第三章「少年兵の闇」
「良子君、何のつもりだ。」
央がリボルバー拳銃を持った少女に声をかける。
その少女は、15~16歳くらい。黒い髪が肩まで伸びていて、前髪がきれいに整っている。かわいい顔立ちだが、その眼には感情がこもっていないように見える。服装も、Tシャツに、短パン姿だが、上下に黒いタイツをまとっており、素肌がほとんど見えない。
その声は、少女の行いに対して、咎めるような雰囲気をまとっている。
「何って、当然殺すんですよ。テロリストは殺す。それが私たち、少年兵の役目ですから。」
少女は抑揚のない声で言った。そして、手にしていたリボルバー拳銃、スタームルガー・セキュリティシックスの照準をテロリストの頭部に向ける。
「やめるんだ!」
央は叫ぶ。自分たちが使う特殊弾は、確かに麻酔弾ではあるが、一発、一発の通常の弾丸と変わらない。当たり所が悪ければ死ぬ。ましてや頭部ともなれば即死は免れない。
「止めないでください。」
「いいや止める。」
良子の後ろから声がした。
少女が後ろを振り向くと、手が伸びてきて、良子のリボルバー拳銃の弾倉部分を掴む。リボルバー拳銃は、引き金を引く、あるいは撃鉄を起こすときに弾倉が回転する仕組みになっている。つまり、今のように弾倉部分が抑えられていて回転できない状態だと、発射することができないのだ。
「勇魔隊長、弓子隊長。」
良子がつぶやく。そこには、勇魔と、弓子がいて、弓子が手を伸ばして、良子の拳銃の弾倉部分を抑えている。
「銃を降ろしなさい、良子。」
弓子が言う。
「手を離してください。」
「離したら、撃たないって約束する?」
「なぜダメなんですか?」
「もうここは制圧したわ。これ以上の犠牲者は必要ない。それに、私たちの任務はテロを未然に防ぐことで、テロリストを殺すことじゃないわ。」
弓子が言う。
「甘いですね。」
良子は言う。
「そうね。でも、それが勇魔の方針よ。央、今のうちに彼を。良子、退くわよ。」
弓子はそう言うと、手を離す。良子は黙って、銃を腰のホルスターに戻す。
「友子、目標はどうした?」
それまで、一言もしゃべっていなかった、勇魔が無線に向かって語り掛ける。
「そのまま屋上に行ったよ。だけど上手く隠れていて、ここからじゃ、狙撃をするのは無理ね。」
無線から声がする。
「分かった。俺が直接行く。央、一番隊、二番隊、三番隊を率いて各階を調べさせろ。倒した連中は処置してまとめておけ。まだ潜んでいるのがいたら、沈黙させろ。」
勇魔は混血の少年に命じた。
「私も。」
良子も声を出す。
「お前はだめだ。弓子、そいつを連れて行ってくれ。」
「了解。」
弓子はそういうと、良子の手を引いて連れて行く。
「彼女はやっぱり危ないよ。」
央はそういった。
「分かっている。けど、戦力としては大きいし、何より上から任されているしな。あとは頼む。」
勇魔はそういうと階段を上っていく。
「了解。」
央はそう答えると、無線で各隊に支持を与える。
「少年兵の闇か。」
勇魔は司令官の場所に向かいながら呟く。
多くのテロ孤児が所属する自分たち、対テロ少年兵部隊のでも、良子は一線を画した存在である。対テロ戦争の動きが活発的になってきたころ、彼女の両親は、積極的な支援者だった。その活動を疎んだ、とあるテロ組織の一派が、見せしめのため、彼女の両親と兄弟は殺された。良子自身も半殺しの目にあったが、奇跡的に命を取り留めた。しかし、心と体に大きな傷を負い、テロへの憎しみに満たされてしまっていた。全身にタイツをまとっているのは全身に負った傷を隠すためだ。
その憎しみを見込んだ、一部の幹部たちによって、少年兵として教育された彼女は、テロリスト殺害に一切の躊躇を見せない人間兵器となってしまった。勇魔はそんな彼女を戦わせることに迷いを感じている。
だが、今はやるしかない。今は戦争中であって、戦力を欠くわけにはいかないのだ。