とある傭兵の半生~1~
唐突にサイドストーリー
子供のころから腕っぷしが強かった。いわゆるガキ大将ってやつだ。こんな村で人生を終わらせられない。旅の冒険者や傭兵から話を聞いてそんなふうに思ったあたり、俺もガキだった。
ん? 俺の名前か? 村にいたころは平凡な名前だったさ。どこそこの家の次男坊。それだけで誰かわかっちまう。ジョンとかゴメスとかまあ、何の変哲もない。平凡な村人ってやつだった。
うちには兄貴がいた。だから畑もみんな兄貴のもので、俺の行く末は、どっかの家に婿に出されるか、小作でもやるか、都会に出稼ぎに出るか、だ。
そして俺は出稼ぎを選んだ。行商人から買ったなまくらの短剣と、同じような境遇の次男坊とかを引き連れて都会に向かった。
いい口減らしになる。そんなふうに言われていた。村の収穫は思わしくない。今年もどっかの娘が人買いに売られていくとかいう噂だった。
ろくに畑も耕さない俺たちは厄介者扱いだった。
「兄貴、俺たちは命がけであんたについていく」
「……わかった」
俺たちの命なんぞ紙ッぺら一枚よりも軽い。それでもとにかくこの境遇から抜け出したかったんだ。
餞別にもらったわずかばかりの金と、それぞれが持ち出した武器になりそうなもの……俺みたいに短剣とかはまだましな方で、鎌とか、それこそ天秤棒とかを担いで、それでもいっぱしの傭兵とか冒険者になるつもりで、俺たちは村を後にした。
そして、途中の街で受けた依頼。ゴブリンの群れと戦って……俺たちは仲間の半分を永久に失った。
ゴブリンたちを撃破して、俺たちは金貨10枚の報奨を得た。村にいたころは金貨なんか見る機会もなかったから、俺たちは途方もない大金を手に入れたことになる。けど、それは仲間の命と引き換えだった。弟を失って泣く者、重傷を負って呻くもの。無傷な者はいなかった。
俺は息の続く限り棍棒を振り回し、ゴブリンの頭を砕いたが、奴らは狡猾で、飛び出したやつを背後から襲ったり、一体が囮になってみたりと、人間顔負けの連携を取っていたのだ。
報酬の一部を村に預け、負傷者の世話を依頼し、借り受けたあばら家で俺は眠りについた。
夢を見ていた。そこは軍人志望の人間を集めて教育を施す学校だった。
俺はそこで、武勇に優れたいっぱしの士官だった。そこで俺は学んだことを思い出す。集団戦では陣形を崩した方が負ける。そして相手より柄の長い武器を使って一方的に攻撃すればさらに勝率は上がる。
簡単な号令を徹底させることで、攻撃、防御、移動を自在に行うことができた。あとは命じるタイミングだ。
「全軍防御!」
「「おおう!!」」
盾を持った兵が前に出て隣同士で盾を組み合わせる。そこに村の子供たちが石を投げてくる。なかなかに容赦がなく、頭に直撃を食らって昏倒した奴がいる。
「盾に隙間を開けるな! 盾兵! 貴様らの後ろには戦友がいるんだぞ!」
「「おおおおおう!!」」
「戦場で一人になることは死を意味する! まずは生き残るのだ!」
「「おおおおおおおおおおおう!!」」
投石が止んだ。手元にあった石を投げつくしたのだろう。
「いまだ! 前衛前進!」
盾兵が掛け声を合わせて一歩一歩前進する。歩幅も合わせ、横一線のままに。
「後列突撃!」
前衛が進んだ分開いた距離。その空間を利用して加速する。
「うおおおおおあああああああああああああああああああああ!」
一塊になった兵は剣を前に突き出して、一斉に駆ける。
「散開!」
頃合いを見て前衛に散開を命じる。中央から綺麗に二分された隊列はそのまま左右に展開し、敵兵を両翼から挟み込む。
まあ、敵兵と言っても村の小僧どもではあるが。
ガキどもは即座に逃げ出す。もともとそうしろと伝えてあったし、大人が形相を変えて迫ってくれば恐ろしいだろう。
「全軍待機!」
「「おう!!」」
俺の声で全員の足が止まる。矢継ぎ早に指示を出す。
「防御態勢!」
「「おう!!」」
突撃で乱れていた陣列が素早く横一線に戻り、盾を構える。そこに再び投石が始まった。
「全軍後退!」
「「おう!!」」
訓練だから飛んでくるのは石だ。それでも当たれば痣くらいはできるし、当たり所が悪ければ死ぬかもしれない。
実際に戦場に出れば、飛んでくるのは矢で、場合によっては魔法だ。
あのゴブリンとの戦いの前にこの訓練ができていれば、と思わなくもないが、過去は戻らない。今は前だけを向いて進むしかない。立ち止まったらその先にあるのは野垂れ死にの運命なんだろう。
そうして訓練を続ける。時には依頼を受けてゴブリンなんかの亜人の討伐も受けた。中にはトラウマになってるやつもいて、ゴブリンを見た途端震えだしたりもしていたが、まあ、何とかやれている。
流れ者とか村でも持て余してるやつとかが入ってきた。それなりに腕に自信もあったようだが、俺にはかなわなかった。
たまに夢を見る。そこで習っている技は、なんというかすごかった。
力任せに殴りつけるのではなく、最小限の労力で相手の急所を突いて無力化する。なるほどな、と思った。戦場では力を使い果たしたやつから死んでいく。
流れ者とか村でも持て余してるやつとかが入ってきた。それなりに腕に自信もあったようだが、俺にはかなわなかった。
たまに夢を見る。そこで習っている技は、なんというかすごかった。
力任せに殴りつけるのではなく、最小限の労力で相手の急所を突いて無力化する。なるほどな、と思った。戦場では力を使い果たしたやつから死んでいく。
ただ、演出ってやつも必要だ。だから俺に挑んでくる奴が出たときはなるべく派手にぶっ飛ばしてる。
とりあえず、この村で一番の力自慢をぶっ飛ばした時はいろいろとすごかった。
「兄貴と呼ばせてくれ!」
「ダメだ」
「じゃあ何て呼べばいい? 俺はあんたについていく!」
「隊長と呼べ。俺の命令には絶対に従うんだぞ」
「わかったぜ、隊長!」
このケネスという男はのちに俺の片腕と言っていい存在になっていく。俺の次に強いこいつは常に下ににらみを利かせ、危険な場所には真っ先に飛び込んでいき、新入りに慕われていた。
だから俺はこいつにいろんなことを教えた。力を使わない戦い方や戦術、指揮などだ。
「戦場では何があるかわからん。万が一、俺が戦えなくなったらお前が指揮をとれ。でなければ、お前が認めたやつに指揮をさせろ」
「いや、隊長より強い奴がいるんですかね?」
「真正面から戦えるとは限らん。奇襲されたらどうする? 寝込みを襲われた場合は?」
「う、いや、あの」
「真正面から陣を敷いて戦う機会の方が少ないって思え。勝つためならなんだってしてくるし、なんだってやるんだよ」
「兵は詭道なり、ですね?」
「ああ、よくわかってるじゃないか」
「うーん、けど俺は頭が悪いんで……」
「そうは思わんけどな。まあ、いい。今後はいろんな人間が入ってきて去っていくだろう。俺も含めて、だ。お前はこの傭兵隊の土台になってくれ。いつまでも変わらない部分になってくれ」
「へ、へえ。俺なんかになにができるかわかりませんが」
「今はわからんでもいい。まあ、人生何があるかわからないって話だよ」
「はあ……」
特に意味があってした話じゃない。どっちかというと思い付きだ。
けどこの思い付きの話がのちのちお互いの人生を左右することになるとか、この時は思いもよらなかった。
さらにしばらくして、俺たちの名前も色々と売れてきた。だから旅立つことにしたんだ。村を飛び出して、すでに2年がたっていた。
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一度書いてみたかった、それだけなんだ
一応このサイドストーリーはオチまで完成しております。すでに予約投稿済みですので、安心してお読みください(=゜ω゜)ノ