第89話~神眼の力~
4人に囲まれてもまりかは焦りを見せなかった。
いつものように両眼を不気味に蒼く光らせているだけである。
「丁度いいわね。影清さんの時の反逆者がここに3人も。詩歩ちゃんが見えないけど、あの子もどうせ仲間でしょ?」
まりかは笑顔で言った。
「さあ、そんな事、その神眼で私達の心の中を覗けば分かるんじゃないですか?」
カンナが無表情でまりかに言った。
「何ですって?」
まりかの表情が動いた。カンナには他の3人に見せない物凄い嫌悪感を見せてくる。
「そうね。どちらにせよ、私は斑鳩君の心を読んだ時にあなた達が反逆者だという事は分かっていたけどね」
「へぇ」
カンナは相変わらず無表情で言った。
他の3人も無表情である。
「カンナちゃん、あんた本当にムカつくわね。絶対に許さない」
「許さないのはこっちの方です」
カンナが言った瞬間、まりかはカンナにまた突っ込んで来た。
「私がやるわ。援護をお願い!」
リリアが睡臥蒼剣を構えてカンナの前に出た。
「邪魔よ! 雑魚リリア!」
刀と刀がぶつかった。激しい打ち合い。まりかの2本の刀を的確に受け、的確に避け、これが刀のスペシャリスト同士の闘いかと息を呑む程の激しくも美しい応酬をカンナ達は目の当たりにした。
驚いたのは、リリアがかつて影清戦で見せた実力より格段に強くなっているという事だ。
「あなたに総帥の側近の任を外されてから私は更に腕を磨いたんですよ」
「あら? そんな事根に持っていたの?ちっちゃい女ね」
リリアに対しても嫌味を言い放つまりか。だが、リリアが腕を上げたと言ってもまりかの方がまだ余裕を感じられる。
学園の生徒同士の壮絶な闘い。仕合以外でのこれ程までに激しい闘いは見た事がない。
20合は打ち合ったが決着がつかなかった。しかし、次第にリリアの息が切れ始めた。それに対してまりかは顔色一つ変えていない。
「次は私が行く!」
つかさが豪天棒を振りかざしまりかの頭を狙った。
「見えてるわよ」
まりかは片手でリリアを刀ごと突き飛ばすとすぐにつかさの豪天棒をもう片方の刀で受けた。リリアはその衝撃で地面に片膝を着いた。すぐにカンナが駆け寄る。
「大丈夫ですか? リリアさん?」
「大丈夫よ。それにしてもあの人、なんて体力」
リリアは息を切らしていた。
確かにまりかの強さは神眼を持っているからという理由だけではなく、基本的な能力、技術がずば抜けている。響音の闘い方を見た事があるカンナはまりかにも響音程の強さがあると感じた。
まりかとつかさは2本の刀と棒で打ち合っていた。しかし、リリアとの戦闘で疲労しているはずのまりかよりもつかさの方が押されているように見えた。
まずい。このままではつかさがやられる。この女の場合、躊躇わず殺すだろう。
カンナが動こうとした時、燈が戒紅灼を掲げてまりかとつかさの戦闘に飛び込んでいった。
「おらぁ!!」
しかしその意表を突いた攻撃さえもひらりと交わされ燈の右膝の裏に蹴りを入れ転ばせた。
「読めてるのよね、全部。あなた達の刀の能力もね」
まりかはつかさの棒を捌きながらニヤリと笑った。
「ちなみに、向こうから私の事を狙ってる茉里ちゃんも気付いてるわよ?」
その言葉を聞き、4人は目を見開いた。
茉里がいるのはここから100メートル程離れた校舎の屋上。そんな所の人が誰で何をしているかまで見えるなどもはや化け物である。
まりかは燈の頭を蹴り飛ばした。地面を転がったがなんとか受け身を取り態勢を立て直した。そしてつかさが同時に振り上げた豪天棒を躱し腹に蹴りを入れた。つかさは呻き声を上げて後ろに吹き飛んだ。
「こんな人数頼みの稚拙な計略で、私を倒そうとするなんて本当にあなた達残念ねぇ。誰の入れ知恵かしら?」
「誰だと思います?」
カンナが言った。神眼が心を読めるかどうか試してやろう。カンナはまりかを見つめた。
「あら? もしかしてカンナちゃん私を試すつもり? 神眼の能力を測ろうって言うんでしょ? それは神への冒涜よ? 神の力を人間如きが測ろうとするなんて」
まりかはカンナに斬りかかった。しかしそれをリリアがまた刀で受けた。
確かにまりかはカンナの考えている事を見透かしたように言った。しかし、肝心な作戦の首謀者については話を上手くはぐらかした。それで確信した。神眼で心は読めない。ただその話の流れを上手く読み、おそらく唇の僅かな動き、表情、視線、呼吸、発汗など、外見で分かる変化をまりかは読み取り解析しているのだろう。もし、作戦の首謀者である御影がここにいたら、この場の4人の視線を見て言い当てられるのだろう。
つまり、まりかはとても頭がいい。
「神への冒涜ですか」
カンナが呟いた。
まりかは疲弊しているリリアをすでに圧倒している。
その時風を切る音が聴こえた。
突如としてまりかの足元に矢が1本突き立った。しかしその矢もまりかは片脚を上げただけで軽々と躱した。まるで矢が飛んでくるタイミングが分かっていたかのようだ。
その茉里の援護も全く意味をなさず、ついにまりかの刃はリリアの肩を斬った。その時、燈とつかさが飛びかかったのでなんとかリリアへの止めを止める事が出来た。だがまりかはその2人の攻撃さえも読んでいたようで燈の戒紅灼の斬撃は躱し、つかさの豪天棒での打撃は刀でいなした。そして燈に一太刀浴びせ、つかさに斬りかかった。
矢がまたまりかを狙って空を裂いた。片方の刀で打ち落とした。
カンナはつかさとまりかの側面に移動した。
「篝気功掌・天心斬戈掌!!」
カンナは両手を手刀に構え、その手で地面を切るように回転。すると地面から刃のように洗練された氣のエネルギーがまりか目掛けて2発放たれた。
まりかは咄嗟につかさを蹴り付けてその氣の刃を避けた。
「これは……影清さんの神斬・黒天蜉蝣!?」
まりかは驚いてカンナを見た。
「似てるけど、違います。私のこの技は物理的な切断能力はない。ていうか、私がこういう技を使うという事くらい、その神眼なら見抜けるんじないですか?」
カンナの挑発にまりかは明らかに怒りが顔に出た。
「私の神眼の能力は、望遠、透視、洞察、暗視、熱視、そして読心、つまり心を読む事も出来る。それが神の眼と呼ばれる私の神技・神眼なのよ。その視界は間に物があろうが360度、何万光年も離れた惑星さえ見通し、森羅万象全ての動きを事前に把握出来る!そしてもちろん、あなた達の薄汚れた心の中も丸見えなのよ。そんな神の力を持つ私に、あなた達愚民が勝てるはずないじゃない!?さあ!跪きなさい!!私の脚を舐めたら、命だけは助けてあげるわ!!澄川カンナ、あなただけは絶対許さないけどね!!!」
まりかはカンナを蒼く光る不気味な眼で睨み付けている。
「また、そんなはったりを」
カンナは言いながら冷や汗が止まらないのを感じていた。序列15位以上のこのメンバーが闘っても傷一つ付けられない女。全ての攻撃は躱され当てることすら出来ない。おそらく燈の戒紅灼の能力も気付いてるから一度も刃を交えないように闘っているのだろう。
まさに、化け物。
カンナは周りを見た。
リリアと燈は負傷。つかさも疲弊し切っている。茉里はカンナの位置からは見えないが、おそらくこの後何本射ても当てられないだろう。
その時、一つの氣が近付いてきた。
「心が読めるか。じゃあまりか。私の能力が分かるかしら?」
「伽灼……あんたも反逆者なわけ?」
銀髪の美しい髪を靡かせた紅い瞳の女は不敵な笑みを浮かべ近付いてきた。
その場の全員が外園伽灼の登場に驚いていた。しかし、リリアだけはそれほど驚いていないように見えた。
「私がこいつらの仲間なわなけがないだろ? もちろん、この機に乗じてまりか、お前を殺しに来たのよ。で? 話を逸らさないでくれる? 私の能力は何でしょう?」
伽灼はまりかに心を読ませようと会話を誘導した。
まりかは伽灼を睨み付けたまま何も答えない。
「分からないの? そりゃそうよね、心なんて読めないんだから!」
伽灼の言葉を聞いたまりかは伽灼に斬りかかった。
「あんたも! 殺してあげるわ!! クソ女ぁぁぁぁ!!!」
伽灼はいつの間にか腰に佩いていた黒い刀を抜いてまりかの2本の刀を弾いた。そしてそのまま2人の壮絶な刀の打ち合いが始まった。カンナは伽灼が刀を使うのを初めて見た。この剣舞を見てしまうとどうしても先程のリリアの美しくも激しい剣舞が霞んでしまう。
「す……凄い」
「初めてじゃない? まりか? 私とこうして本気で闘うの」
「そうかもね、最初で最期ね」
「確かにね。おい、まりか。いつもの笑顔はどうした? 顔が引きつってるわよ?」
まりかの余裕のある受け答えも、この外園伽灼の前ではもはや通じない。言葉での闘いでは伽灼に軍配が上がった。
カンナは正直この様子なら伽灼がまりかを倒す事も有り得るのではないかと思った。しかし、まりかは神技を持ち、片や伽灼は剣術だけのごく普通の生徒。
しかしそれでも、この2人の打ち合いはまりかが神眼を使っていると言っても互角に見えた。
「ちっ、なんで外園が乱入してくんだよ! これじゃ作戦が」
燈は身体の傷を抑えながら言った。傷はとても浅く、あまり心配はなさそうだ。
「でももし、このまま外園さんがまりかさんを倒してくれたら結果オーライじゃない?火箸さん」
つかさの言葉に不服そうな燈も黙った。
その時、まりかの左手の刀が弾き飛ばされた。その隙を伽灼は確実に突く。伽灼が斬りかかる。まりかは攻撃を避け伽灼の胸に蹴りを入れた。伽灼が吹き飛ぶ。すかさずまりかは伽灼を追い掛ける。そして────
「さようなら、伽灼」
まりかは満面の笑みを浮かべ残った右手の刀で貫くように振りかぶった。
「灼け死ね、まりか」
伽灼は呟くと左手でまりかの刀の刀身を掴んだ。その瞬間、まりかの刀は炎に包まれみるみる内に溶けていった。
「あっっっつ!!??」
まりかは瞬時に炎に呑まれ溶けていく刀を離したが、刀を握っていた手は熱で皮膚がぐちゃぐちゃに爛れてしまっていた。
「手が!!? 私の手が!!!!??? 痛い痛い痛いっ!!!!」
まりかは焼け爛れた右手を左手で抑えながら絶叫した。
伽灼はゆっくりと立ち上がり刀を構えた。
カンナには何が起きたのか分からなかった。ただ、伽灼の握った刀が炎を上げたのが見えただけだ。
まりかは伽灼から逃げるようにカンナの方へ走って来た。
「どけ!!!」
まりかは落ちていた自分の刀を左手で拾い、カンナに襲いかかった。
カンナはまりかの氣が大きく乱れているのを感じていた。
こいつが、この女が斑鳩を……
────殺してやる────
苦悶の表情で走って来るまりかをカンナは無表情で見ていた。




