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練達の魔法騎士

「アル殿にはお初にお目にかかる。私はブラウンシュヴァイク公麾下の騎士クラウスと申します」

 うん、ただの傭兵に対してやたら大仰な対応だ。

「ああ、よろしく」

「はっ!」

 なんでこの人上役に対するような対応を俺にしているんだろう?

「で、公のお言葉を賜りたい。如何なる存念であられるか?」

「はっ、皇女殿下のもとにはせ参じました。能うならば先陣を賜りたいと」

「ちょ、まて、それってなんで俺に言う?」

「え? アル殿は皇女殿下の配偶者となられるのでしょう?」

「なっんっで! そっうっなっる!?」

「うむ、見事なスタッカート。武芸にはリズム感が大事、ということですな」

 もうやだ、こいつ話が通じない……。

 数分にも満たない会話に疲れ果てた俺は、フレデリカ殿下を呼ぶよう護衛の兵に伝えたのだった。


「あら、クラウスじゃない」

「おお、皇女殿下、本日も麗しく……恋をすると女性は変わりますな」

「うん、何がどうしてそうなったのかを説明してもらっても?」

「え? アル殿に窮地を救われて一目ぼれして押しかけ女房になったのでは?」

「「んじゃそりゃあああああああああああああああ!!」」

 思わず入れたツッコミは異口同音、同時であった。クラウスはさわやかな笑顔を浮かべている。

「いやあ、睦まじい姿ですなあ。はっはっはっは」


 その一言にぷつッと音がした。ふと横を見るとフレデリカが腰から短剣を引き抜いている。ただ抜き身になっただけなのに恐ろしいまでの魔力を帯びていた。

「アル、どいてそいつ殺せない」

「待て、その短剣はいったいなんだ?」

「え? 皇室の守り刀でフラガラッハっていうらしいよ」

「ちょ、まて!?」

「アンサラー!」

 キーワードに従って起動した短剣は恐ろしいまでの魔力を放ち始める。

「む、これはいけませんねえ。告げる、我が終焉の調べ、すべての契りはここにて断たれん……解呪ディスペル

 指先から放たれた小さな魔力の球は、短剣に当たった瞬間、そこに込められていた魔力を霧散させた。

「な、なんですって!?」

 魔力構造を破壊したわけじゃない。短剣の機能はそのままだ。ただ、周囲に集まっていた魔力を消し飛ばした。

「ふう、驚かさないでくださいよ」

 こいつは並じゃない。無論剣士としての腕もそうだが、恐ろしいほどの魔法の使い手だ。どんな呪文を操るか底が知れない。

 伝説級の武具が起動して、命を狙われても平然としている。クラウスの底知れなさに内心驚愕していた。


「さて、前置きはこれくらいにして、公のもとへご案内いたします」

 うん、こいつを迎え入れた時点で会わないって選択肢はなくなったな。それこそ首根っこひっつかんででも連れていかれるだろう。

 単純に剣で切り結べば勝ちを拾うことはできる。ただ、魔法を含めた総合力でとなると、魔法を使って日が浅い俺には不利だった。

 護衛も不要と言われ、俺とフレデリカ皇女だけがついていくことになった。

「ケネス、拠点に戻って準備を頼む」

「はっ! 帰還をお待ちしております」


「ま、あれです。アル殿の魔法は対人ではなく対軍だからですな。軍勢を率いて向き合いたくはありませんぞ。あっはっはっは」

「どこまで知っている?」

「いや、確かに距離はありましたけどね。あれだけバカでかい魔力放出して、そのあとで大爆発でしょ? 隠す気、ありました?」

「いやあ、はっはっはっは」

「あれだけ緻密な戦術を操るのに、意外なところが抜けておりますな……? 見せつける気でしたか」

「巨大な魔力が放出されて、そのあと爆発した。呪文の内容も属性も不明。とりあえずこっちのカードはそんな感じだな」

「ふふ、やはりあなたは油断がならない」

「どうかね? かのブラウンシュヴァイク公の懐刀のあんたと渡り合える気はしないよ」

「「あっはっはっは」」


 そうこうしているうちに、陣営に着いた。軽く三千はいるな。拠点にこもってもいつかすりつぶされる戦力差だ。

 部隊ごとに分散して布陣しており、その中心部にブラウンシュヴァイク公の直属と思われる陣があった。

「開門!」

 クラウスが先ほどまでのゆるい雰囲気が消えうせ、大きく張りのある声で叫ぶ。

 土塁を築き、堀を穿つ。門は跳ね橋だった。ちょっとした城砦になっている。

 門をくぐると最初に板が敷いてあった。そこに足を乗せるとたわむ。要するに落とし穴なのだろう。

 さらに、門をくぐってすぐのスペースの周囲には壁があった。虎口になっている。

 いつぞや、俺がガイウスと共に戦った時の野戦築城を再現しているようだった。

 

 精鋭とはこのような兵の事を云うのか。整然と整列した兵は身動き一つせず、列をなして道を形作る。俺が足を踏み出すと一糸乱れぬ動きで槍をかざし、互いにクロスさせるように突き出した。そのまま微動だにしない。

「儀仗兵みたいだな」

「ええ、公の親衛ですからな。実際そのようなものです。無論戦いもこなしますがね」

「そのこなせるレベルとやらを想像すると胃が痛くなるね」

「忠誠心、武勇などもろもろを一定以上の水準であると認められた者たちばかりですからな」

「やれやれ。脅されているようにしか聞こえないね」

「お互い様でしょう。それに、遠距離であなたの魔法を叩き込まれればこの軍とて崩壊しそうですからな」

「「あっはっはっはっは」」

「もうやだ、この陰険漫才」


 ひときわ立派な天幕があった。クラウスの先導に従ってその中に入る。

 豪奢な軍装に身を包んだ青年が椅子から立ち上がって笑顔を向けてきた。

「おお、クラウス。ご苦労だったな」

「はっ、アル殿とフレデリカ皇女をお連れいたしました」


「うむ、さて、本題に入ろう。まずはステータスオープンと言ってもらおう」

「「はい!?」」

 俺とフレデリカ皇女の叫びは天幕の中に響いた。

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