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流浪の魔物

 キメラ、キマイラと呼ぶこともある。超一線級の魔獣だ。昔どっかの王様が冒険者時代にキマイラを四人で倒したって伝説がある。逆に言えば、四人で倒せたら伝説になる程度には強いということだ。

 死んだ冒険者の遺体を確認した。そこには深い爪痕と、やけどの跡が見つかった。ただ、その痕跡は火に炙られたような広範囲のものではなく、線状に走っているものだった。


「一般的なキメラは何らかの魔法を使うことが多い。ただ、こんなふうに傷つくとか一体……?」

「特異体ってことでしょうね」

「亜種とか変異種ってやつ?」

「そうよ。通常の個体でも厄介なのに、何てこと」

 チコさんは頭を抱えている。実際死者が出ている以上、ギルドとしても対策を打つ必要がある。ただ、上位の魔獣ゆえにいろいろとかさむのだ。費用とか、場合によっては……人命とか。

「隊長さん。力を貸していただけませんか?」

 その申し出は予想の範囲内だ。むしろ来ない方が不思議なくらいだろう。

 だから、俺はきっぱりと伝えた。

「お任せあれ」

 その一言にチコさんがこちらにすっ飛んできて……目の前に突き立った矢に足止めを食らった。

「シーマ、こんなとこで弓を射るな」

「ふん、鼻の下伸ばしてる旦那がよくないのニャ」

「伸ばしてねえ!」

 などといつものやり取りを交えつつ、作戦会議が始まった。


「ニャーがまず先発するニャ。何人か連れて行くニャ」

 シーマはまず、獣人の中でも目の良い者、耳が良いものなど、数名を率いて生き残りの冒険者から聞いた地点周辺を調査することになった。

 チコさんは冒険者の遊撃隊を率いて現地に向かう。いろんな地形に対して経験を積んだスカウトやレンジャーのパーティだ。

 彼らは罠を仕掛けたり偵察を行う。魔獣の様子を確認して、最適な戦場を選び、そこに誘い込む。

 そして俺は兵を率いる……といっても下手に経験の浅い兵を連れて行っても無駄死にさせる可能性が高い。精鋭を10名ほど選ぶことにした。

 

 辺境地帯の森は深い。開拓の手が及ばず、自然のままになっている。ただ、それでも獣道は出来上がり、それを頼りに冒険者たちが深部に踏み込む。まだ見ぬ光景を求めて。

 未知の光景、未知の素材、未知の生物、これらはありていに言えば金になる。珍しいものを欲する貴族は多く、それらを所持することは彼らのステータスでもある。

 そう、今回の遠征は珍しい魔物のクエストでもある。ここで珍しい魔物のはく製とか作ったら好事家にいくらで売れるのか。アントニオのそろばんをはじく手が止まらない。

 チコさんとどこに売りつけるとか、オークションを開こうとか、奴らの目の前にはいまだ手に入っていない金貨の山が見えているらしい。


 そうこうしているうちに何度か魔物や亜人の襲撃を受けた。選び抜かれた精鋭だけあって、オークくらいは問題なく蹴散らし、ゴブリンに対しても鎧袖一触。

「こいつらの討伐証明をどうするかね?」

 ケネスが叩き切ったオークの首をぶら下げて聞いてきた。

「荷物になるからなあ」

「あ、わたしが証明を書いときますよ。ケネスさんがオークの小隊を単騎で殲滅したって……」

「おお、ありがとな。臨時収入が出たらマルーンにうまいものを作ってもらおう!」

 なんだかんだでうまくやっているようだ。ちなみに、ウォードとマルーンの兄弟はやたら料理がうまい。さらに園芸スキルを持っているそうで、キャンプの畑がやたら豊作になっていた。

 ついでに歌や楽器の技能もあり、絵も描ける。一家に一人ウォードクマ、らしい。


 さて、これだけの部隊を支えるのには当然支援部隊が必要だ。というか、俺が無理やり用意させた。

 現地調達は色々とリスクが高いからな。特に水の問題は難しい……。

「清き水よ、来たれ……スプリング・ウォーター!」

 この生活魔法とやらが無ければ、な。というか知ったときは色々と衝撃だった。

 小部隊であれば飲料水が賄える。火種を用意する必要が無い。であれば、支援部隊のスタッフも最小限にできる。問題は、こう言った未開の地の探索だが……。


「隊長さん、この背嚢っていいね!」

 袋の口を絞れるように紐を通し、担ぐためのベルトを着けただけの簡単なものだが、ウォードがさっくりと作って見せた。

 ベルトの縫製などは見事なもので、革を上手く縫い付けて十二分な耐久性を持たせていた。

 ちなみに、実地で試したのは彼の妹であるマルーンだ。


 狩猟で得た獲物を、支援隊が持っている資材で調理する。うまい食事はそれだけで士気が上がる。

 戦力となる兵は見張りに参加させず、十分に休養を取らせる。これで主戦力の摩耗を防ぐ。


 これは実に良い行軍訓練になっている。行軍は素早く行わねばならない。同時に兵を疲弊させてもならない。彼の太閤が行った大返しなども参考になるだろう。

 むろん規模が大きくなれば別の問題が出てくる。それはそれでまた考えればいい。


 さらに数日、痕跡のあった場所を発見したとシーマから報告があった。というか、1キロ先から矢文を飛ばすとかどんな腕してるんだ……?


 シーマからの連絡内容に皆は悲鳴を上げた。魔獣は人語を解し、交渉を望んでいるとのことだ。

 そうして、さらに1日進み、開けた地形にたどり着いた。そこには一本の大木が生えており、その高い位置に、一体の魔獣がたたずんでいた。

 猿の顔、虎の胴、四つ足は狸で、尾は蛇。伝承に聞くヌエの姿だった。


「……人の子らよ。我と話し合いに応ずるというのか?」

「意思を交わすことができるのであれば、一度はその話を聞きましょう」

 俺は納刀したままヌエの前に姿をさらす。

「我はこの異形ゆえに常に迫害されてきた。先日、そなたらの兵と戦ったのも、彼らが問答無用で攻撃を仕掛けてきた故。我も黙って討たれるわけにはいかぬのでな」

「なるほど」

 俺の背後で怒りを押し殺すものがいる。仲間を殺された冒険者だろう。ただし、ここでコイツとドンパチを始めれば……負けはしないまでも、無傷では済まないだろう。


 そうして、俺はヌエの身の上話を聞く羽目になるのだった。

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