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ともだち

作者: あんず

学校の授業で書いた短編が過ぎる作品です。

友達というものについて思っている事をテーマにして書きました。

拙い文章ですが伝わればいいなと思います。

 

 ともだち

 


 日曜日、セミの鳴き声、サッカー部の練習後、これらの単語を聞くだけでじりじり、じめじめとした嫌な暑さに汗をかきそうになる、そんな夕方。四人の若者が法隆寺、改め、法隆カフェにて遅めの昼食をとった後、食後のデザートを楽しんでいた。

「俺ってイチゴ苦手なんだよねえ。」

「へぇ、そうなんっすね。」

僕は、歴史的建造物の壁に、くり抜きはめられているガラスと景色を眺めながら、通路側に座る茶山と黒田先輩の会話を聞いて心の中でため息をついた。

「ちょっと、トイレ行ってくるわ。」

黒田先輩がお手洗いに行くために席を立った、その時、太ももがテーブルに当たり、私の眼の前のコップが倒れて中の氷が飛び散った。私は慌てて左手で氷達をガードする。ほとんど睨むような目つきで黒田先輩に視線を送ったが、黒田先輩は気づいていないのか、完全に無視してスタスタ去っていった。

「ナイスデフェンス。」

「ありがとう。」

眼の前に座っている赤斗が笑いながら言う。その手には一枚のお手拭きがあった。僕と赤斗で解けて消えかけている氷をお手拭きでくるむ。

「それにしても、もう7時前か。」

茶山がなにか言いたげな風に現在の時刻をぼやく。僕らが来店してから一時間半ほどは経過していた。僕と、赤斗もその言葉の意図を察したが僕は口には出さずに残りの氷を片付けることに集中した。

「ほんとに、黒田先輩がカレーなんか頼むから、ジコチューだよなぁ?」

僕が心の中で思っていた事をなんの躊躇いもなく赤斗が口にする。

「いや、ほんとそれ。トイレも何回行くんだよあのヤロー。お年ですかって感じ。」

茶山もそれに反応して隠していた本音が漏れる。二人して笑いながら、この場にいない先輩の話をしている。僕はずっと、胸がざわざわしていた。赤斗は本当に真っ直ぐで良いやつだが、真っ直ぐさ故に他人が傷つく事を平気で言ってしまうし、その真っ直ぐさが果たして本当に真っ直ぐなのか疑問を持ってしまう。茶山は、人付き合いは良いが、たまに上辺だけの付き合い感が見えてしまう。僕も、こんな話をただ黙って聞いているだけの人間だ。この四人で遊ぶことは多いが、僕は、時々思ってしまう。僕たちは一体なんなのだろう、と。

「ごめんごめん、腹痛くって。」

黒田先輩が戻って来たので僕らは、会話をやめ、席を立つ。次の予定であるショッピングモールへ向かうべく、会計を済ませ、カフェを後にした。ドア開けると、ひんやりとした風が顔をなでた、五重の塔から伸びていた影も今や肌寒そうに縮こまっている。

「この後、ってどうします?」

茶山が、誰となく問いかけたが、黒田先輩が答える。

「そうだなぁ、赤斗が七時半には帰らないといけないんだっけ?」

「はい。」

「えっ、じゃあどうするんですか?」

茶山も確か、バイトが夜からあるはずだ。しかし、茶山は答えをほとんど分かっているくせに言わない。黒田先輩は三人の顔を見る。

「三人には悪いんだけど、今日は、解散かな。」

少し考えた後、黒田先輩は歯切れ悪く口にする。

「そう、しますか。」

「そうっすね。」

二人はもちろん心から合意しているわけがなかった、もちろん僕もだが、部活後の昼食の後にショッピングモールに行き今日発売の靴を買い映画を見て終わる筈だった一日が、カフェに二時間半ほどいたせいで予定が半分潰れてしまったのだ。

「あ、やっべ。」

突然茶山が、ズボンのポケットポンポン叩きながら呟いた。どうやら携帯電話を店内に忘れて来たらしい、俺もついていくよと赤斗もそれについて行った。こうして僕と黒田先輩二人だけになった。

「いやあ、なんかごめんな?」

「えっ。」

「いや、さ、こんなに待たせちゃって。」

「まあ、鍋料理だと時間かかりますもんね。」

「そうなんだよ、分かるだろ?俺の気持ち、誰かもっと注文の時に止めてくれよってね。」

黒田先輩は半分笑いながら冗談のつもりで言ったのだろうが、僕には冗談には聞こえなかった。その時、僕の中で溜まっていた何かがこみ上げてきた。

「先輩。」

「ん?なんだ?」

「バカですか?」

「ん?」

「バカなんですか?」

「あ、いや、ハハッ・・・え?」

「今言わないでくださいよ。」

「あ、いやいや今の冗談のつもりで。」

「そっちじゃないですよ。」

「え、どういう。」

「なんで今頃謝るんですか?本当に悪いと思ったんなら、そう思った時に言ってくださいよ。」

「お、おい白井?」

茶山と赤斗が帰ってきていたのは、気配と足音で分かっていた。が、そんなことは関係なかった。僕の口は止まらなかった。

「茶山も赤斗も先輩がいなくなってから先輩に汚い言い方でひどいこと言ってたよな。本人の前で言えないことをわざわざ一緒に来てる時に言わなくてもいいだろう。」

「・・・お前それは言うなって。」

赤斗が気まずそうに視線を下げる。場をフォローかのようにすかさず茶山が割り込んでくる。

「なあ、白井お前の言いたいことは分かるけど、本人には言えないんじゃなくて、あえて言ってないだけなんだって、そういうの、ほら、分かるだろ?」

「分かんないよ。」

茶山が全部を言い終わる前に僕は反論した。

「僕、ずっと分かんないよ、僕ら四人のこと、一緒にいつも遊んでるけど、言いたいことちゃんと言えてる?お互いに。」

三人がなにか言いたげに口を開こうとしたが、黙っている。

「いや、わかってる。もちろん僕もそうだよ。なんなら僕が一番できていないよ。だからこそ、ずっと思ってたんだよ。僕たちって『友達』なのかなって。」

三人はただ黙って聞いている。

「仲良くするために、みんな平気で嘘をつくなんて、そんな関係、どこが良いんだよ。」

僕は、黙ったままの三人に背を向け歩き出す。言ってしまった後にもっと話すべきことが山程あったと思うが、僕はもうこれ以上そこにいる勇気がなかった。おそらくもう話してくれることは無いだろう。そんな事を考えながら僕は眉をギュッとしかめ、涙をこらえながら歩いた。


 夕暮れ時、涙をこらえながらあるく少年の影と、そこへ駆け寄る三人の影。変わってしまった歴史的建造物よりも遥かに変わった四人の影がそこに伸びていた。

お読みいただきありがとうございました。


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