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誰がために戦うか

連載再開です

 急ぎ本拠に帰還するため足早に駆ける。

「アル殿。よもや……」

「ああ、ブラウンシュヴァイク公が敵対する可能性がある」

「独立を図ろうということでしょうか?」

「そこまでは知らんよ。ただ、最悪の事態を想定して動くのは傭兵の嗜みだろ」

 というあたりで、シーマが戻ってきた。

「旦那、砦は一応無事ニャ」

「うん、一応っていうのは?」

「大体予想通りだと思うんだがニャ。公爵様の手勢が続々と集まってるニャ」

「ふむ、仮に隠れて行っても……?」

「ニャー一人ならなんとでもなるけどニャ。人数が多けりゃ見つかるニャ」

「だよな。じゃあ仕方ない。そのまま進む」

 周囲の皆が顔を見合わせるが、俺一人を進ませるわけにはいかないと思いなおしたのか、俺を中心として警戒態勢が構築される。

 シーマが前に立ち、前方を警戒する。同様にシーマ配下の猫人族が警戒線の外縁部を作る。俺の前後左右に重装の兵が立つ。盾も背中ではなく、手に持っている状態だ。

 俺の隣には当然のようにフレデリカ皇女がいる。

「見事ですわね」

「わかります?」

「伊達でペガサスに乗ってません。これでも騎士養成課程を出ています」

 たしかに皇女の足取りに不安はない。服装も乗馬服の類だが、ブーツはしっかりとしたもので、山歩きでも問題ないだろう。

 何より、戦うことを前提とした立ち居振る舞いが見て取れる。

「なるほど、ただのお姫様ではないということですね」

「ええ、ですから貴方の隣で陣頭に立ちますわよ」

「それは……」

「女傭兵がいないとは言わせません。女だからと私を戦場から遠ざけようとしないでくださいね?」

「……参った、降参です」

「ふふ、あとはブラウンシュヴァイク公がどう出るか、ですわね」

「そこが読めないんですよ」

「そもそも、相手の出方、情報がないのにわかったらそれこそ異常ですわ」

「ま、そうなんですけどね」

「ガイウス殿から聞いたお話ですが……」

「お聞きしましょう」

「ガイウス殿の参謀がこう言ったそうです「曰く彼を知り己を知れば百戦して危からず」と」

 うん、それ俺が言ったやつだ。孫子の一節だったはず。

「その参謀とやらがあなただとよくわかりました」

「ほう?」

「この一節は情報収集の重要性を伝えたものです。そしてあなたは腹心の部下を派して探らせている。この一節にとてもかなった行いですわね」

「騎士養成課程でそこまでのことを教えるのか? むしろ参謀や将軍のような考え方じゃないか」

「ただの貴族の令嬢だったらそこまではしませんでしたわね。問題は、私の父親が誰か、ということなのです」

「しかし、貴女には兄上がいらっしゃる」

「ええ、権を争い民に迷惑をかけるしかできない愚か者が二人、ね」

「あなたは異質だな」

「ええ、あなたと同じくらい、ね」

 ここで、もしやという考えが頭をよぎった。というか、ほぼ正解なのだろう。

 さすがに周りに聞かせるような話ではない。だから声を潜めて問いかけた。

「あなたも、か」

「そう、戦場で流れ弾に当たった女兵士よ。もともとはね」

「俺も戦場で指揮を執っていて狙撃兵にやられた」

「気づいたら生まれ変わってたみたいでね、というか皇女の身体と意識に「前のわたし」の記憶が居座ってる感じかな」

「俺は死んだと思った瞬間、戦場のそばで倒れていた。なぜか刀だけ持ってな」

「へえ……って、ええ!?」

「なんだ?」

「その刀……千鳥?」

「よくわかったな」

「んー、ってことは、わたしを殺したのは貴方ね」

「ほう?」

「蓬莱国第五師団第七中隊麾下、特務小隊所属の上等兵。これがわたしの肩書」

「大和連邦司令部直下の抜刀隊を率いていた」

「やっぱ、あんた! 刀鬼有田!」

「ふむ、そっちではそう呼ばれていたのか」

「えらいあっさりしているわね……」

「まあ、そういった二つ名はある種の勲章だろう」

「ふうん。一つ聞きたいんだけど」

「なんだね?」

「あなたは何のために戦ってるの?」

「何のため?」

「誰のため、でもいいわ」

 生き残るため、そう思っていた。ガイウスに恩を返すためというのもある。生死不明だったが、先ほどの話で生きているらしいことがわかった。

 あとは、俺が保護した獣人族のため? シーマは確かに俺に好意を向けてくれている。それで彼女を一生守っていくのかと言われると、彼女には悪いが若干の違和感を感じる。

 そうか、俺には向かうべき方向が見えていないのか。

「ふむ、俺は今風に流されている風船みたいな状態、ということか」

「察しがいいわね。だから私があなたの理由になってあげる。というのは?」

「さっきの交渉か? いろいろと無理がないか?」

「ふふん、言ってなさい。けどね、大事な相手を守るために生きるっていうのはすごく真っ当な理由じゃない?」

「それは認める。ただ、その相手があなたじゃないといけないという理由はない」

「ぶー、そこは一目ぼれしたとかあるでしょ!」

「心にもないことを言うのはかえって失礼に当たると思うが?」

「社交辞令!」

「社交辞令で告白されてうれしいか?」

「うぬぬ、ああ言えばこう言う!」

「そういう性質だ。面倒だろう?」

「だからモテないのよ!」

「ぐがっ!?」

 古傷をえぐられ思わず悲鳴が出る。

「あ、あれれれー? 図星? やだー、クリティカルヒット?」

「ふん、見合い相手に3回ほど逃げられただけだ」

「プークスクス。いいわよ、そんな面倒なところもちょっとかわいいって思っちゃったし」

「んあ!?」

 不意打ちにまたもや変な声が出る。


「旦那! ブラウンシュヴァイク公からの使者ニャ!」

 シーマが一人の騎士を伴って俺のところにやってきた。事態は少しづつ動き始めているようだ。

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