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世間体を軽視するものは世間体に逆襲される

 爆風が吹き荒れる。閃光が走り、わずかに遅れて爆音が響く。


「っちゃー、やり過ぎたか……」

 門扉だけを吹き飛ばすだけのはずが、壁まで崩れている。扉が内側に吹っ飛び、余波を受けてかなりの数の兵が吹き飛ばされていた。

 

「突撃!」

 魔力を放出しきって息を切らせている俺に代わってブラウンシュヴァイク公が命を下す。

 公爵軍は喊声を上げて門のあったところに殺到していった。


 衝撃からの回復の時間差が城壁付近の戦いに大きく影響を及ぼした。さすがのガイウスも自失していたようだ。

 推定される敵の兵力は5000ほど。こちらはまだ1万ほどいる。単純な城攻めであれば厳しい戦力差ではあるが、すでに城門は破られ、城壁は突破された。

 敵も市街戦は望まないのか、速やかに撤収していく。内城にこもって抵抗するつもりなのだろう。

 皇帝軍は内城に入った。内城はもともと籠城に向いた施設ではなく、城門も1か所だ。もちろん小さな通用口などもあるが、ある程度以上の人数を動かすには無理がある規模だ。

 重装歩兵を前面に立て、街路を封鎖する。土嚢を立てて仮に兵が打って出ても迎撃できる体制を整える。


「略奪はするな。市民に危害を加えた者はいかなる理由があっても斬る!」

 俺とブラウンシュヴァイク公が異口同音に命を下す。このことについては以前からしっかりと命じているためほぼ違反する者はいないだろう。

 これは市民に向けたアピールだ。そして、敵の弱みを突く手立てがもう一つある。


「王都の市民たちよ。物資の欠乏で苦労を掛けた。これはフレデリカ皇女からの支援物資だ」


 破壊された城門付近を片付け、広く通路を開ける。それによって更なる兵を投入されてくるとかたずをのんでいた市民たちは、荷車に山と積まれた食料を見て歓声を上げた。


「おう、あわてるな。まだまだあるからな」

「夜には炊き出しを行う。手が空いている者がいたら手伝ってくれ」

「押すな、順番に渡す。騒いだりするともらえなくなるぞ!」

 輜重に多くの兵を割いていた理由はこれだ。

 同時に後方支援に回っていた兵を散開させ、街道の安全を確保する。そうすると、今まで足止めされていた商人たちがどっと帝都に向かって殺到した。彼らはブラウンシュヴァイク公が買い付けた物資を帝都に持ち込むように依頼されていた。

 輜重隊の物資が減ると、若干殺気立っていた市民がいたが、新たな物資が届くさまを見て再び歓声が上がった。

 

 はっきりといえば宣伝工作だ。ただ、口先だけじゃなく、実際に食事を用意したことで、フレデリカ皇女の名前を彼らの胃袋に刻み付けることに成功したのだ。

「権力争いだけしか見ていないやつなど統治者の資格なし。そんな馬鹿者は追い出してしまえ!」

 帝都の物流をせき止め、市民を困窮のどん底に叩き込んだ権力争いに痛烈な皮肉を突き付けることとなった。

「フレデリカ皇女ばんざーーーい!

 酒杯を掲げ、市民は歓呼の声を上げる。

 今や皇帝が支配できているのは、内城のみとなっていた。帝都に向けて軍を進めて射る諸侯も、城を攻めあぐねる軍の興廃を衝くだけという簡単なお仕事でなくなったことで再び日和見に転じたようである。

 機を見るに敏と自画自賛しているが、ただの風見鶏だ。

 しかし、こういったわかりやすい連中こそが世の中の大多数を占める。うまく利用すべきだろう。


 帝都周辺の物流は回復し、内城が包囲されている以外は帝都に平穏が戻った。もちろん戦時中という緊迫感はあるが、土木魔法を得意とする傭兵たちによって急速に城門は修復された。

 この状況も相まって、帝都周辺に諸侯軍が到着しているが、内城と連絡を取ることも難しく、攻撃を仕掛けようにも帝都にこもられたら手が出せない。

 こうして戦況は膠着していった。


「さて、力攻めで皇帝の首を取ることもできるだろうが……」

「それやっちゃたらまた戦乱でしょうねえ。帝国は群雄割拠の戦国時代になります」

「落としどころはなんだろうなあ……」

「難しいところですね」

 ブラウンシュヴァイク公と顔を突き合わせて相談する。そんなさなかとんでもない報告がもたらされた。

 フレデリカ皇女が内城の前で投降を呼びかけているというのだ。


「あんの……ばか!」

 彼女はこの軍の旗頭で大義名分だ。まあ、皇帝から反逆者扱いされ、皇女の身分、すべての権利を剥奪すると宣言はされている。

 彼女の身柄が抑えられる、もしくは殺害されれば、こちらの敗北は確定する。

 それこそ狙撃手の一人も配置すればいい。


「お父様、話を聞いてください!」

「ならば今すぐに投降せよ」

「それはできません。対等の立場で交渉のテーブルについていただきたいのです」


 内城のテラスには皇帝が威風堂々と立っている。すぐ隣にはガイウスが付き添っており、おそらく狙撃などをしても通用しないだろう。

 かたやうちの旗頭は……ケネスに大盾を持たせ、その後ろからちょこんと顔を出して呼びかけている。両脇にも盾兵を配置し、鉄壁の守りだ。

 うん、狙撃対策として間違ってはいない。うちの主君が阿呆じゃなくて安心した。


「何が望みだ!」

「引退して私に譲ってください」

「……そなたがこの帝国をどうにかできるというのか?」

「今のまま置いといたら1年もちませんよ?」

 皇帝は隣のガイウスを見ると、彼は小さく頷いた。

 がっくりと肩を落とし、しばらく瞑目した後、クワッと目を見開きこう告げた。


「ならば力を示せ。帝国の先行きに立ちはだかる困難を打破するための力を、だ」


 そして、明日の正午。俺とガイウスの一騎打ちが決まった。なんでさ?

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