敵襲
「防壁陣!」
「「応!!」」
その体躯を生かしてオークたちは盾を構えてぐっと腰を落とす。
「突撃!」
槍先をそろえ、敵歩兵が突進してくるがこちらの盾を貫けない。
逆にこちらの兵は盾の隙間から槍を突き出し、敵兵を倒す。
「第二列、盾構え!」
風を切ってこちらの陣に矢が飛び込んでくる。敵の援護射撃だ。
二列目の兵が頭上に盾を構えて矢を防ぐ。もちろんすべての矢を防ぎきることはできない。隙間から飛び込んだ矢が兵に突き刺さる。
「ぐうっ!?」
「うがあああ!」
運悪く矢を受けた兵が苦悶の声を上げるが、それでもひるまない。
最前列の兵は敵の槍を防ぎつつ、足に根を生やしたように受け止め続ける。
「いまニャ! 弓箭兵、斉射三連!」
「「「応!!」」」
シーマの命令に従って右翼に展開した弓兵が敵の斜め前方より矢を浴びせる。第一射はやや後方にいる敵の弓兵に降り注ぐ。
そして第二射目以降が敵前衛の頭上に降り注いだ。
「長槍兵、前へ! 叩け!」
敵の攻勢が緩んだ一瞬に、長さ5メートルの槍を垂直に構えた兵が前進し、立てていた槍を前方に向けて倒す。盾兵は一度下がり、態勢を整える。
「槍構え!」
倒した槍を再び持ち上げて、再度の合図に従って倒す。これを数回繰り返せば最前列の兵はかなりの数が倒れていた。
槍の穂先は重量物である。そんなものが5メートルの高さから頭上に降ってくれば、並みの腕力では防ぐことは無理だ。
もちろん一線級の剣士ならば避けることもできるし受け止めることもできるだろう。
しかし歩兵の密集陣形で頭上から矢が降ってきている状況である。
中央の主力である歩兵が崩れ始めた。もちろん先鋒の後方には予備部隊はいるし本陣もいる。最前列の兵を蹴散らしても勝利とは言えない。
「騎兵を出撃させろ!」
「はっ!」
俺の命に従って伝令兵が駆けだす。
「アントニオ殿。出撃の指示を」
「ああ、テムジン殿。あんたの武勇、俺が最大限まで出し尽くしてやる」
二人はニヤリと笑みをかわすと、それぞれの持ち場に着いた。
「雁行陣、左右に展開のち、斉射!」
「「応!!」」
ケンタウロスたちは一塊の群れから、斜線陣に展開した。
展開終了と当時に前方に駆け出し、その勢いのまま矢を放つ。
一言の合図もなく、その矢を放つタイミングはきれいにそろっていた。
敵もただ戦況を見ていたわけではない。崩れる歩兵に援護として第二陣の前進を命じている。同時に騎兵を前に動かし、こちらの弓隊に向けて前進を開始した。
「槍隊、下がれ! 盾兵、防壁陣!」
「「応!!」」
損害の大きい第一陣が下がる。こちらもそのまま敵の第二波を受け止めるべく盾兵を展開しなおす。同時に槍兵は敵の騎兵に対応させる。
「槍衾だ!」
「「応」」
兵を方陣に組みなおし、槍を突き出すように構えさせる。馬は本能的にとがったものを突き出されるとひるむ。
それゆえに、長槍兵を前面に出して突撃の勢いをそぐのだ。ただ、通常は騎兵の機動力に対応は難しい。
小規模な方陣など、回り込まれたらそれまでで、騎兵の機動力への対応は不可能だ。
「突撃!」
テムジンが槍を振るい、前進してきている敵の第二陣の側面を衝いた。
陣形は鉾矢形。その切っ先にテムジンがいる。
後方の兵は緩やかに左右に展開し、陣の切っ先の向く方へ集中して矢を放つ。そうすることで敵の陣列にほころびができ、そこを切り裂いていくことを可能とするのだ。
「うわははははははははははははは!!」
槍を振るい、その身を朱に染めて哄笑する姿はまさに鬼神。敵をひるませ味方を鼓舞する。
「やらせはせん、これ以上やらせはせんゴボッ!」
歩兵を指揮していた騎士がテムジンの前に立ちはだかり、槍を合わせることもできずに突き落とされた。
指揮官を失った歩兵は混乱し、パニックに陥る。
「わははははははははははは! 続けええええええええええ!!」
「応!」
そのまま勢いを止めずに敵歩兵の中央を突破し、そしてまさに槍衾を回避しようとしている敵騎兵の側面を衝いた。
「左翼騎兵、敵騎兵の突撃を受け混乱しています!」
「右翼騎兵を押し上げろ! 敵歩兵の側面を衝かせるんだ!」
「はっ!」
指示自体は正しい。こちらの左翼に位置していた騎兵は、歩兵の側面から中央を突破して反対側に抜けている。現在騎兵と交戦中で、元の位置に戻る前にその穴を衝けばこちらを瓦解させることができるだろう。
こちらの本陣という名の予備兵力は、機動特化の軽歩兵だ。防戦には向かないし、騎兵の相手なんかとてもできない。
「最後の仕上げだ。行くぞ!」
「「応!!」」
黙って騎兵の突撃を受ける必要はないのだ。今取りうることのできる最善手は……混乱している敵歩兵に逆落としをかけ、そのまま並行追撃をかける。
敵味方が入り乱れれば騎兵は突撃できない。そもそも小回りが利かないのだからよほど訓練されていない限りは、隙間を狙っての突撃は不可能だ。
それこそうちのケンタウロス隊のような一糸乱れぬ機動が必要になる。
「突撃! 突撃! やっちまえ!」
盾兵は左右に分かれ、本体の進軍経路を開ける。同時に敵騎兵に対応するため、本体の側衛に回る。
シーマの弓兵も遊撃戦闘に移行した。少数の部隊に分かれて展開し、味方の援護を行う。基本的には狙撃だ。
シーマの働きは縦横無尽で、指揮を執っている騎士を狙って射落とす。
しかもよほどのことがない限り殺さない。下級指揮官は軍の土台を担う存在で、彼らを無力化すれば、軍はただの兵になる。
「進め! 進め! 進め!」
俺は兵の先頭に立って鼓舞する。分断された中央の歩兵は指揮官を次々と失って、もはや軍としての体をなしていない。四分五裂のありさまだ。
そして、こちらの勢いに押され、一切交戦していないはずの敵本陣が退却を始めたのだった。
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