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面倒ごとは適材適所

ステイホーム……GW終わっただと!?

 情報としてはまあ、特段特殊なものじゃない。ガイウスがこっちの陣営に揺さぶりをかけてきた。それだけだ。

 諜報を何より重視しているやつが、なぜこちらが最も有利なタイミングで襲撃をかけさせたのか。少なくとも、この襲撃が数日早ければもっとこちらは不利な戦いを強いられた。

 後詰があるのとないのでは兵の心理は大きく違う。偶然の可能性はあるが、こちらに何かを仕掛けてきて、結果的にこちらの利となっている。そんな感じがした。


 失策だろうと言う者もいた。すべての策を成功させることなどできはしないと。それは正しい。それでも、ここぞという策は必ず成功させる。ガイウスはそんな奴だ。


 小手調べをするような間柄じゃない。ガイウスと共に戦った期間は短いが、戦うときの考え方、癖などはお互いよく知っている。

 なにか、大きな策が動いていて、俺がその全貌をつかめていないのではないか? そう思えて仕方ないのだ。

 先日の負け戦は、俺が全軍を掌握できなかったから起きた。そういうのは簡単だ。

 そもそも奴の策は、俺たちの居場所を喧伝し、自軍の不利を喧伝し、あえてこっちの陣営に味方するものを増やした。

 小規模な遭遇戦はすべてこちらが敵を蹴散らした。ここでポイントなのは蹴散らしたということだ。討ち取った兵は少なく、捕虜はもっと少ない。

 要するに勝ったという形式はあるが被害を与えられていないのだ。

 だが勝ち馬に乗ろうという日和見の貴族がこちらにどんどんとやってくる。それは兵站に負担を与え、さらに制御できる兵を減らすことになる。

 そうして、こちらの戦線を引きずり伸ばし、膨らみ切った風船はただの一刺しで弾けた。


 さすがに似たような策は使ってこないと思う。それでも、あれだけ大掛かりな策を仕掛けてきたこともあって、警戒を緩められないのだ。

 もはやそれすらも奴の策かもしれないと、思考の泥沼に陥っていた。


「あら、アル。どうしたの?」

「ん、ああ。敵の真意が読めなくてな……」

「そんなの無理に決まってるじゃない」

 あまりにあっさり言われてあっけにとられた。

「おま、一体何を」

「じゃあ、アルは私の思ってることがわかる?」

「……腹減ったとか?」

 そう言った瞬間、俺の首は右に90度曲がっていた。予備動作一切なしの見事な右フックだった。

 しかも回復魔法をまとわせていたので、物理的な力が加わっただけで、こっちへのダメージは一切なし。無駄に器用な真似をする。

「あら、だってあなたがほっぺたを腫れさせていたら不仲を疑われるでしょ? そうなったらめんどくさいわよ?」

 めんどくさいの内訳を考えてみた。おそらくお互いに別々の婚約者とかを薦められたりするんだろう。同時に皇女が認めた婚約者という肩書がなくなると、貴族様たちは俺を喜んで最前線に叩き込もうとするだろう。

 別にそれを厭うわけではない。俺以上に味方の損害を減らせるものが居れば、だが。

「考えすぎなのよ。罠があればそれらをすべて食い破ればいい。ヴォルフガングはそう言っていたわ」

「なんという脳筋」

「小手先の策をいじくりまわすよりは正攻法の方が強い。貴方が私にいつか言った言葉よ。謹んで返却させていただきます」

 茶目っ気たっぷりにしかめつらしく告げるフレデリカを見て、俺は数日ぶりに笑ったらしい。なぜか対面にいるフレデリカが顔を真っ赤にしていた。

「その顔、反則!」

「なんでだよ……」

「とにかく反則! ……イ……ンすぎるじゃない」

 セリフの後半は聞こえなかったが地味に不穏当なことを言っていることは伝わった。


 とりあえず気を取り直して政務に戻る。スラヴァ砦に備蓄されていた物資は膨大だった。余剰分を計算し、周辺の集落に与えた。そうしないと食うや食わずの状況だったのだ。

 また、レーモン男爵たちの所領にも物資を送ったが、獣人族の支援に使ってくれと断られた。

 情報を集めたところ、筋金入りの頑固者とわかったので、皇女に諮って新生皇女軍の最初の論功行賞をすることにした。

 勇敢に戦った兵から始まり、指揮官の勇戦をたたえる言葉が続いた。そして、終わりに差し掛かろうとしたときにその名前が呼ばれた。


「レーモン伯爵・・エミール卿」

「はあ!? 御冗談を、吾輩は男爵ですが?」

 うん、驚きの表情を浮かべている。

「先だっての戦にて、貴方は帝国騎士の鑑となる戦いぶりを示しました。10倍の亜人族の攻勢を受け止め、さらに機を見るや先頭に立って突撃し、さらには敵将を討ち取る嚆矢となりました。ケンタウロスの筆頭戦士、テムジン殿より報告を受けております。

 またその際に、テムジン殿の功績を喧伝し、自らは裏方に徹した謙虚。その心がけも素晴らしい。よって、今のわたくしでは空手形になるやもしれませんが、貴方を伯爵に叙し、スラヴァ砦の城主に任じます。同時に、このあたり一帯の獣人族の集落はスラヴァ砦の指揮下に付けることとします」

 皇女の宣言の後、ブラウンシュヴァイク公が笑顔で拍手をしていた。

「エミール卿の武勇と勇敢さは昨日の戦場に立ったものすべてが目にした。皇女殿下は正しい沙汰を下された!」

 直後に万雷のような拍手が議場を埋めた。そして獣人族の兵たちが沸き立った。

 スラヴァ砦の前城主は獣人族への締め付けがかなり厳しかったようで、それを陰ながらレーモン伯爵が助けていたようだ。


「ありがたき、ありがたきお言葉。吾輩は身命を賭して皇女殿下のために働いて見せますぞ!」

 

 獣人族の存在は俺たちにとっての切り札で、最大の泣き所だ。彼らの価値観は独特で、強いものに従うとか恩を受けた者に従うとかそれぞれだ。

 だからこそ、フレデリカ皇女が子供を保護し、俺やシーマが武勇を示し、そして、彼らに恩を施していたエミール卿を取り込んだ。

 彼自身は領主としての手腕もあり、性格は頑固者。要するにすごく扱いやすい。

 わかりやすい正義を示しておけばいいのだ。


 まだ油断はできないが、軍の中核になる精鋭を得た。貴族どもはブラウンシュヴァイク公が取りまとめてくれる。

 あの大敗にもめげず、再びわが軍に加わってくれる者もいた。

 このスラヴァ砦で、皇女の軍は二度目の旗揚げを果たしたのだ。

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