一話 おっさん
温かい目で読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
五月中旬のとある土曜日。
俺は、誰かに起こされたような気がして目を開けた。
が、自分は一人暮らしで誰かが起こしてくれるなんてありえないので、二度寝をするために再び目を閉じて…zzz
「おーい。起きろー」
また、誰かに起こされたような気が…
「お、やっと起きたか?」
………?!
「………えっ?!」
なんか野太い男の声が聞こえる?!
突然のことに驚きながらも、ベットから上半身だけを起こして周りを見渡すが、誰もいない。
「突然だが、お前が立花隼人であってるか?」
誰もいないのにおっさんの声が?!
この声は俺を呼んでいるみたいだが、声には聞き覚えがなかった。
「おーい。聞こえてねーのか?おーい」
家には俺しかいないはずだけど…あれ?
「聞こえてんだろ?おーい。おーーい。無視するならお前の恥ずかしい写真、ネットに上げるぞー?」
え?!なにそれ?!そんなもの持ってるの?
とにかくそんなことをされると困るので、この謎の声に話しかけることにした。
「あのー、誰ですか?」
「ん?おお!やっぱり聞こえてたか。よかったー」
謎の声は続けた。
「で、俺が誰かって聞いたな。俺は妖精だ」
………?
「よ、妖精?」
「ああ、名前はリリィだ」
「リリィ?!おっさんの名前が?!」
「そうだ、リリィってよんでくれ」
「マジで⁈」
とりあえずこのおっさんは、頭がおかしいらしい。
「うんマジだよ。それよりお前、今俺の頭がおかしいとか思っただろ?」
「え?!いや、思ってません…けど?」
もしかして、自分の頭がおかしいって自覚してるのかな?
「俺は妖精だからな、お前の心がよめるんだよ」
「へ、へぇー」
やっぱりこのおっさんは、頭がおかしいらしい。
「信じてないみたいだな」
「そりゃあ…」
「だろうな。なら…よし!ゲームをしよう。赤、青、黄色の内から、好きな色を選べ。お前の心をよんでその色を当てて見せよう。それで少しは信じるだろ?」
「は、はあ」
ならば試してやろうおっさん!心がよめるのならどんな色だって当てられるはずだからな!
俺は無言で、この三色とは関係ない白色を思い浮かべた。
「はい、選びました…けど?」
「いいな、じゃあ当てるぞ?」
「はい」
緊張が走る。
「お前が選んだのは……?」
おっさんは、少し間を置いてから答えた。
「白色か?」
「っ⁈…正解です」
なぜか当てられた。
「………メンタリストかなにかですか?」
「ちげーよ!妖精だよ!お前の心をよんだんだよ!」
「本当に?」
完全に信じた訳ではないが、本当に心がよめるんじゃないかと思えてきた。
「ああ本当だとも。すげーだろう?」
「本当だったらすごいですけど…」
本当だったらすごいけど…まだ信じられない。
「お前まだ信じてねえのか?」
「そりゃあ簡単に信じられるような事じゃないですし…」
「そうだな。じゃあ…どうしたら俺は信じてもらえる?」
「そうですね…とりあえず、姿を見せてくださいよ。俺もあなたのこと見てみたいですし」
考え中なのか、間を空けておっさんは答えた。
「それはー…嫌だな」
「え?どうして?」
「嫌なんだよなー」
はっきりしないおっさん。
「だから!なんで嫌なんですか?」
「なんでって、それはな、俺が…ゴニョゴニョ」
急に声が小さくなるおっさん。
「え?最後がよく聞き取れなかったんですけど」
「だから!俺が…ゴニョゴニョ」
再び声が小さくなるおっさん。
「あのー、また聞き取れなかったんですけど…」
「だからー!」
大きく息を吸って思い切ったように叫んだ
「なんか恥ずかしいんだよぉぉぉ!!!」
……………
見られるのを恥ずかしがるおっさんとか…想像するとなんかキモイな。と思った。
でもたしかに、小さいおっさんに妖精みたいな羽がはえていると考えると、恥ずかしがる気持ちも分からんでもない。
「あ!お前今、俺のことキモイと思っただろ!」
「あー!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
心をよまれたっぽいので、とりあえずあやまる。
「でも姿を見せてもらわないと、あなたを妖精だとは信じられないですね」
「くっ!他に方法はないのか?」
「うーん」
姿を見せるのがどうしても嫌らしいが、他の方法なんて思いつかない。
「恥ずかしいことないですよ!妖精なんですし、自分に自身をもってください!俺もあなたの容姿について、なにも言わないようにしますから!」
少しの沈黙のあと、おっさんは決心したように言った。
「わ、わかった!しかたないな!お前に俺の姿を見せるよ!」
「おお!お願いします」
「でも、ここに現れるにはお前にやってもらわないといけないことがある」
「え。ま、まさか?」
もしかして、召喚の儀式とか口寄せの呪文みたいなのくるのか⁈と期待したがその期待は一瞬で壊されることになった。
「お前には、部屋を出てからドアを閉めた後に、ドアの横にさっき勝手に取り付けさせてもらったボタンを押してもらう」
勝手にボタンをつけたとか言っていたが、一々突っ込んでいると話しが進まないのでスルー。
「あー、あと部屋の外だと俺の声聞こえないから」
「へぇ。そうなんですね。分かりました」
「じゃあよろしく」
妖精のおっさんがどんな姿なのか考えながら、部屋を出てドアを閉める。
と、ドアのすぐ横に、今まではついていなかったボタンがあることに気づいた。
ボタンを押したらどうなるんだろうと、ドキドキしながらボタンに手を伸ばす。
「ピーンポーン」
ボタンを押すと、家のインターホンのような音がなった。
するとすぐに、ドアを向こうから「トントン」とノックする音が聞こえてきた。
誰もいないはずの自分の部屋からノックが返ってくることに、不思議な感覚を覚えながらも、心を落ち着かせる。
そして俺は、ドアノブに手をかけ、ドアを思い切り開けるとそこには………
女の子がドアの前に座り、こっちを見つめていた。
まだ続く予定ですので、次もよろしくお願いします。