とある傭兵の半生~5~
村から少し街道を進んだ場所は開けた平野になっていた。それでも端の方は草木が生い茂っていて視界は通っていない。
真っ向からの殴り合いになれば、数に押し切られるのは目に見えているが、これ以上はどうしようもない。
「隊長!」
振り返ると、買い出しやら猟に出ていた連中が戻ってきていた。あとは領都に出していた使者が復命していた。
「領主さまは配下の傭兵部隊を出してくれるそうです」
「ほう、それはありがたいな。俺たちはどれだけ持ちこたえればいいんだ?」
「へえ、半日で先遣隊がいくと」
「なに!?」
速すぎる。こいつは馬に乗れるから半日で行って戻ってこれた。馬は泡を吹いてへたり込んでいる。つまるところ全力疾走を続けた結果だろう。
数にもよるが軽歩兵を主力として進軍してきたとすれば大体3日はかかる。そのころには俺たちはゴブリンどもの腹の中だろう。だからあえて前に陣を張って村人を逃がす算段をしていた。
だが、俺の考えが間違っていなければ……?
「全軍、防御態勢だ。防壁の波陣!」
「「おおう!!」」
盾がかき集められる。戸板を半分に切って、2重に重ねたものに取っ手を付ける、といった突貫作業で数をそろえた。中央部には頑丈な盾を持った訓練を受けた盾兵が集められる。
「いいか! 盾は隙間なく並べるんだ! 隙間があればそこから敵が入り込む。お前らの後ろには戦友がいる。助け合うことで生き残れるんだぞ!」
「「「おおおおおう!!!」」」
「隊長!」
偵察に出ていた兵が息を切らせて戻ってくる。
「来たか」
「はい! 敵の数はおよそ800。一塊になって進撃してきます」
「者ども! 続け! 全軍前進!」
兵たちは雄叫びをもって応えた。
「前列前進!」
「「応!!」」
ザッ、ザッと歩調を合わせ、横一列に展開した歩兵が進む。その姿におびき出されたゴブリンたちが奇声を上げてバラバラっと出てきた。
「前列防御! 盾、構え!」
「「応!!」」
「後列、投石用意!」
「「応!!」」
「KYASYAAAAAAAAAAA!!」
棒切れや石を手にゴブリンたちが目を剥いて襲い掛かってくる。それを前列の盾兵たちは盾を並べて迎え撃つ。最前列の盾兵の後ろには、短槍を持った兵が控えており、盾の上に顔を出したゴブリンの顔面を狙う。
さらに二分した兵の半分が投石を始めた。山なりに投げつけた石は、弧を描いてゴブリンどもの頭上を襲う。
それで足並みを乱し、一斉に攻撃されることを防ぐ。単純に盾を挟んでの押し合いならばそうそう負けない。ゴブリンは小鬼と呼ばれるような、小さく非力な存在だからだ。
しかし、それでも一斉にかかられると押し負ける場合がある。
それゆえに、槍を突き出し、石を降らせ、矢を浴びせる。
この陣は盾と人間が織りなす城壁だ。
「前列交代! 3・2・1……押せえええええええええええ!!」
カウントダウンでタイミングを合わせ、盾ごと体当たりをかける。そうすることによって敵を一時的に押し返し、さらに背後から新手の盾兵がその隙間を埋めるために前進する。
「防御態勢! 構え!」
「「応!!」」
盾を並べて防壁を作る。これまで全線で体を張っていた兵たちは、後方に下がって態勢を整える。
「後列待機。半数交代で補給を許可する」
俺の命令に従って兵たちは休めの姿勢を取る。そして、補給隊が走り回って水筒を配ったり携帯食を配布、また石を兵の周辺に設置していった。
「後列、投石用意! ……放て!」
合図に従って一斉に投げつけられる石は、ゴブリンたちの頭上に降り注ぎ、敵陣から悲鳴が上がる。
「続け!」
敵がひるんだ一瞬を捉えて、親衛隊と敵陣に切り込み、突き崩す。
「GOGYAAAAAA!!」
背後から何を言っているかよく分からない声が聞こえ、ゴブリンの前衛が下がっていく。
「前列投擲! 用意……放て!」
手投げ矢や石を放つ。敵の撤退経路と言っても一本道だが、そこには……兵が伏せてある。
「つがえ! 引け! ……放て!」
弓兵が敵に横矢を浴びせる。仮に敗走することになった場合、この弓兵が敵の足止めをする予定だった。
攻撃に使うことができたのは……幸運だったのだろう。
敗走する敵に追いすがり、ホブゴブリン2体を討ち取ることができた。
追撃部隊を収容し、態勢を整える。ざっと見渡して、100ほどの死体が転がっていた。敵味方合わせて、だ。
「負傷者、治療急げ! 味方を収容するんだ。二人組は絶対に崩すんじゃないぞ!」
バディといってもなかなか意味を理解してもらえなかったので苦肉で二人組という呼称を用いていた。
もはや息をしていない仲間の姿を見て怒りを燃やすもの、悲しみに暮れるもの。様々だ。そして、奴らは一時的に下がっただけで俺たちはまだ勝っていない。負けてはいない、というのが正しいところだが。
「隊長! 敵が前進を始めました!」
「野郎ども! 10歩後退だ!」
「「応!!」」
陣列を下げることで、荒れた地面で戦うことを防ぐ。盾を並べて地面を踏みしめる状態で、足を滑らせたら致命的だ。
戦死者は列の両端付近から出ていた。片側が無防備になってしまうからだ。それゆえに武勇に優れた勇士を置いていたのだが……戦場では勇敢な兵から死んでいく。彼らは命を顧みず戦うからだ。
彼らには哀悼の意を示し、剣を天に向け掲げる。
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