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ペットヒーローズ‼︎  作者: 通行人C
一章 ヒーローになる
1/10

プロローグ 「───」1

カクヨムで書いてるやつをなろうにも移してきます!

どうぞお付き合いくださいませ!



 ざわめきが彼を包んでいる。

 それは嬉々とした歓声のようで、侮蔑の野次のようで、嘲笑う嗤い声のようで。

 どれが、誰の口から漏れたものなのかもてんでわからない。……無意味な羅列だった。


 そんな中でも流れるように舌を回して、声を張る何者かの音声がある。

 ノイズ混じりのマイクごしの音声でべらべらとうるさい、男の声。

 大仰なしゃべり口調で何やら長いセリフを吐いているその声は、スポーツや格闘技を解説するそれに似ている。



 彼はおぼろげな意識の中で、一瞬だけそれらの音を耳で拾って。瞬く間に見失う。



 音なんて拾っている場合じゃないのだ。

 今、彼が感じることができるのは、背中に触れる土の冷たい感触と、濡れて張り付くような衣服の気持ち悪さ。

 彼は小さく呻いた。



 なんで、こんなことになってるんだっけか。



 ぼぉっとした頭には、そんなことが浮かんではきえて。

 昨日まで……。たった十数時間前まで、法波のりなみわたる《《だった》》その人は考える。


 こんなこと、とはつまり冷たい大地に仰向けに寝転ぶ現状で。ビリビリと電流のように体を駆け抜ける、激痛だった。

 つい昨日まではこんなことはあるはずもない生活を送っていたのだ。


 少々のままならないことはあったが、ごく普通の、毎日だったはず。

 それだっていうのに……。



 ぼやけた視界の中、燻んだ色の人影が見える。

 ごろんと寝転がった彼を見下ろす、薄い膜の張った影。

 こいつは、……何だったっけ?



 彼は瞼を持ち上げて、視神経を無理矢理に働かせた。

 霧がかかったような視界が徐々に晴れていく。

 浮かび上がってきたのは確かに記憶にある輪郭だ。


 人? ──いや、それは……、



 怪物、だ。



 二本脚で立っているくせに、そのガタイのいい体の上には魚と同じような頭が乗っているのだから。そう呼ぶほかあるまい。


 ぬるりと光る鱗に覆われた体を飾るのはやすぼったい鎧。

 丸太のように太い腕には長々とした鋭い爪が携わっていた。


 ひとかけらも熱を感じ取れない瞳をぎょろりと回して彼を見下ろしているその化け物は……、


 何度も何度も、彼の体を踏みつけていた。


 振り上げて、振り下ろす。それだけのこと。

 それをなんどもなんども、繰り返す。


 度重なる衝撃と、耳障りな破裂音。

 できることならば今すぐにでも身を翻してこの場から立ち去りたいが、彼にはそれを見上げることしかできない。


 だって指一つ動きやしない。

 それは恐怖や驚愕で体が固まっているのとは違った。

 彼がいるのはそのもっと先だ。


 ……力を込めることさえ不可能だった。


「……、はっ…………ぁ…………、かはっ……」


 口から漏れるのはこんな喘ぎのような音ばかり。


 その平たい足が、鋭い爪を携えた足が、踏み下ろされる。

 大きすぎる衝撃のあと、おまけとばかりにもう一度。

 更にもう一度、もう一度、もう一度。


 踏みつけられる。踏みつけられる。踏みつけられる。

 ただそれの繰り返し。


 パキパキと骨の砕ける音が直に聞こえてくる。

 その割れた切っ先が皮膚を裏側から貫いて、破けた肉の隙間から顔を出していた。


 数分前までは声を張り上げていた喉は乾いてしまい、奥が張り付くようだ。

 だから……たすけて、だなんて。

 口に出す力もいとまさえもない。

 そんなことよりもまず痛い、──痛い。


「ぐ……、あっ…………。」


 衝撃が落ちてくる。

 身体中が燃えるように熱くて、掻きむしりたいような衝動に駆られる。

 それなのに血の気は引いて、寒ささえ感じた。


 痛い、痛い、痛い、なのに感覚で目が冴えてしまう。それが余計に不快だった。


 それでも呼吸を繰り返す、肺が。

 それでも鼓動を刻む、心臓が。

 これほどまでに恨めしかった日が、あっただろうか。


 あーあ、おっかしいなぁ。こんなことになるはずじゃなかったのに。


 なんて、今更になって遅すぎることを考えた。

 ぐらぐら霞む視界の端で、血塗られた足が再び持ち上げられる。

 真っ赤な底が、やけに目に焼き付いた。


 そして─────、



 それは、まっすぐに彼の頭めがけて落下した。



 あ、死ぬ……。



 彼がそう思ったのと同時に、どこからかワアッとどれが誰ともわからない割れんばかりの歓声が溢れた。


 薄れゆく意識の中で聞いたのは、そんなひどく耳触りな嗤い声と拍手。

 その中でも一際大きく笑い声をあげる、覚えのある あの男の声だった。

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最底辺に足掻く彼らをどうぞ嗤ってやってほしい
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