2話 異世界の事情
「んーっ…ここはどこだ？」
眩しい光が収まり、俺はゆっくり目を開く。
すると、あまりにも非現実的な光景に息を飲み、更に目を大きく開いた。
サッカーコート半分ほどの広さがあり、真ん中には真っ赤レッドカーペット、その先には煌びやかな椅子に堂々と座った中年男性、両サイドには豪華なドレスときた美人お姉さんと美少女がいた。
「最初に私から一言だけ言わせて下さい.......皆様、こちらの都合で勝手に呼び出してしまい申し訳ございません」
まず最初に口を開いたのが、俺達と同じくらいの年頃の少女だ。
椅子から立ち上がって何を言い出すのか分からず、俺とクラスメイト達が身構えると開口一番に謝罪の言葉を述べた。
そして次は自己紹介を始めるようだ。
「私はフィーナ王国第1王女アイネアス・フィーナと申します。皆様は急に異世界から呼ばれて混乱しているでしょう」
まさに一番聞きたかったことを言われ、俺達は一言一句聞き逃さないように耳を澄ませた、
「我々が皆様をお呼びした理由は.......世界が魔王によって滅ぼされようとしているからです.......そして.......」
言い難い事だからか、アイネアスは言葉に詰まり苦々しい表情をしていた。
すると、その隣にいた美人お姉さんが立ち上がる。
「アイネ.......あとは私が説明します」
「分かりました。お母様」
なんと、あの美人お姉さんはの母親だった。
今年で一番驚いたぞ。
「私はフィーナ王国王妃ルーメ・フィーナと申します」
ルーメは自己紹介を終えると、ドレスのスカートを強く握った。
そして.......
「訳も分からず異世界に飛ばされて混乱されている中、こんな事を頼むのは大変心苦しいのですが.......どうか.......！どうか私達の世界を救って欲しいのです！」
大量の涙を流しながら頭を深く下げた。
しかし、それを聞いたクラスメイト達は「まじかよ」「ふざけんな！」「ドッキリか何かじゃねぇのか？」等と、それぞれ思ったことを言い、中には罵倒する者もいた。
そして、それを収めたのはもちろんクラスの中心人物である天童だ。
「みんな！落ち着いて！まずは話を聞いてみよう。僕は天童輝です。王女様、魔王と戦って欲しいってどういう事ですか？僕達はただの学生だから戦う力なんてないですよ？」
天童の疑問は最もである。
俺ならともかく、彼らはただの一般人だ。
いきなり戦えと言われても無理であろう。
「皆様は勇者なので物凄い力があるはずです。まずはステータスと唱えてください。そしたら自分のステータスが見れます」
フィーナは皆の疑問に応えるために、俺達の世界には無いステータスなる物の説明を始めた。
すると、今まで黙っていた国王らしき人物が咳払いする。
「あ.......その前に私の父である国王陛下の自己紹介がありましたね」
国王の咳払いを聞いた王女は、苦笑いをしながら国王に目配せした。
「.......儂の名前はアゴラス・フィーナである。よろしく頼む勇者達よ」
アゴラスは短く簡潔に自己紹介すると、天童に興味を持ったのか話しかける。
「そこの少年、名はなんと言う」
国王に話しかけられた天童は、クラスの皆よりも一歩前に出ていき、自己紹介を始めた。
「はい。天童輝といいます。天童が名字で輝が名前です」
「ほぉー、東にある国と似た名前であるな。それで話を戻すが魔王討伐やってくれるか？」
この世界の苗字と名前は逆だったようなので、天童は丁寧に説明した。
どうやら、東の方に似たような名前を持つ人々が住む国があるようだ。
「その前にいくつか聞きたいことがあります。いいですか？」
「もちろんだ。なんでも聞くがいい。」
「ありがとうございます。それではまず1つ目が僕達は元の世界に帰れるかどうかです」
元の世界に帰ることが可能か不可能かによって、これからのモチベーションに大きく関わる。
もし帰ることが出来なければ、家族や友人、恋人にはこれから一生会う事が出来ないからだ。
「すまぬ.......召喚方法は分かっておったのだか送還方法は分からぬのだ」
アゴラスは立ち上がり、クラスメイト達と同じ目線になるよう階段を降りた。
勝手に呼び出した罪悪感はあるようで、それなりの誠意は見せる気があるようだ。
「ふざけんな！てめぇ舐めてんのかぁ？とっとと帰せや！クソが！」
「落ち着いて、近藤君。今ここで文句を言っても意味ないよ」
天童に注意をされた不良みたいな見た目をした少年は、舌打ちをして口を閉じた。
「それともう1つの質問なんですけど、この中に戦いたくないって人がいたらどうしますか？」
「それはもちろん無理に戦わせない。そして衣食住の保証もする。」
「.......分かりました」
それだけ聞きたかったのか、天童は覚悟したように口を開く。
「今この世界の人達は魔王によって苦しまされている。だから僕は戦おうと思う！みんなはどうする？もちろん無理強いはしない。それでも戦うって人は僕についてきて欲しい！」
さすが天童と言うべきか.......彼がやると言い出した瞬間、クラスメイト達の殆どが握り拳を作って瞳に光を灯し、やる気を出したのだった。
