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慮外の戦

 獣人たちの働きは目覚ましかった。俺とシーマが結婚した(ことになっている)ことで、身内意識が芽生えたようだ。

 当のシーマは宴会の次の日は部屋から出てこなかった。

「うにょおおおおおおお! やっちまったニャーーー!」

 酔っぱらって子作りしようと俺に迫ったことははっきりきっぱり覚えていたようだ。

「いやー、シーマがあんなに素を出したのは久しぶりです」

 クマ獣人のウォードがやってきた。ケネスと意気投合し、彼の妹をケネスに紹介するとかしないとかいう話になっていた。

 そのせいかケネスは最近やたら身形に気を使っている。

「ぐへ、ぐへへへへ、ぐへへへへへへへへへ」

 妙な笑いが無ければ問題ないんだがな。


「にゅー……」

 物陰からシーマがこっちを見ている。顔は隠れているがネコミミが見えていた。というか、あれでこっちの物音を聞こうとでもいうのだろうか?

 俺は苦笑してシーマを呼んだ。

「おーい、シーマ。聞きたいことがあるんだけどわっ!?」

 神速の動きで距離を詰め、俺の目の前でひざまずく。

「ニャ! 何にゃりと!」

「っておい、いつからシーマは俺の家来になったんだ?」

「いや、あの……この前の不始末というかニャ、あんなマネやらかしたらお嫁さんは無理だニャ……」


 あんまりしょんぼりしているので、飼っていた猫にするようにモフっと頭を撫でた。


「フニャアアアアァ……」

 ふわふわの髪の毛がとても触り心地がいい。耳も軽くなでてやるとちょっとビクッとなったが、にへーと笑っている。うん、もふもふだ。

 そして、シーマがぽふっとこっちに体を預けてくる。膝の上で丸くなっていた飼い猫を思い出すしぐさだった。

「というかだな」

「フニャ?」

 なんかぽけーっとした目つきでこっちを見ている。

「俺はまだ嫁さんをもらうつもりはない。いまはここのみんなとやるべきことがあるからな」

「……それはなに?」

「ガイウスってオッサンがいるんだ。この傭兵団の団長だ」

「団長は旦那じゃないニャ?」

「俺は今預かっているだけだって思ってるよ」

「って……ガイウス……? あの?」

「どのガイウスかは知らんけど、傭兵団長のガイウスだぞ?」

「……黒い悪魔の?」

「なんだそれ?」

「ほら、黒っぽい格好してなかったかニャ?」

「あー、確かに真っ黒いチェインメイル、ホーバークっていうのかね?」

「……ただの鎧じゃないニャ。皇帝から下賜された、古代魔法の加護がついてるニャ」

「ほえー、そんな業物だったか。確かになんか威圧感はあったなあ」

「……ガイウスの戦い方が変わったときがあったニャ。旦那がその黒幕ニャ?」

「んー、俺が知っている戦術を提案はしたぞ」

 シーマは少し表情を硬くする。

「旦那、ニャーは絶対にあんたを裏切らない。その上で言うニャ。旦那は皇帝から狙われるニャ」

「……何を知っている?」

「あのオラニエ公との会戦、変だとは思わなかったニャ?」

「……そう、だな。違和感はあった。なんで俺たちだけで倍の軍勢と戦う必要がある?」

「そうニャ。じつはニャーはあの時、戦場にいたニャ。皇帝本隊の斥候兵としてニャ」

 そしてシーマが語ったのは、あまりに異質な戦闘だった。会戦は通常、陣を組んで行う。それを、兵をあえて分散し、さらに戦場に砦を築いて籠城戦に持ち込んだ。

 築いた砦も、今まで見たことが無い形をしており、そもそも土魔法を土木工事に使うという発想がなかったのだ。

「あの入り口を見たときは寒気が走ったニャ」

「ああ、虎口か。折れ曲がる通路を走らせることで敵の足を止めて、矢を打ち込みやすくするわけだ」

「とんでもねーもん考えるニャ。防戦側に十分な矢があれば、あんなもん絶対に抜けないニャ」

「……まあ、俺が考えたわけじゃないがね。知っていたのさ」

「……皇帝はあの戦いでガイウスを使いつぶすつもりだったニャ」

「何となくそう思ってたよ。ただ、オッサン舞い上がっちまってたからなあ」

「それが、相手の半数ぶっ飛ばしちゃうとか、何やってんだニャって思ったニャ」

「相手があほ過ぎたのもあるけどな」

「ふつーにぶつかってりゃ、あの連中も歴戦のツワモノニャ。いくらガイウスだって負けはしないにしても大打撃を受ける……はずだったニャ」

「その前の戦闘も、敵の数が聞いていたより多かったらしいからな。奇襲が受け止められて焦ったとか言ってた」

「まあ、ルドルフ公に負けて、ガイウスの手勢は壊滅、そうするとだニャ。今度はいろいろ知ってたニャーに矛先が向いたニャ」

「……すまん」

「仕方ないニャ」

「んで、今気づいたんだが……狙われてるのって俺だけじゃ無くね?」

「にゅふー、気づいたかニャ。まー、これで一蓮托生ってやつだニャ」

「うおいっ!?」


 さて、大声でツッコミの叫びをあげて気づいた。俺たちは今どういう態勢だったか。

 俺の膝の上に体を預け、俺の手はシーマのネコミミをモフっている。耳とか尻尾を触らせるのは誇り高き獣人族からすれば、伴侶とか家族とかって意味合いだった。

 そして、唐突に上げた俺の叫び声に、何事かと駆け付けた獣人族たち。

「おお、これはこれは」「お子様が生まれる日も近いな」「キャー! キャー! キャー!」


 とかやっていると、ガッツリ巨大なクマに襲われているケネスがいた。丸っこい顔に柔和な笑みを浮かべているが、目つきはガチで獲物を狙っている感じだ。

 そして何より、巨漢のケネスに負けず劣らずの体格だった。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」

 ケネスは組討ちで敗れ、そのままどこかへ連れ去られた。一瞬目が合ったとき、ケネスはまさに出荷される仔牛のような諦めきった目つきだった。

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