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四神  作者: ゆーま
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第五章「報告」

「今回のターゲットを狙撃したのは、口封じと考えられます。」

現場から引き揚げた後、勇魔は上官たちに伝える。任務失敗の報告と自身の見解を述べるためである。

「あんな屋上で戦うということは、狙撃の危険も十分考えられたんじゃないのか?」

三大竜の一人である、秀悟が勇魔に厳しく尋ねる。かつて、テロリストを最初に襲撃した少年たちの一人であり、数少ない生き残りである。

「あの屋上は、たくさんの太陽光パネルがあり、自分たちはそのパネルの下で戦っていました。狙撃をするには非常に困難です。テロリストのリーダーも、それがわかっていて、あそこを戦場にしたと考えられます。」

勇魔は言った。

「確かにあそこを狙撃するには、かなりの技術を要します。自分たちでもそう簡単にはいきません。」

四竜の一人、武蔵が言う。第2次少年兵の一人であり、狙撃の名手である。

「不可能か?」

秀悟は武蔵に尋ねる。

「困難ではありますが、決して不可能ではありません。タイミングを計り、命中精度の高い銃を使えば。」

武蔵は言う。

「狙撃に使われた銃はSIG SG550の狙撃仕様。テロリストのリーダーの額から検出された弾丸は、この銃専用に製造された、5.6㎜弾です。SIG SG550は5.56㎜弾も使えますが、5.6㎜弾を使ったほうが、5.56㎜弾を使うよりも命中率は上がりますし、まさにテロリストのリーダーを狙っていたものと考えられます。」

四竜の一人である真弓が述べる。銃器のスペシャリストである。

「つまり、テロリストのリーダーは初めから暗殺される予定だったということだね。」

三大竜の一人である智也が言う。秀悟とともに最初にテロリストと戦った第一世代の少年兵たちの生き残りであり、秀悟と比べると穏健派として知られている。その口調も、勇魔をかばっているように聞こえる。

「今回の相手であるテロリストのリーダーは筋金入りの活動家です。確かにかなりの情報を持っていることは考えられたでしょうが、口を割る可能性はかなり低いと思われますが。」

四竜のリーダーである、魔殺鬼が言う。勇魔の兄であり、第2次少年兵最強と言われる、万能戦士である。勇魔とよく似た顔立ちをしているが、勇魔よりも長身で、髪も肩まで伸びている。

「狙撃されたのは、口封じじゃないわね。」

今まで黙って聞いていたルミコが声を上げる。三大竜のリーダーであり、秀悟や智也とともにテロリストを襲撃した一人だが、その作戦をすべて立案したとされる、伝説の存在である。

「口封じ出ないとすると?」

秀悟が尋ねる。

「いくつか可能性は考えられるわ。まず一つは勇魔を守った。今回の相手は筋金入りのテロリスト、勇魔がやられないように陰から手を貸した。もう一つは粛清。何らかの疑惑をかけられていたから、今回の騒ぎに乗じて殺された。今回の任務は、あくまで生け捕りを目的としていた。殺しは含まれない。つまり、仲間によって殺された、あるいは第三者の手によるものね。」

ルミコが言う。

「いずれにせよ、生け捕りという本来の目的を果たせなかった勇魔の責任は重大だぞ。」

秀悟が言う。

「相手はかなりの狙撃の名手らしいじゃないですか?場所的なことを考えると、想定外じゃないんですか?」

四竜の一人である、一が言う。がっしりした体形をしている、重火器と格闘のスペシャリストである。

「だとしてもだ。一対一などという状況ではなく、複数で行くべきだった。勇魔たち隊長クラス四人なら難なく捕まえられたはずだ。」

秀悟は言う。

「そうね。相手を殺したくないというあなたの姿勢は尊重したいけど、結果的に相手を死なせてしまったことはあなたの落ち度ね。」

ルミコも言う。

「最も君を降格させるなんてことはしないけどね。」

智也がやはり庇うように言う。個人的に勇魔を気に入っているようだ。

「ありがとうございます。」

勇魔は智也に対して頭を下げる。勇魔も個人的に彼を慕っているようだ。

「とりあえずは、今回のことは想定外の事態ということで、あなたに罰を与えるつもりはないわ。こちらでも調査したいことがあるし、しばらくは学生生活に戻って待機していて。」

ルミコはそれだけ言った。

「了解。」

勇魔はそういうと会議室を出て行った。


 関東国際防衛学園。日本に複数ある、日本中からテロ孤児を集めて、少年兵を育成するために創設された、半民半官の学園の一つである。

 かつて、世界各国の都市で起きた同時多発テロ。それによって、多くのテロ孤児が生まれる。政府はその孤児たちに対して、一定の保護や保障を与えたが、あくまで保護や保証だけであった。それから数年間、小規模のテロが世界各地でで頻発。自分たちと同じ、境遇の子供たちが増え続けていることに怒りを覚えた日本を含む各国の一部のテロ孤児たちは、ネットを通じて手を組み、自分たちの手でテロリストと戦う道を選ぶ。

 少年たちは、自分たちと同じように、テロによって家族や子供、友人を失った、政治家、実業家、資産家などから支援を受け、武器、装備を調達。様々な方法、ハッキング、情報屋などから情報を得て、テロ組織を探し出し、攻撃した。

 素人によるテロリストへの攻撃、普通に考えれば、成功などありえない。しかし、彼らは成功してしまった。綿密な作戦による不意打ちがうまくいったためだった。また、彼らは捕まらなかった。綿密な作戦は当然、逃げることすら抜かりがなかった。

 このグループはネットを通じて、自分たちの活動を世間に伝えた。すると世間から彼らは支持された。世界中がテロの脅威にさらされている中、積極的にテロ組織を襲撃しようとしない、今の社会に不満を抱く市民は大勢いた。すると、彼らの行動はさらに活発化していった。仲間がさらに増えただけでなく、同じ志を持つ者たちが、日本だけでなく、世界中で立ち上げり始めたのだった。そして、彼らはネットを通じて、つながりを待つ。これが、後々まで続く、少年兵同士の国際ネットワークの始まりである。

 しかし、問題も発生してくる。最初にテロ組織を襲撃したグループは非常に優秀であった。テロ組織を完全に無力化しただけでなく、犠牲者を一人も出さず、近隣に被害を及ぼすこともなく、作戦を成功させた。しかし、増え始めた、様々な少年兵のグループたちは全員が全員優秀というわけでなく、所詮は素人たちの集まり。中には戦死するもの、近隣に被害を及ぼすものなどが現れ始めた。

 テロによる被害者たちがグループを組み、テロ組織を襲撃。それにより、新たな被害が増えているという事態を危惧した、各国政府は少年兵を公式に、合法に育成するための法律を制定、その一環として、国際防衛学園が世界中に設立されることになる。

 テロで家族を失ったものは多く、実業家や資産家が、学園の創立のために出資しており、半民半官の学校である。そのため、出資者の発言力も強く、テロに対しては、攻撃的な姿勢を持つ。

 この学園では、当然一般教養も学ぶが、所属する生徒のほとんどは少年兵になるために入学する。そのため、軍事教育が主である。教育方針は国によって様々であるが、日本では主にテロ組織への襲撃、諜報、要人の護衛などをメインに教えている。

 そして、日本に複数存在する、防衛学園のうちの一つ、関東の東京郊外に設立された関東国際防衛学園。その学園の中でも、優秀な生徒によって選抜された対テロ少年部隊、それが四神である。四つある部隊の中で、一番隊隊長と総隊長を兼任するのが中村勇魔である。


 勇魔は会議室を出ると、そのまま校舎を出た。そして、学園のはずれにある寮に向かう。この学園は全寮制であり、基本的には相部屋だが、勇魔のような、優秀な人間には個室が与えられる。

 勇魔は自室に入ると制服のブレザーを脱ぐ。この学園は制服が支給されており、基本的に、休日でも外出する際は着用を推奨されている。それというのも、この制服は防弾繊維で作られているため、いざという時に身を守るうえで重要だからである。

 未だ各国と比べると、規制は厳しいが、防衛学園の生徒になれば、銃の携帯が許可されるのである。また、一般でも基準はぐんと引き下げられており、拳銃の携帯なども許可されている。

 勇魔はブレザーの下のワイシャツの脇にホルスターを下げており、愛用のH&K USPを収納していた。他にも、後ろ腰にホルスターがあり、コルトパイソンが収納されている。

 ブレザーをハンガーにかけると、ブレザーのポケットから、折り畳みのナイフを取り出す。これらの装備を外すと、ロッカーを開ける。金属製の頑丈なロッカーの中には、H&K MP5、G36、AK74、数丁の小銃や拳銃の他に使う、様々なアクセサリーの他に数本の刀や小太刀が入ってた。勇魔はUSPをその中にしまうと再びロッカーを閉じる、いざというときのために、パイソンとナイフは手元に置いておく。

 この寮の個室は、入り口から入ると、すぐにキッチンスペースとユニットバスがあり、扉で仕切られている。扉で仕切られた側には、入ってすぐ左にウォークインクローゼットがある。扉からそのまま、まっすぐ行ったところに例のロッカーがある。このロッカーは、指紋認証機能がついており、自分の指紋が鍵となっている。ロッカーの後ろには学習机があり、その向かい側にはベッドが置かれている。部屋の一番奥側には窓がある。それほど広い部屋ではないが、一人で寮暮らしをするには十分な広さではある。

 勇魔は机に座ると、置いてあったパソコンを起動する。今回の作戦に関するレポートを作成するためである。

 レポートを作成しながら勇魔は考える。今回の作戦、自分には勝算があった。事前に調査をしっかりと行い、段取りも決め、順調に事は進んだ。今回のテロリストの潜伏先である、団地の構図も頭に叩き込んであった。奇襲をかけてから、テロリストのリーダーに接触するまでもスムーズだった。部下や仲間たちも優秀でテロリストをあっという間に無力化することができた。自分たちの実力がテロリスト相手でも、十分に通じることがこれで証明された。戦力という面ではこれで認められるだろう。過去にいろいろあって、今まで少年兵は訓練されても、ほとんどが現場に出ることなく、そのまま、自衛隊か、警察の特殊部隊に流れて行っていた。今回の作戦でさらに任務が増えるだろう。

 それに、相手のテロリストのリーダーは歴戦の戦士であり、かなりの実力者であったが、倒せない相手ではなかった。奇襲とこちらが余裕を見せて戦いを進めたことにより、相手を動揺させたことで、自分の思い通りに作戦は進んでいた。なにより、屋上には脱出のための大型ドローンがあった。それが相手を油断させることにもつながっていた。自分の勝利、作戦の成功は約束されたも同然だったように思えた。しかし、そんな自分の作戦を嘲笑うかのように、覆された。あんな太陽光パネルが大量にあるところで、一瞬のスキを狙って狙撃をするだなんてほぼ不可能だ。自分も時には狙撃をするからよくわかる。太陽光パネルのわずかな隙間から、自分とテロリストのリーダーを見分けたうえで、正確に急所を狙うという、不可能に近い狙撃、そんなことができるのは数人しかいない。しかも、5.6㎜弾を使うスナイパーとなると、勇魔は一人しか知らない。しかし、どう考えても、彼女であるはずがない。彼女は2年前に死んでいるのだから。5.6㎜弾、つまり、SIG SG550の狙撃仕様を使うスナイパーなど大勢いる。勇魔は自分にそう言い聞かせながら、レポート作成に専念する。


 そのころ会議室では、勇魔を除いた、七人による、議論が繰り広げられていた。

「どう思う?」

ルミコが武蔵に問う。

「先ほど申し上げた通り、あのような場所、かつあのような状況下で狙撃を行うのは非常に困難です。それでも、狙撃が行われたということは、十中八九テロリストのリーダーを狙ったものであると考えられます。」

武蔵は言った。

「となると、やはり、口封じかな?いくら筋金入りの活動家とはいえ、自白をしないとも限らない。それを恐れたのかな?」

智也が言う。

「いや。第三者による行動も十分に考えられる。」

秀悟が言った。

「こうは、考えられませんか?」

真弓が意見を出す。

「今回の作戦は極秘裏に進められていました。奇襲という形で、短時間で終わらせるはずでした。なのに、テロリストのリーダーは抹殺された。しかも、あのような困難な状況下で。」

「メッセージね。」

ルミコが全てを理解したかのように言う。

「そうです。こちらの動きは把握している。彼のような人間を始末することは惜しくない。向こうにはこれだけの力を持つ兵士がいるのだということを伝えようとしていたのではないでしょうか?」

真弓は言った。情報漏れ、テロリストのリーダーの存在価値の認識の甘さ、そして敵戦力の認識不足。敵組織がいかに強大であるかを伝えようとしていたということか。

「となると、相当厄介だぞ。」

魔殺鬼が言う。こちらの情報が筒抜けということは、どんな作戦をこれから立てても、妨害される可能性がある。しかも、今回は運よく生きて帰ってこれたが、次はどうなるかわからない。

「内通者がいるということか。」

秀悟が口を出す。

「一番考えたくないパターンだね。」

智也も深刻そうな顔をして言う。

「あるいはスパイが潜り込んでいるのか。」

ルミコが付け足す。

「だけど、四神も二十八宿もみなテロリストを憎んでいる奴らばかりですよ。仲間を危険にさらすような真似をするとは思えません。」

一が言う。

 確かに今回の隊長である四神、そしてそれに従う二十八宿たちは、そのほとんどがテロによって家族、友人を失った者たち。テロリスト撲滅という、断固たる意志が彼らの結束力を深めているといっていい。それに彼らは様々な厳しい選考を経て、選ばれた者たち、いわば少年兵のエリートだ。とても、テロリストに内通しているとは思えない。

「となると、学園の職員か?」

武蔵が言う。

 今回の作戦は、四神の初陣であり、防衛省から依頼されたものである。学園側が防衛省側から依頼を受け、それがルミコたちに伝えられ、勇魔たちがその任務を任されたという形である。つまり、その情報をやり取りする中で、今回の作戦の情報が漏れたということになる。ルミコたちが情報を漏らす可能性は低い。つまり、可能性としては職員が怪しいということになる。。

「私はこのことを学園長に報告するわ。学園内の職員の調査をお願いするわ。今日は解散。各自、後は自由行動で。」

ルミコは言った。今回のことで何か思い当たることがあるようだ。

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