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一体、これはどういう状況なんでしょうか?
目の前にはキラキラと輝く美しい男性。
このボロボロの部屋には似合わない。
そんな男性が今、なんと言いましたか?
「どうか、私と結婚してくれませんか?」
「・・・は?」
結婚?
何を言っているのでしょうか?
この方は。
頭の処理が追いつきません。
いや、本当になんで私がこの方と結婚?
可笑しい話です。
そう、可笑しいのです。
だって、私は貧乏貴族で田舎娘ですもの。
王都に住む公爵様が何故私なんかに?
「驚かれるのも無理はありません。結婚と言っても、仮です。」
「仮、ですか?」
「えぇ、お飾り妻となって欲しいという訳です。」
にっこりと笑顔が向けられるが、その笑顔も美しいのですが黒いものを感じます。
でも、お飾り。
あ、えぇ、納得しましたけど・・・お飾りでも何故私を?
公爵様、ローエン・ウィルド様と私、ミシェル・スーティンは一度も話したことも、いえ合ったこともないはずなのですが?
そう、一度も。
今日初めてお会いしたはずなのですが・・・。
えぇ、急に片田舎にある私の館にこの若旦那様がやってきました。
一応前触れはあったのですが、本当に一体なんでと思っておりましたが・・・。
父と母と一緒にお出迎えすれば、何故か私に笑顔を向けるローエン様。
えっ?なんで?と思っているとあれよあれよでいつの間にか二人っきりになってしまい。
急に結婚などと申すのです。
いや、えぇ、お飾りなら納得ですけど、いやでも本当になんで?
「あの、お飾りなのは分かりますが、一体何故私にそのようなことを?」
私は、本当に貧乏貴族で、一応爵位はあるが貧しい領地の為に身を粉にして働いている。
名ばかりの貴族。
しかも田舎で、デビュタントも本当に壁の花のなって誰とも話さずじまい。
それ以来王都に行ったこともないし、正直嫁に行くのも無理かなと思ってました。
行けたとしてもどこかの後妻とかに政略結婚とかで。
どこでもお金になるような所に行ければと思っていたのですが・・・。
そんな私を何故?
美しい公爵様ならばお飾りでも飛びついてくる女性は山ほどいるはずなのに。
「あなたのことは隅から隅まで調べさせてもらいました。そして私が考える条件を全てクリアしていたのがあなただったのです。」
「条件?」
「えぇ、条件は3つ。何かしらの弱みがある者。社交界でそれほど交流がなく、頼る者がいない者。そして、私に恋をしてない者。」
「・・・それに当てはまるのが私・・・ですか?」
「えぇ。あなたの家は貧乏で、社交界にもデビュタント以来出ていない、そして私を知らず、恋をしていない。そして貧乏ながらも爵位は伯爵。とても良い。」
にっこりと笑顔でこちらを見る公爵様。
その笑顔が薄ら寒い気がするのですが、気のせいでしょうか?
「私には思い人がいるのです。でもその方に思いを告げることも、もちろん思いが通じることもありません。それでも私はその人を思うだけで幸せなのです。」
「・・・。」
「でも周囲は、特に両親はそんな私に結婚をしろと急かしてきましてね。私に良い相手がいないのならば勝手にこちらで用意するとまで言われましてね。それは困るんですよ。私はあの方だけを思い生きていきたい。なのに妻なんて出来て、そばにすり寄られるなんて・・・。でも、両親が選んだ人はそれなりの身分の娘でしょう。無碍には出来ない。なので、考えたのです。それほど結婚しろというのならば、結婚しましょう。でも、それはお飾りで。そう、私があの方を思うことを邪魔をしない者を妻とすればいいと。」
にんまりと笑う公爵様がとても怖いと感じてしまうのは仕方がないと思います。
公爵様が話す内容からして、公爵様の片思いの相手は手の届かぬ人で、でもその人を愛し続けたいからお飾りの妻が欲しいと。
「っで、考えて都合の良い妻をと。私に恋い焦がれる者はまず対象外。そして、社交界で交流がある者も急に私と結婚となれば周囲は怪しむから対象外。そして、この話をする以上、必ず頷いてもらわないと困るので、弱み。あなたの場合は借金ですね。これを私と結婚していただけるなら全て肩代わりしてあげましょう。」
「えっ?」
借金を肩代わり!?
えっ!嘘!!
借金がなくなるってことは・・・妹達に楽をさせてあげれる?
「ふふふ。目が輝いてますね。えぇ、援助をしますよ。なので、きっと妹さん達も、そしてなにより領民達も今の苦しい状況から脱することが出来るでしょう。あなたがこの結婚、この契約に頷いてさえいただけたら。」
「契約。」
「えぇ。契約です。」
契約と言って出されてもの。
それは私にとってどうとも思わないものばかりでした。
「一つ、私があなたを愛さないことについて何も言わないこと。」
「一つ、私がすることに対して何も言わないこと。干渉をしないこと。」
「一つ、誰にもお飾りの妻と言うことは言わないこと。特に私の両親には。」
「それさえ守って頂ければ、あなたが浮気をしようが何をしようが構いませんので。」
それって、私が誰を思っていてもいいってことですよね?
嗚呼、嗚呼、なんて、なんて。
私にとって幸せな結婚なんでしょうか。
皆を助けることが出来る、それだけでも頷くける好条件だったのに。
えっ、これって結局は公爵様は思い人がいるから性交とか私とはしないってことでしょう?
えっ、それでいいのかしら?
一応、公爵様なのに。
「何年も一緒に居て子が出来なかったらきっと両親も諦めるでしょう。どこからか養子をもらってきますのでご心配なく。」
わー!!心配してたものもちゃーんと考えてらした!
ってことは、私もあの人を思っていてもいいのですね・・・?
それって、それってなんて幸せな、私の望んでいた結婚なんでしょう。
どこかの後妻でもしなくちゃいけないと思っていたのに。
それは仕方がないって諦めていたし、理解してたのに!
なのに、私はずっとあの人を思っていてもいいのですね!!
嗚呼、なんて素敵な結婚でしょう!
「さぁ、どうです?まぁ、あなたに断るっていう選択肢はないはずですが・・・。」
嗚呼、また悪い顔をしてらっしゃるけど、私は全然怖くなくなってしまった。
だって、この公爵様が天使様のように見えるんですもの!
キラキラ輝く銀色の髪も相まって。
碧い美しい瞳も天使様のようで。
私は笑顔で頷く。
「えぇ。是非、その契約、お受けしたいと思いますわ。」
貧乏貴族のミシェル・スーティンはお飾り妻に喜んでなります!