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初めて

こんな競馬小説を書いてみたかったの。変態的かつサブカル的に書いてみます。読むと分かりますが、実際のあの馬をモデルとしています。

ボクはこの年末に死のうと決めた。虐められて、家に居場所は無く、ただただ疲れた。もう何もしたくない。


ボーっとするなか、国営放送で競馬が流れていた。有馬記念。名前だけは知っている、特にどうとも思わず見ていた。

当然、名前も知らない馬達で黒かったり赤みがかったりした馬達がぐるぐると輪で回っていた。

競馬に興味が無いボクでも1頭だけ名前を知っている馬がいた。

[ホープエンペラー]

二年ほど前に無敵の皇帝とか希望の皇帝とか言われて、連戦連勝がニュースで流れてた。持ち主がどこかの社長で、マスコミに出ては素晴らしさを語っていた。その後はボクは知らない。アナウンサーの説明を聞くと中々波乱万丈らしい。怪我や病気で休みながらその度に復活したとか。しかし去年の有馬記念でレース中に怪我をしたらしく、惨敗して今回が一年ぶりのレースだとか。

第一印象は綺麗な馬だということ。次に顔の額辺りに一筋白い毛があり前髪と眼の大きさも合わさって異常なまでにカッコ良かった。なにより、歩き方が他の馬と違っていた。地面を優しく撫でる様な歩き方。けど力強い。ジャズピアニストの演奏を彷彿させた

騎手が跨がり横にいる人と相談している。何を話しているかは分からない。

時折、観客が映る。年末だというのに、たくさんの大人達が、様々な表情で動いている。優しい顔に怖い顔。だが、みんなそれぞれ活きた顔だった。多分、今のボクより清んだ顔をしている人はいないだろう。

アナウンサーが色々喋る一番人気は四歳馬カオデカイデと白い馬を大映しにした。白毛、白馬だから綺麗かといえば、そんなことも無く、なんか不恰好に見えた。

ホープエンペラーは五番人気。なんでも一年間休養し大レースを勝った馬はいないとか。

全く分からない競馬用語を掻い潜りながら聞き取れる情報を精査していく。なんとなく面白味を感じてきた。


『まもなく発走です』とアナウンサーが言う。どこかの音楽隊がけたたましい音をあげる。

ボクは、段々とワクワクしてきた。それはもう何年も感じてない感情な気がした。

学校行事より胸が踊る。

唯一、知っている馬。ホープエンペラーに頑張れとボクは願っていた。

テレビの映像からも寒さが伝わる競馬場。芝生が緑と枯れた様な色をしていた。ただっ広いグラウンドの様な外周。ゲートに1頭1頭おさまる。

ガチャンかガシャンか分からないがスタートした。

アナウンサーが1頭1頭紹介するかの様に先頭から順番に告げる。最初から全速力で走り出した馬がいる逃げ馬というらしい。普通の陸上競技は先頭に立つ人がそのまま押し切るイメージだよなあ何て思った。競馬はどうなんだろ?

一番人気の馬は白いからすぐに分かった五番目くらい。その少し後ろにいる綺麗な馬がホープエンペラーだと分かる。

カメラが先頭や後方、中段を映す。その都度アナウンサーが的確に実況する。上手いなあと感心する。

何分何秒とか言い少し速いペースだと告げるがボクには分からない。

最初飛ばしていた馬が目に見えて遅くなる。アナウンサーは最終コーナーを回って最後の直線と叫ぶ。

待っていましたと白い馬体が加速していった。


『JRA最後の大勝負有馬記念残り400の標識、鞭がはいる先頭は葦毛の馬体のカオデカイデ、カオデカイデが先頭。その後ろになんとホープだ、ホープ が来たホープエンペラーが来た。完全に2頭の争いになった。手応えはどうだ。手応えはどうだ。なんということでしょう。ホープエンペラーが一年ぶりのホープエンペラーの手応えが良い。外から捉えた!ほ、ホープだホープだ。皆の希望が帰ってきた。暮れの中山競馬場有馬記念。これは奇跡では無い。やはり強かった強かった。まだ余力はある1馬身抜けた。

今年の有馬記念はホープエンペラーです。間違いありません、あのホープエンペラーが復活しましたあ〜』



国営放送で許される様な実況では無かった。声は枯れて裏返り涙声になり、正確な情報は伝わらない。ただ、アナウンサーをも巻き込んだ目の前のレースがとんでも無いことだと分かった。

アナウンサーが申し訳ありませんと鼻をすすり泣いている。

ボクも泣いていた。涙って熱いなあと思った。そして、少しだけ生きようと誓った。

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