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縫い合わせたモノ

 傭兵団というか、俺たちが根城にしているキャンプは順調に発展していた。周囲にある魔物の巣をいくつか潰したこともあるし、大型魔獣の討伐にも成功していた。

 それによって地域の安全性が増し、また魔物素材のやり取りで商人などが行き来するようになった。


「で、ここにギルドの出張場を置きたいって?」

「ええ、そうよ」

 俺の前にいるのは冒険者ギルドの使者と名乗る女性だった。

 ギルド出張所を置きたいという申し出で、商人の出張所なども置かれるということだ。というか、一時的な拠点のはずのキャンプだったが、もはや村とか集落とかそういう規模になってきている。

 戦える傭兵も三百人を超え、獣人も多くいる。また冒険者から有望なものをスカウトできるという利点もあった。

 ギルド側からしても、有望な戦力を味方に付けられる。ちなみに、ここで言うギルドとはあくまで国の認可を受けての役所ではある。よって依頼料や仲介料は税として一部徴収されるわけだ。


「いいでしょう。許可します。領主のブラウンシュバイク公にはお話は行っていますか?」

「もちろんですわ。この、チダ・チコ。そんな初歩的なミスは致しません!」

「承知しました」

「ええ、そのままわたしが当地の出張所の責任者として着任します。こんごとも、よろしく……お願いいたしますわ」

 その時の彼女の目線はなぜか俺の隣にいたケネスに向いていた。

 ケネスはなぜかゾクっとしたように体を震わせていた。


 そうして始まったギルドとのやり取りで、うちの傭兵団の財務状況は急速に回復した。

「チコさまさまですよ。あーっはっはっはっは!」

 アントニオは非常に上機嫌だ。いままで、倒しても全くお金にならなかったゴブリンたちでも、常時依頼のおかげで収入になる。同時に経験の浅い兵たちの良い訓練相手になっている。

 小隊長クラスの腕に覚えがある連中にしても、中型魔獣を相手にお金を稼ぎやすくなった。オークやトロールなどを相手に日々腕を磨いている。

 そして、たまに出てくるのが大型魔獣で、サイクロプスやオーガなどがそれにあたる。これらは傭兵団の幹部クラスが出て行って対応していた。

 

「いててて……」

 ケネスが負傷した。前線で盾を持って戦っていたウォードの妹マルーンをかばったそうだ。

「ケネスさん……ありがとう」

「なに、君にはいつも世話になってるしな」

 そんな彼らをキラキラした目で見るチコさんがいた。


「なにしてるんですか?」

「ほら、見てください。あの麗しい筋肉の友情を!」

 サイクロプスの棍棒を受け止めたらしいからなあ。そしてマルーンさんがケネスに肩を貸して歩いている。

「うん、暑苦しいなあ」

「暑苦しければ苦しいほど麗しい! 隊長さん、わかってますね!」

「…………」

 これまで彼女は仕事のできる有能な人材だと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ。


「そういえばあなたも……なかなか素晴らしい広背筋をしていますよね……じゅるり」

 俺はその一言を着た瞬間、縮地を駆使して距離を開けた……はずだった。なぜか背後から悪寒を感じ、さらに横に飛びのいたが、その気配はぴったりとくっついてくる。

 そしてついに追い詰められ、背中に縋り付かれた。

「くんかくんか、イイ、イイですよおおお!!」

 むにゅッと背中に当たる感触は……ささやかだった。ただ俺の背中を高速で撫でまわし、さらには素すっと手が伸びて胸元に伸びようとしていた……あたりで風切り音がして俺とチコさんは離れて飛びのく。

「旦那! ニャーというものがありながら何してるニャ!」

「誤解だ!」

「浮気者はみんなそういうニャ!」

「おー、隊長さん。愛されてますねー」

「待つニャ! あんなつるぺたーんよりニャーの方がおっきいニャ!」

 何の話をしているのかはわからない。わからないったらわからない。ただそのサイズの発言の後、俺の背後で闘気が膨れ上がった。

「テメエ、言うに事欠いてだれが合法ロリだコラァ!」

「ふん、ニャーはそんなこと一言も言ってないニャよ?」

 そう言いつつも体をゆするシーマ。そのたびに揺れる。プルンプルンと。

「うふふふー、これ見よがしに見せつけるとか、切り取ってほしいみたいですねえ」

「ハッ、やれるもんならやってみるニャ!」

 この後の乱闘は……あまり覚えていない。ただ、女性同士の戦いというのはなんというか、えげつなかった。

 あと、こんな辺境のギルド責任者を任されるだけあって、チコさんはかなりの使い手だった。

 なにしろ、流れ矢とか巻き添えを食らった被害者がいなかったからだ。お互いはそれなりに擦り傷とか負っていたけどね。


 まあ、そんなこんなで平和な日が続いていた……はずだった。

「あ、隊長さん。ちょーっと困ったことが起きてまして」

 いつも通りの笑顔で俺の部屋に現れたチコさんだったが、扉を閉めた瞬間真顔になった。

「何事です?」

「未帰還率が上がってるの。冒険者の」

「……ふむ。うちの兵たちは?」

「そこまで奥地に入ってないし、問題にはなってないわね。ただ……」

「負傷率が上がってる。あとは亜人たちの活動が活発化している」

「知ってたんですねえ」

「そりゃね。一応隊長を名乗ってますし」

「過去の経験上、こう言うときって……強大な大型魔獣が出てきてることが多いんですよね」

「なるほど。しかし何が?」

「わからない。まだ情報が入ってないから」

 そんな時、扉が開き、シーマが駆け込んで来た。


「旦那! 冒険者が戻ってきたニャ。かなりボロボロで……」

「すぐ行く!」

 外には人だかりができていた。

 息も絶え絶えな状態で倒れている冒険者のそばに駆け寄る。

「あ、チコさん……」

「しゃべっちゃダメ!」

「縫い合わされた魔獣が……」

 彼はその一言を言うとがっくりと首を垂れた。

「縫い合わされた……キメラの類?」

 チコさんの言葉は大きくはなかったが、周囲に響いた。それは、新たな厄介ごとの始まりだった。

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