2話 からの妖精
父は医者、母は大手化粧品会社の社長で、裕福な環境に俺は生まれた。
一人っ子だった俺は、両親からとても愛され、幸せな日々を過ごしていた。
しかし両親は、俺がまだ幼い内に交通事故にあい、莫大な遺産を残してこの世を去ってしまう。
それから、祖父母に引き取られた俺はすくすくと成長し、中学を卒業する頃には、祖父母に迷惑をかけまいと一人暮らしをすることを決めた。
そして、高校に入学して一ヶ月、一人暮らしを始めてからは二ヶ月ほどが過ぎようとしている今日この頃なのだが…。
どうやら俺には、妹ができるらしい。
そんな訳のわからん状況のなか、俺はキッチンで妹になる?人のぶんの焼きそばも作りながら、さっきのことを思い出す。
………?
ここはどこだ?
ドアを開けると、俺の知らない部屋だった。
女の子の部屋なのか、かわいいぬいぐるみがちらほらある。
そして、その部屋に女の子が一人。
小~中学生くらいだろうか?
女の子のは、妖精の着ぐるみパジャマを着ていた。
「よう、立花隼人」
女の子は俺に話し掛けてきた。
声は普通の女の子の声で、髪は金髪、目はくりくりの碧眼だった。
髪は結んでなくまっすぐで、人形みたいだと思った。
「っ!そんなジロジロ見てないでさっさとなんかしゃべれよ!はっ、恥ずかしいだろうが!」
女の子は頬を真っ赤にして言った。
「え、えっと…誰?」
「だ、誰って、さっき姿を見せるって約束しただろう?」
女の子は、真っ赤な顔のまま不思議そうにこっちを見ている。
「いや、俺が約束したのはリリィとかいうおっさんなんだけど…」
まさかとは思うが…。
「リリィは俺だよ」
やっぱり!
でもリリィはおっさんの声だったはず…?
「さっきは声をかえてたからな」
心をよまれた?!
あ、そいえばさっき心がよめるとか言ってたな。
「ああ、心もよめるし声もかえれるんだ。どうだ?妖精だって信じたか?」
「いや、でも姿を見る限りでは別に普通の女の子なんだけど…?」
見た目は普通の女の子ので、体から光が出ているとか羽がはえているとか妖精っぽいところは全然無い。
「ああ、そうだな。俺は見た目の妖精っぽいところが全然無い。だがな、羽ならある!」
妖精は成長途中であろう小さな胸を前に突き出して、自信満々に言い放った。
「どこに?」
背中のほうを見てみるが、羽などははえていない。
かわりにパジャマにプリントされた、トンボみたいな羽が4枚あるだけだった。
「これとか言わないよな?」
「ちげーよ。というか、今は羽はついてないんだ。羽は取り外し可能なタイプだからな」
取り外し可能なタイプ?!
「じゃあ今はどこにあるんだ?」
「まあ、待て」
そう言って妖精は、パジャマのお腹部分についているポケットをゴソゴソした。
「あったぞ、これだ!」
妖精は、ポケットから羽?らしきものを取り出した。
形は妖精の羽だ。
しかし、それを見てそれを妖精の羽だと信じるものはいないだろう。
色は銀色、金属光沢でてかっていて、おまけに大量のネジがついている。
「は?何これ?」
「妖精の羽だが?」
「無理があるだろ?お前は何者だ?」
「妖精だが?」
「証拠は?」
「この羽だが?」
いろいろと訳がわからなかった。
主に、この自称妖精がなぜこの羽の形をした金属で、俺に信じてもらえると思ったのかが。
もしかしてOBAKA☆なのか?
「おっ!お前今俺のことバカなんじゃないかとか思っただろ!」
「いや?思ってませんよ?」
今までのことが急に馬鹿馬鹿しくなってくる。
俺は、心がよめるとか言ってたのも嘘なんだろうと思い、自称妖精に嘘をついた。
「ほ、ほう。俺に嘘をつくとはいい度胸じゃねーか」
強くにらまれながらそんなことを言われたが、妖精のパジャマを着た女の子にそんなことを言われても、全然怖くない。
むしろ、なんかほのぼのする。
「っ!よし、いいだろう。そんなに信じられないのなら、力ずくで信じさせてやろう。最終兵器を出してな!」
「はぁ、別にいいけど、早く終わらせてくれよ」
起きるのが遅かったためもうすぐ正午なので、お昼は何にしようか考えながら適当に自称妖精の話を聞く。
「この羽を背中につけるとだな…」
どうせ、変な仕掛けで宙に浮くとかだろう。
それはそれですごいけれども。
「この羽をつけると、火を吹けるようになる!」
「…はあ?!」
予想とは全く違いびっくりする。
「いくぞ!」
そう言って自称妖精は大きく息をすった。
「ちょ!それが本当だとしたらやば…」
「ブォォォォォォォォ!」
俺が止めようとした時にはもう遅かった。
自称妖精の口からは、勢いよく炎が吹き出している。
「あああああ!俺の家がぁぁぁあ!」
火をよけるために伏せながら叫ぶ。
数十秒がたち、火を吹くのをやめたみたいなので顔を上げると、自称妖精はニヤニヤしながら話し掛けてきた。
「なあ?信じただろ」
とりあえず無視して、家が燃えていないか振り向いて確認するが、多少壁などが焦げていたものの燃えてはいなかった。
「ああ、この火は調節が出来てな、今は家が燃えない程度の大きさの火を出したがもっと大きな火だってだせるんだぞ。どうだ?すげーだろ?信じたか?」
ニヤニヤしながら自称妖精は俺のほうを見ている。
「い、いや、でも口の中に仕掛けとかあるかもしれないしまだ信じられな…」
「信じられないっつったらこの家ごと焼きこ〇すぞ」
俺の話を遮って、自称妖精もとい妖精様はとんでもないことを言い放った。
「ひゃい!信じるでありまふ妖精様!」
焦るあまりすこし噛んでしまった。
そして、そんな俺を妖精様は満足そうに見ていらっしゃる。
「いや、俺のことはリリィ様って呼べ。俺はこれからお前の妹になるんだし、名前呼びのほうがいいだろ」
「え?」
妹なのに様付けっておかしいだろ!とツッコミたかったがそれよりも…。
え?妹?
「ああ、そうだ。俺は今日からお前の妹だ。よろしくな。」
「ん?え?リ、リリィ様?いったいどういう意味で…」
「意味とか聞いたら焼きこ〇す」
またも話を遮って、殺害予告をされる。
「ていうかそもそも意味なんてねえよ。妖精が突然現れて、お前の妹になるっていうだけの話だ」
「えっと、だから、そのー、な、なんで俺なんですか?」
「それはな、この妖精リリィ様から直々に、お前にあることを伝えにきたからだよ」
ニヤニヤしながらリリィ様はおっしゃった。
「あることって一体…?」
「まあ、その話は昼ご飯の後だ。とりあえず、オレ様のために昼ご飯を作ってこい、お兄ちゃん!」
満点の笑顔で言っているがなんか逆に怖い。
「焼きそばしかありませんが、それでいいですか?」
「ああ、別にいいぞ。あと、俺に敬語なんか使わなくてもいいぞ。というか使うな。もっと軽い表現のほうがいい」
「は、はい、リリィ様。分かりまし…」
と言いかけたところでリリィ様がこっちを睨み付けていることに気付いた。
「もっと軽い表現にしろ。あと、やっぱり様は付けなくていい」
「は、はあ。分かったよリリィ」
正直怖かったが、逆らったら焼きこ〇されそうなので言葉の表現を軽くする。
「じゃあ俺は昼ご飯作ってくるから…」
「ああ、20分以内に作ってこいよ」
「わ、分かった」
そして俺はドアを閉め、キッチンに焼きそばを作りに行く。