さてどうしたものか
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朝、目覚めると目の前にフレデリカ皇女の顔がドアップで見えた。
「うぇ!?」
「ん、ふわああああああああああああああ」
あくびをするなら口元を隠すべきだと思うんだ。うん。
「あ、おはようございます」
「あ、ああ。おはよう……」
俺は慌てて自分の身体を検める。服は着ていた。そして皇女を見ると寝巻のようなラフな格好ではあるが、服を着ている。
「ん? 裸の方がよかったですか?」
「あ、いや、そういう意味じゃない」
「そうですね。そういうのは結婚式挙げてからでお願いします」
なんというか、酔いつぶれて寝てしまったのは俺の失態だろう。にしても……
「まさかグラス一杯でこうなるとは……」
微妙にしょぼくれているフレデリカ皇女を見てこれ以上の追及はやめることにした。
ちなみに、演説をぶちかまし、盛り上がりが最高潮になった瞬間にパタッと眠っていたそうだ。やむなく控室の寝台に寝かせ、隣についているうちに自分も寝てしまったとのこと。
確かにここは自室ではない。しかし、皇女と二人でどこやらへ姿を消したという事実が残ってしまい、しばらくは侍女たちからの視線が妙に生暖かかった。
獣人族の集結は順調に進んだ。理由は様々だが、砦に備蓄されていた食料の放出が大きい。重い税から逃れた彼らは、少数であるがゆえに食うや食わずの生活だったのだ。
もともと重い税を巻き上げていただけに物資の備蓄は多く、兵力が多少増えても問題なかった。新たに加わった戦士を編成してブートキャンプに叩きこんで行く。すでにキャンプを卒業した兵からは憐みの視線が向けられたが、これから赴くルーキーたちには何のことかはわからなかっただろう。
「アル、率直に聞きます。わたくしたちの猶予はどの程度かしら?」
「……長くて半年。これは帝都が兵糧攻めに耐えられる期間です。場合によってはさらに短くなります。これは、帝都付近で決戦が行われた場合です」
「お兄様のどちらかが勝利した時、ということですね」
「逆に言えば、それが我々の勝機でもあります。戦いで弱ったところを衝けば勝ち目が見えてくる」
「しかし、彼らもその程度のことは理解しているでしょう?」
「そう、そこなのです。我らが第三勢力になるには、この付近の領主の協力が不可欠です」
「そしてブラウンシュヴァイク公もそのために動いている?」
「そうですね。こちらに合流してこないのもそういうことでしょう」
「では、わたくしはせいぜい獣人たちとのよしみを通じるとしましょう」
フレデリカ皇女の目線の先には、獣人族の少年少女の姿があった。
「ただ養われるのもあなた方の誇りにはそぐわないでしょう?」
その一言で、彼らを小間使いとした。無論皇女のそばは最も安全が保障されるので、子供たちを保護するという意味が大きい。同時に行儀見習いも行わせている。
「いずれあなた方の地位が上がったとき、礼儀作法を身につけておかないと困りますよね?」
子供たちは教育を受けることができ、安全も確保されている。よって彼らの父母は後顧の憂いなく働けるというわけだ。もちろん戦死者の遺族は厚く遇するという布告も出ている。
戦死者を送る儀式は皇女自らが取り仕切った。
「自由を勝ち取るために散っていった勇士たちよ。道半ばで倒れたこと、さぞ無念であったことでしょう。私はここであなたがたの御霊に誓います。必ずやこの戦いを勝ち抜き、獣人族の尊厳と自由を勝ち取ることを」
そうして戦死者一人一人の名前を読み上げた。戦死者は20名で、半数はオークたちだ。
彼らの亡骸に触れ、黙とうをささげる。そして振り向いた皇女の表情を見て、兵たちは見とれた。
普段は柔らかい笑みをたたえ、優し気な表情をしている彼女が、キッと眦を上げ、唇をかみしめている。
「我が兵たちよ、忠勇無双なる勇士たちよ!」
「「応!!」」
凛とした声に兵は自然と居住まいをただした。
「これからも貴方たちは戦場の露と消えていくでしょう。あるいは私も敗れ、討たれるかもしれません。それでも前に進みますか? 自由を欲しますか?」
「「応!!」」
「ならば改めて誓いましょう。私の命を懸けて」
「「ガンホー! ガンホー! 皇女殿下万歳!!」」
うん、人心掌握は必要だけどさ。あいつら単純すぎね?
こっちを向いてピースとかするな。おいやめろばれたらどうするんだ……。
近隣の諸侯と言ってもいいところ男爵くらいの小領主がほとんどで、彼らを取りまとめようにもなかなかに難しい。
「んー、どうしたものかなあ……」
「どうしました?」
「人族のまとめ役がいないのよね。獣人族は貴方を中心にまとまってるからいいのだけれど」
俺がぶちかました演説は獣人族の戦士階級にかなり響いてしまったようだ。とくにガチで力で迫ってくる相手を、柔術を使って制圧した。これは訓練の時に組み打ちをしていた時のことである。
戦闘技術が高いものを無条件で尊敬する脳筋至上主義者の彼らに一目置かれているのはある意味自業自得だった。
「どんぐりの背比べなのよ。むしろ誰か一人を取り立てたら嫉妬に狂って足の引っ張り合いと内部分裂までセットね。境界争いとかで小競り合いも多かったみたいだし」
「あー、先日も水利争いでけが人出たとか報告が……」
「キーーー! もうなんだからってそんな詰まんないことで武器を持ち出すの!? いっそ全員首を飛ばしてあげようかしら!」
なかなかに物騒なことを言い出すフレデリカ皇女をなだめる。
皇女殿下に忠誠を誓いますと言ってきたのは、男爵4名と騎士が14人。彼らの連れてきた戦力は歩兵1200に騎兵が200。頭数なら倍増だ。
それらが一軍としてまとまっているなら。
それらの旗頭を中心として、100名前後の部隊となっていて、指揮権は各自で持ったままだ。要するに、整列なにそれおいしいの? 横一線で並べるとお互いに抜け駆けしたがる。
個々の武勇も微妙。というか、明らかに農民に簡易の武装させて連れてきているようなのもいる。
まったくもって正しく烏合の衆なのだ。
「「どうしたものか」」
異口同音にぼやきが口から漏れ出した時、使者の来訪が告げられた。ブラウンシュヴァイク公が戦力の再編成を完了させたとの知らせだった。
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