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とある傭兵の半生~4~

 村のそばまで戻ると、柵の内側で30人くらいが待機していた。無事に戻ったことを知って歓呼の声が上がる。そして、けが人は治療を受け、手投げ矢や投石用の石を補充する。


「ゴブリンどもが100いても俺たちの敵じゃねえ」

 倍のゴブリンどもを蹴散らしてきたという知らせに士気は上がる。それでも敵の数やホブゴブリンなどの上位種がいると聞くと、逃げ腰になるやつもいた。

「いいか! ゴブリンの上位種は俺たちに任せろ」

 腕っぷしが強い奴を鍛え上げ、兵長などの階級を着けてやった奴らが気勢を上げる。並の兵なら5~6人相手にしても平気であしらう腕前の奴らだ。


「上位種の魔物を倒せば褒美が出るぞ! 褒美が出たら全部お前らのもんだ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおう!!」」


 士気を高め、欲望を煽る。

「俺たちは仲間だ! 仲間を見捨てて逃げるような臆病者はいないよな!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおう!!」」

 再び鬨が上がる。互いに肩を組んで手に持った武器を天に向けて突き出す。

「お前らはただのごろつきじゃねえ。天狼団の団員だ。だから恩はしっかり返す。恨みは倍返しだ! そうだよな! みんな!」

 俺の激励にケネスが絶妙の呼吸で合いの手を入れた。兵と呼んではいるが、それこそごろつきであったり夜盗まがいだった連中も多い。

 だからこそ、二重三重に縛る。褒美に対する欲望で、仲間意識で、そして名誉欲で。

 逃げたら恥だ。恥をかくくらいなら死んだほうがましだ。

 負けたら恥だ。恥をかくくらいなら死んだほうがましだ。

 仲間がやられたら恥だ。恥を雪げなければ死んだほうがましだ。

 そう繰り返し叩き込む。いざという時に命を惜しまないように。命を惜しんで逃げ出す兵はほかの兵を危険にさらす。


 やってることは悪質な洗脳だろと思う。この考え方は夢で見るあの学校から得たものだ。ただ、こいつらも居場所が無くなれば、待っているのは魔物のエサか、野垂れ死にか。どっちにしてもろくでもない先行きしかない。

 どうせ死ぬならばと捨て鉢になっていることもあるんだろう。死んでもともとと開き直ってるやつもいる。

 ただ、捨て身の強さは長続きしない。守るべきものがある村人の兵の方が思いもよらない戦いぶりを見せることもある。

 命がけの気迫を見せているのはそういう連中だ。


「いいか! これより我らは打って出る。村に立て籠もれば危険は減るだろう。有利に戦うことができるだろう。しかしだ」

 ここで言葉を切る。兵たちが俺に注目した頃合いを見計らって口を開く。

「俺たちが世話になった村は……人が住めない土地になるだろう。なぜかわかるか?」

「……畑が無くなっちゃ生きていけねえ」

 一人の農夫がボソッと漏らした一言は全体に行き渡ったように感じた。

「そうだ。食っていけなくなる。魔物に畑を荒らされたら、これまでの仕事が無駄になる。この先の暮らしも立ち行かん。だからこそ、日ごろ世話になっている恩を返すのだ。我らの誇りを貫くのだ!」

 雄たけびが上がる。兵たちはうまく乗ってくれたようだ。

「いいか! 貴様らはこれまではただのごろつきだった。死んでも誰も気にしないはみ出し者だった!」

「今は違うぞ!」

 ケネスが絶妙の合いの手を入れてくれた。

「そうだ! 貴様らは天狼団の一員だ! 俺たちは誇りを持って戦うのだ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおう!!」」

「なれば行こう。我らもろともに。先に死地があろうともだ! 俺に続け!」

 続け! と大音声に告げ、俺は歩き出した。西から吹く風は血の臭いと魔物どもの異臭を運んで来る。風下ということは、奴らに気付かれずに近づくことができる利点もある。


「行け!」

 俺の指示で10人の兵が走り出した。二人一組で偵察の任に着く。

 彼らの持ち帰る情報が死命を分ける。

 いつしか俺の周囲には兵が整列し、方陣を形作った。剣の振り方よりも槍の突き方よりも、行軍訓練に時間を割いた。

 一人の兵は一人の力だ。だが軍団となればその力を飛躍的に高めることができる。わずか100名あまりの部隊だが、100ではなく千や万の力を発揮して見せる。そう意気込んで、俺たちは戦いに赴くのだ。



「隊長! 敵は800余り。ホブゴブリンの小隊がいます。そしてその真ん中に……」

 口ごもる時点でかなり悪い情報なのだろう。というか敵の数は減っている、そのうえで悪い情報とは……?

「続けろ!」

「はっ、ゴブリンジェネラルと思われます」

 兵のざわめきが高まる。ある意味最悪の情報だ。

「わかった。後方で休め。ご苦労だった」

 俺は革でできた水筒を偵察の任を果たした兵に差し出す。


 兵たちが俺の方を見る。俺は頭役の兵と目を合わせた後、周囲を見渡して策を組み立てた。俺たちから見て左手の方角に少し小高い高台がある。そして敵がこっちに向かう最短距離では崖になっていてそうそう登れない。


「ロクス。弓兵を率いてあちらの高台に陣取れ。ケネス、前陣を率いて敵に当たれ。ひと当てして整然と退くのだ」

「「はっ!!」」

「あとはわかるな? 訓練通りにやれ」

 俺の言葉に二人は頷くと、「こっちだ!」「続け!」と兵を率いて動き出す。

「トニオ、10人連れて行って右手にひそめ。頃合いを見て突っ込むんだ」

「合点だ!」


「う、うおおおおあああああああああああああああああああ!!」

 ケネスが雄たけびを上げる。巨大なこん棒というか、丸太を抱えて水平に薙ぎ払った。

「GYAAAAAA!」

 ゴブリン数体が吹き飛ばされた。その体は砕け、肉片が飛び散る。

「KISYAAAAAAAAAA!」

 背後にいた真っ赤な肌をしたゴブリンがよくわからない叫び声をあげた。ケネス配下の兵が槍を手に迎え撃つ。

「はあああああ!」

「うりゃああああああ! くらえ! ダブルスラスト!」

 不意を打たれたゴブリンたちは混乱する。


「GUGYAGAAAAAAA!」

 再び異形のゴブリンが叫び声をあげる。

 すると、混乱していたゴブリン以外の連中が隊列を組み始めた。


「頃合いだ、全員……逃げろ!」

「兄貴、気合が抜けるんで「逃げろ」はやめて下せえ……」

「ああん、いいじゃねえかよ。別にやることが変わるわけじゃねえ」

「まったく……」

「おっと、こんなこと言ってる場合じゃねえ。走れ! 走れ!」


 ケネスが兵に檄を飛ばす。そうして高台の前を通り過ぎた。


「放てえええええええええええええええ!」

 ロクスの声に山なりの軌道で矢が放たれる。

「矢継ぎ早の妙技、見せてみよ! 撃て、撃て、討てえええええええええええええええええええええええええええい!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおう!!」」


 驟雨のように降り注ぐ矢に敵の足が止まる。


「続け!」

 俺は剣を抜き放って駆けだす。

「応!」

 一回り身体が大きなゴブリン。いわゆるホブゴブリンをすれ違いざまに斬る。前衛を率いていたのはこいつだ。


「切り崩せ!」

 指揮官を失って混乱する敵の前衛を槍兵たちが叩き伏せる。長柄の槍を持たせ、立てた槍を敵の方に向けて倒す。

 これだけで槍の穂先はその重量によって十分な威力を持つ。槍の柄の長さはそのまま敵兵からの距離だ。敵を外側から一方的に叩くことができる。

 今は優勢だ。しかしそれも長くは続かない。兵は疲労し、槍も折れるものが出てくる。全力で動くことができる時間は、短い。


 そして、敵もそのころ合いを見計らっていたのだろう。新手が繰り出される。


「へっ、やるじゃねえか。だがな!」

 あらかじめ伏せて置いた兵が新手の横合いを衝いた。


「おっしゃ、退け!!」

「「おおう!!」」


「退却の合図だ! お前ら、ありったけをぶっ放せ!」

「「おう!」」

 弓兵が手持ちの矢をばらまくかのように撃ちまくる。その放たれた矢が敵を足止めする。その隙に兵をまとめて下げる。

「点呼!」

 番号を言えない兵がいる。抜けた番号は……7つ。背後ではゴブリンどもが掲げる槍先に首が刺さっていた。

 湧き上がる感情を抑え、兵を下がらせる。歯噛みする音が頭にこだまする。普段より足音がうるさい。感情のままに地面を蹴りつけるものがいる。


 追撃はなかった。伏兵を駆使して戦う俺のやり方は敵も理解したんだろう。そしてそれは好都合だ。少しでも足止めができればいい。


「手当急げ」

「はい!」

 亜人どもの爪や牙には毒があることが多い。それでなくても不衛生な環境にいるんだ。破傷風が怖い。


「うぐうううううう!」

 ゴブリンの爪でえぐられた傷に蒸留した酒をふりかける。そのまま酒を浸した布を当てて包帯を巻きつける。

 村の司祭は多少だが回復魔法や薬草の知識がある。傷が重いものは後方に下げて司祭殿の治療を受けさせた。


「前線にいる兵力は?」

「97名です!」

「よし、ここに陣を張る」

先日、小説家になろうの評価システムが変わったようです。


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