門を開けよ
「ここだ! 者どもかかれ!」
「「応!!」」
重装歩兵が盾を構えて殺到する。彼らの突入を援護するため弓兵が前進し、一斉射撃を仕掛けた。
同時に軽歩兵が堀に飛び込んでそのまま土塁に取り付く。
組織だった抵抗はできておらず、そのまま門を確保してそのまま騎兵が突入した。
「陣は放棄せよ! 帝都に退却だ!」
敵将ヴァレンシュタイン伯が撤退を指示する。そして自身は親衛の兵を引き連れ、こちらの追撃を押し返して、周囲の兵の撤退を援護していた。
「シーマ!」
「ニャ!」
弓兵の指揮はロビンが行っている。シーマは切り札として俺の周囲にいた。
目立ってしまったのが運の尽きだな。
シーマが無造作に矢を放つ。若干距離があるため、放物線を描いて飛ぶ矢は、吸い込まれるように馬上のヴァレンシュタイン伯に突き立った。
「ぐあっ!」
やったか!? と思ったが、馬上でその姿勢は崩れない。
「旦那、ごめんニャ。防がれたっぽいニャ」
腕をかざして急所を守った。というか普通に鎧貫通するシーマの狙撃を腕一本で防ぐとかどんだけ。
「ちい、狙撃か」
周囲を騎士たちが取り囲み、一気に城門を目指す。城門の前には撤退を支援するために皇帝直卒の部隊が槍先をそろえて待ち構える。
「見事な隊形だが……ケンタウロス隊、騎射突撃だ!」
「「応!!」」
騎兵を展開するだけのスペースはないが、狭い範囲を利用して3段射撃を仕掛ける。
前列、中列、後列が交互に入れ替わりながら矢を射かける。
しかし、白兵戦に及ぶ前に、敵は城内に撤退に成功し籠城の態勢となってしまった。
「陣形を整えろ。敵が出撃してくるぞ」
歩兵を前に立て、敵の突撃に警戒する。同時に土嚢、柵などを巡らす。
「攻城兵器はさすがに調達できてないな。あの壁を乗り越えるだけでも一苦労だ」
城壁をはさんで向き合う。疲労困憊している兵に休息をとらせることはできるが、時間はこちらに不利に働く。
なぜなら、こっちに援軍はいないが、あっちには援軍の当てがある。
それこそ、反乱に加わったとされる貴族たちも沙汰待ちとなっている。謀反人を討てば功罪相殺とでもいえばいい。彼らは喜んで出撃してくるだろう。
少数の部隊でも後背を脅かされるとなれば、こちらの士気は崩壊する。
「アル殿。どうしたもんかね?」
「攻城兵器はない。ってことは手は一つだな」
「切り札を切るのかい?」
ブラウンシュヴァイク公も表情に余裕がない。
「それしかないと思ってるが、問題はタイミングだ。一度戦闘が途切れたからな」
「負傷者の回復次第だよねえ、けど敵にとってもそれは同じどころか、魔法薬とか使われたら差は開く」
「こっちもウォードがいろいろ用意してくれててね。森の中で薬草を栽培とかナニモンなんだろうな」
「この戦争の借りは彼をくれって言ったらどうする?」
「やめてくれ、あいつの飯がどれだけうちの軍の士気を盛り上げてるか」
「はは、いい人材だねえ」
「というか、公爵様が熊獣人を取り立てたら騒ぎにならないかい?」
「そもそもフレデリカ皇女の施策には適うでしょ」
にっこり笑って俺にとどめを刺す。容赦ねえ。
「ま、勝ってからだ。負けたらそんなことを悩むこともできないしな」
「ふふ、ここは乗っておこうか。ところでね。あの門扉なんだけど」
「ん?」
「雷の耐性魔法が入ってるね。たぶんさっきの雷の刃は効かない」
「なるほど。そういえば本物の切り札は見せてなかったっけな」
「え?」
「あ、魔法使いってどの程度集められる? まるごとじゃないにせよ、表面には篤い鉄板が入ってるでしょ?」
「あ、ああそうだな。50人ほどかな」
「大体半々で火炎魔法と、氷雪魔法を分けられるかい?」
「可能だ」
「ならば払暁から攻撃を仕掛ける。用意させておいてもらっても?」
「承知した」
払暁。陣の先頭にカタナを抜き放った俺が騎乗して立っている。両脇に魔法兵が並び、その前には矢を防ぐために大盾を構えた重装歩兵を配置した。
俺の背後には突入に備えた騎兵と軽歩兵が並んでいる。
「魔法兵、火炎魔法用意……撃て!」
25名の魔法兵が連続で火球を叩きつける。門扉自体はびくともしないが、徐々に朱く赤熱しはじめる。
片方の魔法兵が疲弊し始めてきたタイミングでもう一部隊の魔法兵に指示を出した。
「第二波、氷魔法、全力で叩きつけろ!」
兵たちはきょとんとしている。赤熱した鉄は柔らかくなる。だからさらに焼いて叩き壊すつもりだと思っていたのだろう。
だが冷やせば固くなる。より城門は堅牢になってしまう。
同じようなことを城壁上の敵兵も思ったのだろう。にやにやとこちらのすることを眺めていた。
この時点でフレデリカ皇女は俺の意図を理解したのだろう。一瞬ニヤリと笑みを浮かべた。
同時にブラウンシュヴァイク公も理解したようだ。
「アル殿。確かにこの攻撃で門はもろくなる。しかし破城槌がない」
「ああ、仕上げは俺がやる」
「斬鉄の技か? だとしても危険だ!」
「いやいや、こうするんだよ」
城門は冷却され、表面に氷が張っている。そしてシーマが弓兵の視力で確認すると、ところどころに亀裂が入っていることを見て取った。
「裁きを統べる賢者よ、汝が叡智、天秤の守護者たる力を顕さん。おお天帝の怒りよ、今こそ神鳴りてその威を示さん! 大雷!」
呪に従って雷雲が呼ばれ、大樹を真っ二つにできるほどの特大の落雷が降り注ぐ。
稲光は、頭上にかざした俺のカタナに落ち、俺はその雷光をカタナにまとわせる。
「危険だ、弓兵! あいつを討て!」
城壁上の騎士が慌てて俺に向けて射撃を命じるが……時すでに遅し。
帝都守備兵の矢じりは鉄だ。そして雷光をまとうということは……磁力を操れるというわけだ。
カタナを振るうと、空中で無数の矢が止まる。再び刀を振るうと、矢は跳ね返されたように空中に放り出され……城の頭上に降り注いだ。
「ぎゃああああああ!!」「うわああああああああ!!」「痛い、痛いよ……」
城壁上はいきなり修羅場になっている。
俺はカタナを城門に向けてかざし、とっておきの弾丸を取り出した。
切っ先からレーザーのように雷光が伸び、城門の中心部に触れる。
「震天雷!」
最後の呪を紡ぐ。雷光は強大な磁場となって、ローレンツ力を発生させ俺の手元の弾丸を瞬時に音速以上に加速した。
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