大事件の起きた夜会から一夜が明け、ミミを心配しながらも朝を迎えた。
一目散にミミに会いに行けば。
「おはようございます、旦那様。」
それはそれは美しい笑顔で挨拶され、そのまま食事に向かうために手を差し出せば、そっと柔らかく微笑みながら掴まれた瞬間、ときめきで目の前が真っ白になった。
今までもとても可愛らしい奥さんだったが、今はもう女神だ。
「あれは、本当に天から迎えが来るのではないか!?」
「はっ?」
「童話にもあったろう!!いつか迎えに来るのでは!?いや、させない!!ミミは俺の奥さんだっ!天になど返すはずがないだろう!!!」
「暴走しないでください。旦那様。」
呆れ顔でクリスに脳天チョップを食らわされたのだが!
久々すぎる脳天チョップに頭を抑えられずにはいられないのだが!!
「落ち着きましたか?旦那様。」
「いや、元から俺は落ち着いて。」
「あれは落ち着いていません。全くと言って落ち着いていません。よく奥様が引きませんでしたね。本当に。」
「引くだって!!そんなことは、ないはずっ!!」
「いや、相当旦那様、浮かれてましたから。正直言って他の者は引いてましたよ。」
えっ、まさか、そんなことは。
いや、思い返せば、相当舞い上がっていたのはよく分かっている。
昨夜の夜会で、ミミは傷ついただろうと気づいていたからこそ、落ち着いてミミを支えようと思っていたが、ミミがあまりにも美しく俺に微笑み、そして手に触れたから。
それがどれだけ嬉しかったことか。
勿論、夜会のエスコートする時には腕に触れるが、今日のあの時はなにかが違ったのだ。
「しかし、旦那様、一体何があったのです?昨夜は。奥様が少々おかしいと言いますか、旦那様との距離が近づいたといいますか。」
「やっ、やはり近づいたと思うか!クリス。」
「えっええ。以前の奥様、昨日の朝の奥様は旦那様と距離を置いていましたが、今日の奥様はどこか旦那様との距離が近いと感じました。」
「そっ、そうだよな!そうなんだよ!!今まで!ミミは遠慮気味だったのが、自然と触れるようになったんだ!!嗚呼、本当に!!」
「しかし、何故急に?」
クリスが不思議に、思うのも仕方がないので、昨日あったことを話した。
ミミの想い人の話に、姫の愚かな話を。
話している途中に、クリスは怒りの表情を浮かべていたが、ミミの想い人の話をした時に顔色が変わった。
「その、奥様の想い人は一切覚えていらっしゃらなかったのですか?」
「あっ嗚呼。そうみたいだ。」
「それは、奥様相当ショックでしたでしょう。」
「嗚呼。しかし、ミミは、仕方がないと笑っていたがな。」
思い出しても心が痛くなる。
何故、彼女を忘れることが出来るのか、
俺ならば一生忘れられない。
「奥様。奥様が、想い人の話をしていた時、とても優しい表情でしたのに。」
「一切覚えていないようだった。俺だって話を聞いて、本当に嫉妬するぐらいだったのに。それなのに。」
「しかし、気づかなかっただけでは?奥様が美しく成長されて。」
「それは俺も考えた。しかし、ミミが自分で何も言わなかった。ミミが言わなかったのに、俺が何か言うのは違うだろう。」
「それはそうですが。」
ミミが決めたことに対して俺が後から何か言うのは違うだろう。
ミミを支えることしか俺には出来ない。
「しかし、それで何故旦那様と奥様の距離が近づいたのでしょうか?正直、今の旦那様の話を聞いていて、旦那様は何もしてないようにしか思えないのですが?」
「うっ!!そっそんなことは。」
いや、クリスの言う通りだ。
結局、俺はミミの危険な時に間に合わなかったのだ。




