イタズラ好きな彼
今日は僕の古い友人を紹介しよう。大変ユニークなやつなんだが、少々度を越したイタズラ好きでね。何度もイタズラをされては、もう絶交だとさえ思う時も少なくないのだが、なんだかんだ腐れ縁で残念ながらまだ友人のままだ。彼の名誉に誓って言えることは何一つないんだが、悪いやつではないんだ。いや違うな。悪いやつなんだが憎めないやつなんだ。もっと正確に言えば、ある一瞬は死ぬほど憎らしいのだが、その憎しみを長く持ち続けるのが難しいやつなんだ。嫌なやつだ。天性の才能なのか、僕以外からはそれほど憎まれてないようだ。つくづく世の中不平等だと思うよ。あぁすまない。話が逸れてきてしまった。そろそろ彼を紹介するとしよう。
彼とは家が近くて幼稚園の頃から一緒だった。その頃僕は、気が弱くて、内気で人見知りだったが、彼は僕と真逆だった。気の短いやつで、気に入らないと誰が相手だろうがすぐに文句を言い、子供だからよく殴り合いのケンカをしていた。そして、ニワトリもびっくりするほどの忘れん坊だからケンカしたこともすぐに忘れてまた遊び始める、そんなやつだった。僕は彼のケンカに巻き込まれたくなかったから、あんまり彼の近くには寄らなかったんだが、幼稚園だと母親が迎えに来てくれるまで帰れないだろう。僕の母親と彼の母親はいつも一緒に来るし、おまけに家も近いからいつも一緒に帰る羽目になった。帰り道は母親同士で話しているもんだから結局彼と縁ができてしまった。彼と帰り道に遊んでいるうちに、次第に帰り道以外でも遊ぶようになった。彼は僕と遊んでいるときはケンカをしなかった。僕が人見知りだったから基本的に二人だけで遊んでいたし、なにより気弱な僕は彼とケンカしようとは思わなかったから。すると浅はかだった僕は彼が意外にもケンカをしないものだから実は穏やかなやつだと勘違いして、避けることはやめた。人見知りで友達も少なかったこともあってか、よく遊ぶようになり卒園する頃には一番の友人で幼馴染となっていた。
小学校に上がると、彼とは一層よく遊んだ。僕は相変わらず内気で友達百人どころかいじめられないか不安なほどだったが、彼はだんだん丸くなっていった。幼稚園の頃ほど文句を言わなくなったし、何より我慢をするようになった。それでも相変わらずケンカはしていたが。そんな変化もあったが幼馴染の彼とはずっと一緒だった。彼とは苗字、名前ともに似ていたので小学校の座席はいつも近くだった。また運が良かったのか、担任の先生が友達の少ない僕に気をまわしてくれたのか、何度席替えやクラス替えをしても彼と離れることはなかった。僕らは引っ越しもしていなっかったので文字通り朝から晩までずっと一緒に遊んでいた。朝は一緒に学校に行き、授業中も給食の時も一緒に話し、昼休みは二人で遊び、一緒に家に帰る。本当に毎日こんな感じだった。夏休みだろうが、何だろうが、関係なくいつも二人で遊んでた。
六年生になったとき、親の強い勧めで中学受験をすることになった。友達も彼以外にはあまりいなかったので特に抵抗もなく受験をした。合格したとき、彼と違う学校に行くのが不思議と寂しく感じなかった。幼馴染と別れるという感覚はまったくなかった。実際、少し遠くの学校に通うだけで、引っ越したり寮に入ったりすることはないので別れるわけではなかった。
いざ中学校に入った時入学そうそう驚かされた。なんと彼がいるのだ。同じクラスに。彼も受験して同じ学校に来ていたのだ。入試の時に会わなかったこともそうだが、よく入学するまで気付かなかったものだ。まぁ違う学校に行くという重大事を幼馴染に伝えずにいた僕も悪いのだが。これから中高一貫校なので六年もの間また一緒になってしまった。
中学生になった僕はこれまでのように内気ではいけないと思って、いろんな部活をかけ持ちしたり、委員会に入ったりと活発になった。おかげで友達もだんだん多くなり、小学生の頃が嘘みたいになった。一方彼は、対照的にどんどんおとなしくなっていった。文句を言い喧嘩もしばしばだったとは思えないくらいおとなしく、友達は少なく、本ばかり読んでいた。しかし彼はおとなしくこそなったが、それはあくまで外面の話であって、本質的にはあまり変わってなかった。ちょうどこのくらいから彼のイタズラが始まった。宿題だったり、プリントだったりを隠すのだ。それもわざわざ他のプリントや教科書を机の上に散らかしたうえで場所は変えずに隠すのだ。月に何回か、僕の家に来て、仕掛けていくのだ。彼のせいで何回も宿題を未提出にされた。彼なりの配慮なのか、成績に響かないような宿題ばかり狙われたのは逆に腹立たしかった。しかしおとなしい彼の外面もあって、恨むに恨めなかった。
そんなイタズラは高校時代にも回数を減らしながらも続いた。だんだんこちらも慣れてきて、イタズラに気づいても慌てずにすぐに見つけられたりもした。見つけられないときの恨みは深くなったが。意外にも彼と遊ぶ機会はイタズラを看破するにつれて増えていった。正確に言うと遊ぶというよりは話す機会が増えていった。カラオケとかボウリングとかをすることは、滅多になかったが、何でもない体験や今読んでる本などいろんな話題について話す機会は増えた。大学受験を控えた三年生のときもそれは変わらなかった。イタズラの頻度は下がり、会話の頻度は上がっていった。大学に入ってからもそんな調子だった。それからは今に至るまで、ずっとそんな調子だ。
あぁいけない。長い思い出話になってしまった。話が長いのは私の悪い癖だ。そろそろ彼に出てきてもらわないと。彼も待ちわびていることだろう。とはいっても本当はもうすでに会ったことがあるはずなんだけどね。まぁいい。じゃあ入ってきてもらうから、合図するまで目を閉じていてくれよ。さぁ入って、そこに立って。おっとまだ目を開けてはいけないよ。合図するまでだ。もう少し待っててね。……よし準備はできた。よーしじゃあ三,二,一で目を開けてもらおうか。ではようやくご対面だ。三,二,一―――