第95話~開戦~
馬で駆ければ学園内の御影の部屋へは数分だ。
カンナ、つかさ、光希の3人は御影達と合流する為、御影の部屋へとやって来た。
つかさが部屋の扉をノックした。
「どうぞ〜、開いてるわよ〜」
まりかの声が聴こえたので扉を開け中に入った。
カンナの視線は真っ先に斑鳩を見つけた。斑鳩は相変わらずの美しい顔立ちと雰囲気でカンナを心から魅了した。
「斑鳩さん、おはようございます。あの、御影先生は?」
カンナはベッドに座っているまりかには目もくれず斑鳩にだけ話し掛けた。
「御影先生なら医務室に行ったぞ。あの人もちゃんと仕事に行かなきゃならいからな」
斑鳩は優しく教えてくれた。
「カーンナーちゃーん!私にも挨拶してよ〜!おはよ!」
まりかの言葉をカンナは無視した。
「あのさ、カンナちゃん。許してもらえないのは分かってるけど、一言言わせてね」
カンナは振り向きもせず耳だけ傾けた。また暴言でも吐くのかと思った。
「ごめんなさい」
まりかの突然の謝罪にカンナは思わず振り向いた。
まりかの目は確かに悪意はない。氣も穏やかだ。
「私は、あなたを許す事は出来ません。でも、復讐はしません。意味はないですから。ただ、仲良くは出来ないと思います。あなたの事を見ると、あなたが水音を殺した時の事を思い出してしまうから……。光希も同じ気持ちだと思います」
光希は頷いた。
「カンナ……」
つかさがカンナを見て呟いた。
まりかは何とも言えない表情でカンナを見ていた。
「そうよね、あなたの友達を殺したんだもんね。私」
「あなたは罪を償ってください。例え学園の命令でやった事だとしても、あなたの感情は確かにそこに介在していた。殺したいという感情が。あなたは人を殺す事を楽しんでいましたよね??水音の時もそうだった。舞冬さんの時もそうなんでしょ!?」
カンナは言いながら感情が昂り涙を流している事に気が付いた。つかさも光希も斑鳩もカンナの涙を静かに見守った。光希の目にも涙が光っていた。
「罪を償う……本当なら、死罪になって然るべき。なのに、こうして生かして貰っている」
まりかが何か決意したような顔をして一度言葉を止めた。
突然、低い笛のような音が近くで鳴り響いた。
「角笛!?」
つかさがその音の正体にいち早く気付いた。
部屋の周りを2騎の馬が駆け回っているようだ。そのうちの1人が角笛を吹いていた。
カンナとつかさと光希の3人が窓に近寄りブラインドを少しずらしてその2騎が誰なのか確認した。
「あれは……逢山君と扶桑君じゃない?」
「うん、そう」
つかさが2人の生徒の名を言うと光希が頷いた。
「序列33位、逢山東儀と序列35位、扶桑匠登。剣特の落ちこぼれ男子が何を騒いでいるのかしら?」
まりかは2人の名を聞いても特に動じず序列まで丁寧に説明してくれた。
「俺達反逆者がここにいるって事がバレたんだろ?遅かれ早かれ見付かるとは思っていたが、こうも早いとはな」
斑鳩が立ち上がった。
「角笛を吹かれてるって事はほかの生徒に場所を知らせているって事よね。あの2人を速攻ぶっ倒して合流されるのを防ぎましょうか」
つかさの豪天棒を握る手に力が入った。
「待って、御影先生の部屋にいるって事がバレたって事は御影先生自身も疑われるんじゃ!!」
「俺が行こう。澄川、斉宮、篁、お前達はここに待機。俺は外の2人を黙らせたらそのまま御影先生と合流してくる」
斑鳩が上着を羽織り腰に闘玉を仕込んだポーチを着けた。
「いくらなんでも1人じゃ危険ですよ。カンナと私も一緒に行きます!光希ちゃんはここでまりかさんを」
「駄目だ。畦地を篁1人に任せるのか?俺は1人で大丈夫だ」
「あら?私は逃げたり裏切ったりしないわよ。右手は使えないけど、ここにあなた達反逆者以外の生徒が来たらぶっ飛ばせばいいんでしょ?脚の矢傷も心配ないわよ。神眼があれば余裕よ」
カンナ達は目を丸くしてまりかを見た。
「何よ?あなた達に捕まった時点で私は学園に見捨てられたわよ。どうせ私もあなた達共々反逆者認定を受けてるでしょうし。こうなったらあなた達に力を貸すわ。そして、この争いが集結した時、私はここから去り、響音さんを探す」
まりかが反逆者として制裁の対象になっている事はまだ伝えていなかったがどうやら全て悟っているようだ。
「響音さんを探す?」
カンナが聞いた。
「あの人にも謝ってこないと、死んでも死にきれないわ。別に伽灼に言われたからじゃないわよ?私の意思だからね?」
まりかはとても穏やかな表情で言った。
「そうか。畦地も闘えるんなら安心だな。それじゃあ、澄川、一緒に来い。斉宮と篁は畦地と待機。いいな」
「え……!?」
つかさはその命令に顔が曇った。
「わ、私はカンナと一緒に」
「駄目だ。斉宮、お前はここにいてくれ。お前には畦地と篁の2人を守って欲しい」
「いや、だから私は大丈夫だって」
斑鳩はまりかの傍に近付き、まりかの包帯が巻かれた右腕をそっと掴んだ。
「お前は負傷してるんだ。この後ここに、影清さんや美濃口さんが来たらどうするんだ?響音さんに謝るんだろ?それまでは生きててもらわなきゃいけないからな」
「う、うん」
まりかは頬を染め斑鳩の真剣な瞳を見詰めていた。
カンナは少しムッとして斑鳩とまりかから目を逸らした。ふとつかさを見るとつかさは納得のいかないという表情をしていた。
「頼んだぞ、斉宮、篁」
「はい」
光希は素直に返事をしたが、つかさはとても不服そうだった。光希はつかさの事を静かに見ていた。
「つかさ、御影先生と合流したらすぐ戻るからさ」
「うん。カンナ。気を付けてね」
つかさの言葉に笑顔で頷くと斑鳩と共に部屋の外に出て行った。
「やっぱりあの馬、澄川さんのだったんだな。斑鳩さんもいるのは予想外だったけどよ」
馬上の逢山東儀が角笛を口から放して言った。
どうやら部屋の後ろに繋いでいた愛馬の響華を見て気付かれてしまったらしい。
「邪魔をするなお前達。怪我したくなかったらさっさと消えろ」
斑鳩が闘玉の入ったポーチに手を突っ込んで逢山と扶桑の動きを見た。
カンナも少し様子を見る事にした。
「まぁ、俺達じゃあんた達に勝てないから手は出さないぜ。代わりに援軍を呼んだからすぐにここがばれる。あんた達こそ、怪我したくなかったら俺達と一緒に総帥の所に行こうぜ」
モヒカンのような髪型の強面の逢山はニヤニヤとしながら言った。隣の扶桑は特に何も喋らない。2人ともとても若く見える。
カンナは斑鳩を見た。身体中包帯が巻かれていて完全には怪我は治っていないだろう。
「斑鳩さん、大丈夫ですか?ここは私が」
カンナが声を掛けた時には逢山と扶桑は馬から落ちていた。
「大丈夫だ、殺してはいない。こいつらも学園の指示通り動いてるだけだろう。従わなければ俺達と同じ反逆者だからな。行くぞ、澄川」
斑鳩は馬の腹を蹴った。カンナも響華の腹を蹴った。逢山と扶桑が倒れている横を通り過ぎる時、普段斑鳩が使う大きさの闘玉より遥かに大きな闘玉が2つ転がっているのを見た。なるほど、玉の大きさと投擲の際の力加減で殺すか生かすかを調節したのだろう。
カンナは斑鳩の隣に並んで駆けた。
斑鳩の横顔はとても勇ましく見えた。
角笛の音が聴こえた。
千里は矢を蔦浜に向けたまま辺りを見回した。
キナもキョロキョロとしている。
すると千里とキナの後ろから馬に乗った茉里が1騎で駆けて来た。
「新居さん!こんなところにいたのですね。先程大講堂で集会がありまして総帥が反逆者を見付けたら角笛を吹けと仰られましたの」
「じゃあ、今の角笛は」
「ええ、反逆者が見付かったのですわ。さ、早くこちらに乗ってください」
茉里は千里を自分の馬に乗せ、すぐにその場から駆け去ってしまった。
残された御影、蔦浜、キナは気まずそうに顔を見合わせた。
「置いていかれたな、抱」
蔦浜が苦笑しながら言った。
「ま、まあ、いいさ。私は一応、お前を見張る事にするよ、蔦浜」
そのキナの言葉に蔦浜は顔を歪めた。
「お前はさ、俺の事好き過ぎんだろ。監視するつもりかよ、気持ち悪いな」
「ざけんな!お前みたいな変態好きなわけないだろ!!ぶっ飛ばすぞ!!」
キナは顔を赤くしながら蔦浜の胸ぐらを掴んだ。
「いや、ちょ、ちょっと待てよ、お前、ホント、何で顔赤いんだよ」
「し、知らねーよ!暑いんだよ馬鹿!!」
キナは蔦浜の胸ぐらから手を離すと背を向けてうずくまり顔を手で覆った。
「可愛いわね、この子」
御影がにこにこしながら蔦浜に言った。
「じょ、冗談じゃないっすよ、こんな凶暴な女……ってか、どうするんですか、こいつ」
御影の耳元で蔦浜は囁いた。
御影もキナの扱いに困ったようで両手を広げ首をかしげた。




