第6章「会議」
第6章「会議」
寮から出た勇魔は、校舎に向かった。今回の任務に関する振り返りをするためだ。
校舎に入ると、まっすぐある教室に向かった。作戦に関する説明、そして任務の振り返りをするための教室だ。
教室には、自分の他の3人の隊長、4つの隊の副隊長が、それぞれの席に着き、隊員24人が、席についていた。
「今回はみんなご苦労だった。」
勇魔は、教室のホワイトボードの前に立つと、初めにそう切り出した。
「取り損ねましたね。」
一番隊副隊長の中原中也が勇魔に対して言った。この防衛学園にいる少年兵の中では最も優秀な学生の一人であり、勇魔に対して最も忠実な隊員である。しかし、他人にも自分にも厳しい性格のため、勇魔にも遠慮なくものをいうが、そういう点も勇魔から信頼されている。
しかし、この失敗は周りの隊員の勇魔への隊長としての信用を落としかねなかった。今回の任務は、防衛学園に所属する少年兵たちの初陣である。その任務が結果的に失敗という形で終わった。勇魔の隊長としての適性が問われることになりかねない。
「確かに。あれを捕えることが出来なかったのは、隊長である俺の責任だ。最も、あんな形は予想できなかった。」
勇魔は言った。実際、あの状況で狙撃されるなんて予想外である。そう考えたのは勇魔だけでなく、上層部の見解も同じだった。
「あの状況での狙撃は確かに困難だわ。予想外なことであったのは確かね。」
4番隊の隊長愛川友子が言った。4番隊は狙撃部隊で友子は上層部が認めるほど優秀な狙撃手である。その彼女が言ったことで、周りの勇魔を責めようという雰囲気はかなり弱まった。
「何で、狙撃手を殺さなかったの?」
2番隊副隊長、中川良子がぽつりと言った。周りの少年兵たちもそうだが、彼女も今は防衛学園の制服を着ているが、夏の時期であるにも関わらず、彼女は腕部も脚部も黒いインナーで隠していた。
「今回の狙撃手はこの弾丸を使っていた。5.6㎜弾だ。有効射程は600~700mだ。場所自体は何となく把握はできたがろうが、プロの狙撃手が狙撃地点に長居するつもりなんて考えられるか。捕まえるのは実質不可能だよ。それに、俺が殺されなかったことを考えると、今回の標的はあくまで司令官だけのようだったしな。深入りは禁物だ。」
勇魔は諭すように言った。彼女はテロリストを殺すことにこだわりすぎるきらいがある。それは彼女の過去に起因するのだが、勇魔たちの部隊は捕獲部隊であり、暗殺部隊ではない。殺しを若いうちから覚えさせるのはよくないという、上層部の考えから、殺しをしない部隊として訓練されている。それでも、彼女のような、テロリストに対して、強い恨みを持つものが数人いるのも、上層部の意向でもある。その意向が何を意味するのか、勇魔は何となく感づいているが、今は考えないことにしている。
「あんたもいい加減にしなさい。私たちは殺し屋じゃないのよ。勇魔のやり方に従いなさい。」
2番隊隊長、中山弓子が良子に対して言う。彼女はこの中では珍しく、家族や友人をテロで失っておらず、自らの意思で少年兵となった。なぜ少年兵になったのかは、詳しくは知られておらず。不思議なことに、その経緯は幼馴染である。勇魔にも知らされていない。しかし、それでも彼女の戦闘での実力は本物であり、面倒見の良さなどから、隊長としての評価は高い。
良子はそれ以上は何も言わなかった。彼女にとっては戦うことがすべてであって、任務の内容は正直どうでもよかった。戦って生き延びる。それが彼女にとってのすべてなのだ。
「今回は、作戦の最大の目的である、テロリストのリーダーを捕獲することはできなかったけど、その他の構成員を捕獲することは成功した。これにより、パイオニアの戦力が一つ減ったことになった。僕たちの部隊が、テロリスト相手に十分対抗できるということが証明できたわけだ。この点で言えば、作戦の目的の一つは達成できたわけだ。」
3番隊隊長の殺魔央が言った。彼は日米ハーフの少年であり、アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれた。父親はアメリカの軍人であり、母親は日本の自衛官である。元々はアメリカで少年兵として訓練を受けていたのだが、アメリカに研修に来ていた勇魔と出会い、意気投合し、日本で発足される対テロ少年兵部隊の隊長としてスカウトされたのである。
「その通りだな。第一目標は達成できなかったが、そのほかの目標は達成できた。何より、俺たちの中に死傷者も負傷者も現れなかった。この点は特に大きかったといえる。」
勇魔は言った。
「今回のことで、俺たちの戦力は証明された。テロリスト相手に十分通用することがな。これから先、様々な任務を言い渡されるだろう。そうすれば練度は高まるだろうし、より困難な任務にも対応できるだろう。しばらくは、通常生活に戻ってもらうが、訓練と武器の整備などは怠るなよ。今日はこれで解散。」
勇魔がそう言うと、隊員たちは教室から出て行った。勇魔を含めて、4人の隊長だけが教室に残る。
「上層部の人たちはなんて?」
央が聞いた。
「俺一人がリーダー相手に挑んだことは軽率だったって言われたよ。けど、狙撃に関しては予想外であったことは、全員同じ見解だったよ。」
勇魔は言った。
「確かに、あんな状況下での狙撃なんて、考えられないわね。」
友子も言った。
「よほど腕に自信があったってことね。」
弓子は言った。
「アジトから押収したパソコンから、奇襲を受けたことを本部に知らせる痕跡が残っていた。おそらく、その時点から、リーダーを殺すことが、決まっていたんじゃないかな。」
央が言った。
「それにしては、行動が早すぎる。そんな都合よく、腕のいい狙撃手が近くにいたとは思えない。俺たちの行動が筒抜けだったというのが、上層部の考えだ。」
勇魔は言った。自身もその考えのようである。
「いずれにしても、その狙撃手を早く見つけたほうがいいんじゃない?」
弓子が言う。
「いいえ。これだけの腕なのだから、簡単には見つからないでしょうね。それよりも、何故、今回の作戦が筒抜けだったのかということのほうが大事ね。内通者がいるということでしょうけど。それを探すほうが先決でしょうね。」
友子が言った。
「そうだね。早く見つけないと、こちらの情報を向こうが全部分かっているということだろうし。動くこともできない。」
央も同意する。
「その点については、上層部の人たちが、動いている。俺たちは、とりあえず、通常生活に戻るようにとのことだ。」
勇魔は言った。
四人はそれから解散した。勇魔は一人、自室に向かって歩いていく。歩きながら勇魔は考える。これからについて。




