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ボーン・ドリーマー、わたし  作者: @naka-motoo
4/6

不時着する物体

次の日もわたしたちは会った。

その次の日も毎日。


朝早く花に水をやって夕方にまた水をやるその間に。そして時に彼は朝夕の水やりも一緒に手伝ってくれた。


明日は帰らないといけないその夕方も彼と一緒に渡辺さんの家まで自転車で向かうところだった。


わたしの視界が一瞬遮られた。わたしはブレーキをかけるのではなくついハンドルを左に切ってしまった。ずざっと横滑りに転び彼の大声が聞こえた。


「カノさん!」


ガシャッとロードレーサーを放り出してわたしの所に駆けてきてくれた 。


「カノさん、大丈夫⁉︎」

「うん、わたしは大丈夫。肘を擦りむいただけ。それよりあれ」


わたしは道路の上を指差した。

大きな鳥がお腹を地面につけ、羽を広げた格好で静かにしている。


トンビだ」


注意しながら2人してその正面に回った。


「目、開けてるね」

「うん。相当弱ってるみたいだ」


わたしの自転車の前を横切った時は墜落しそうになっていたのだろうか。なんとかして不時着したという状況を想像した。

キトくんは少し離れたところから診断するように鳥を観察した。


「縄張り争いでやられたのかな。傷はないみたいだけど」

「ねえ、キトくん。この鳥、助けられないかな」

「え。でも、野鳥だよ。僕らが手出しすべきじゃないんじゃないかな」

「じゃあ、どうなるの」

「うーん。このまま飛び立てないってなったら多分死んじゃうかな」

「嫌だよ」

「カノさん・・・」

「なんか、やだよ。だってわたしとキトくんの最後の日に、そんなの嫌だよ」

「・・・分かった。動物病院は知ってる。うちで犬飼ってるから前に連れてったことがある。渡辺のおじいさんが入院してる人間の病院のすぐ近く」


この時、わたしはこの人がほんとに好きになった。


「それに、カノさんの肘。擦りむいたなんてもんじゃないでしょ。とにかく僕の家に行こう。自転車、乗れる?」

「うん。それは大丈夫」

「じゃあ悪いけどこの鳥を包むのにバスタオルか何か取ってきてくれないかな」

「分かった」

「カノさん、気をつけて。転ばないようにね」


渡辺さんの家に戻ったわたしは自分のバスタオル持って行こうとした。けれどもサイズが小さい。代わりにここへ来る時に着てきたブラウスを手にした。


出がけに大急ぎで花に水をやった。

そして自分でもなぜだか分からないけれども紫のアジサイを数束摘んだ。渡辺さんの大事な花だと思ったけれどもどうしてかこうしたかった。


「ごめん、お待たせ」


わたしが渡したブラウスを見てキトくんは戸惑った。そして夕日の中でも彼の顔が少し赤らむのが分かった。


「いいの?」

「うん」


トンビはおとなしかった。折りたたむようにゆっくりと羽を二、三度上下させただけであとはキトくんに我が身を委ねていた。

彼はわたしのブラウスで鳥を優しく包み、輪行袋にそっと仕舞った。


夕闇が近づく中、コンビニを通り過ぎてしばらくのキトくんの家に着いた。

彼の両親はまだ仕事から帰っていないという。いたのは彼の祖母と兄だった。


「兄ちゃん、悪いけど車出してくれない?」

「ああ? 俺今仕事終わって戻ったばっかりだぞ。その子は?」


こんにちは、とわたしは挨拶した。


「この子、肘を怪我してるんだ」

「ふうん。ごめんね、ちょっと見せてね」


彼のお兄さんはわたしの肘を覗き込むようにして見ている。


「ダメだよこれ、病院行かなきゃ。素人が勝手に消毒して済む傷じゃない」

「兄ちゃん、頼むよ」

「あーあ。また職場に逆戻りか。ちょっと待ってろ」


部屋着に着替えていたお兄さんは出かけるためにまた準備を始める。キトくんがわたしに囁いた。


「市民病院の看護師なんだ」


お兄さんの車に乗り込む時、キトくんはお兄さんにもう1つの事実も告げた。


「こいつも病院に連れて行きたいんだ」


そう言って輪行袋を少し広げる。

トンビは弱りながらも猛禽類の凛とした眼をお兄さんに向けた。


「おわ! なんだこいつは!」

「こいつも助けたいんだ」

「お願いします。わたしがキトくんに無理言ったんです」

「・・・お前ら、小学生かよ。ええと。カノちゃんだっけか? キト、お前毎日カノちゃんに会いに行ってたのか」

「そうだよ」

「カノちゃんのこと、好きなのか」

「うん。好きだ」


えっ! とわたしは心の中で叫んだ。

お兄さんも一瞬驚いた表情をしたようだったけれどもバックミラー越しににっこり笑ってこう言った。


「なら、しょうがないな」

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