雷の閃き
「アル、食料のバラマキがうまく行ったニャ!」
うん、シーマ。お前はもう少し言葉をオブラートに包もうか。
「報告はまず結果を言えと前から教えてるだろ?」
「だからバラマキがうまく行ったニャ」
「その続きは!?」
「おお! 砦を落とすのに協力してくれる人たちが出たのニャ」
「それを先に言いなさい! で、だれが協力してくれるんだ?」
「にゅふふふー。彼らニャ」
犬族の青年が数人立っていた。
「俺たちはフレデリカ皇女のもと、君たちを開放しに来た。殿下は獣人族の地位向上を考えておられる。……あの姿を見ればお判りいただけようか」
俺が指さす先ではフレデリカ皇女が全力でモフモフを堪能している姿があった。
唖然とする彼らも、皇女の笑みは本物と確信したのだろう。膝の上に座らせた犬族の少年を抱きしめ、全力でその毛並みを堪能している。表情は笑み崩れ、普段の凛とした雰囲気はみじんもない。
「……信じましょう。どのみちこのままでは我らに先行きはない」
「事情を聴いても?」
「単純な話です。重税によって我らは追い詰められている。あなた方が来なくても姫を見捨てる覚悟で反乱を起こすつもりだった。むしろあなた方が来てくれて勝率が上がったとすら思っている」
「もともとの勝算は?」
「ほぼゼロですよ。そもそもはらぺこで破れかぶれの反乱がうまく行ったら不思議では?」
「……あなたの名前を聞いても? 俺はアルと言います」
「ヴォルフガングだ」
犬なのに狼とはいかにと一瞬失礼な言葉がよぎったところで、シーマから解説が入った。
「狼族もいるのニャ。よく犬族のリーダーを務めることが多いのニャ。ちなみに、純血の血筋しか狼族を名乗ることができないのニャ」
「なるほどな、いうなれば彼らの社会の貴族ということか」
「いざって時には命を懸けることもいとわない、誇り高き方々ですニャ」
ちなみに、この会話は彼らに聞こえるように話している。一つは俺たちが彼らの社会について興味を持っていることを知らせるため。もう一つは、彼らのプライドを刺激するためだ。
「我らは姫のためならば命を惜しむはずがない!」
うん、扱いやすい。
「では、策を。我らは夜陰に紛れて砦に近づく。あなた方は見張りを内通させてほしい」
「なるほど。鼻を押さえろということだな」
「そういうことだ。近寄って城壁に取り付けばあとは一気に攻め落とす」
「姫の居場所は真ん中の尖塔だ」
「ならばその入り口を押さえればいいな」
こうしてかなりつぎはぎではあるが、砦の攻略作戦は練られていった。
彼らが一枚岩でなかった理由。それは彼らにとっての姫をあきらめることができない一派がいたことだろう。
ということは、この作戦は必ず破綻する。そのうえで次の策を練り込むべきだ。無論彼らの策がうまく行けばそれに越したことはない。だが戦場は流動的だ。それゆえに、撃てる手はすべて打っておくべきというわけだ。
「では、手はず通りに」
ヴォルフガングは自分に付き従う若者を率いて夜の闇に消えた。
俺は部隊を二つに分けた。風は北西から吹いており、風下に主力を展開する。丘を駆け上がるまでにいくつかの陣が築かれており、まともに突破していくと多大な被害が出る。まずは城内での混乱が起きるのを待つ。
事態は風雲急を告げていた。内通を狙った作戦は露見し城は臨戦態勢に入っている。そして、人質となっている少女が城壁の上に引き出されていた。シーマが確認したが、偽物である可能性は低いようだ。
「今すぐ降伏せよ! さもなくば人質の命はない!」
陳腐だが使い古された手というものは有効であるから多用されるのだ。現に現地民である獣人族は戦意を喪失している。
内心でため息をつきながら俺は呪文を唱える。
「裁きを統べる賢者よ、汝が叡智、天秤の守護者たる力を顕さん。おお天帝の怒りよ、今こそ神鳴りてその威を示さん!」
最大威力で雷の魔法を唱える。
「大雷!」
虚空から雷鳴がとどろき、天に向けかざした刃に雷光が閃く。
雷を操り、磁場を固定する。そして、城門に向けたカタナを引き、磁場を圧縮する。
そして、鉄球を磁場に乗せ、圧縮を解除する。引き延ばされた磁場は鉄球を引きつけ、瞬時に加速させる。
術自体の威力は込める魔力と、飛ばす弾丸の重量の掛け算だ。今回俺が放ったのはピンポン玉ほどの大きさの弾丸を3つだ。
音速を超える速さで飛翔した弾丸は空気との摩擦で赤熱し城門に直撃した。一瞬遅れてキュドッと腹の底に響くような音が聞こえてくる。
「まいります!」
「気を付けて!」
ペガサスにまたがったフレデリカ皇女は短槍を手に空へ舞い上がる。
彼女は上空から城に取り付き攻撃を仕掛ける。その目をそらすために俺は部隊を前進させるのだった。
ここからは一秒が死命を分ける。
敵兵は落雷の閃光に視界を奪われ、さらにそのあとの爆発に混乱している。
矢などもすぐには飛んでこないと判断し、足が速い軽歩兵を前に出して進撃させた。
「者ども! 続け!」
「おおおおおおおおおおお!」
「切り込み隊長に続け!」
兵の士気は高い。数日前にあれほどの敗戦をしたにもかかわらずだ。
防御陣内部の兵も混乱しており、猫族の歩兵が柵をするすると乗り越た。敵兵を切り伏せると門を開く。
こうしてやすやすと陣は突破され、俺たちは城門付近に展開する。
唐突に俺の隣にいたシーマが歩きながら矢をつがえ、放った。
夜空を流星のように切り裂き、そのまま人質を抱えていた兵に矢が突き刺さる。兵はぐらりと体勢を崩すと、人質の女性を抱えたまま城壁から落下した。
付き従っていた獣人族の兵が悲鳴を上げる。そんな中、シーマは落ち着き払って城壁上の敵兵を狙撃する。
そして、間髪入れずフレデリカ皇女が落下していく人影を捉えた。
「よくやった!」
思わず叫ぶ。人質は当初の予定とは異なるが救出された。
「敵兵は混乱している。城門は吹っ飛んだ。そして……人質は解放された。貴様ら、もう遠慮はいらんぞ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう」」」
文字通り獣のような雄たけびを上げて、獣人族の兵が城門に殺到する。
それはこれまで虐げられていた感情が爆発するかのようだった。
そして、1時間もせずに城は落ちた。
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