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序列学園  作者: あくがりたる
神眼の女の章
83/138

第83話~暴虐の女~

 体特寮の自室にカンナと光希(みつき)は戻って来た。

 すっかり日も暮れ秋の虫の鳴き声が聴こえていた。

 御影(みかげ)の部屋から戻る途中、学園の食料品売り場で食材を買ってきた。それをカンナが台所のまな板の上に広げると愛用のエプロンを付けた。


「よし!」


 カンナは久しぶりの料理を前に気合いを入れた。得意ではないが、料理をする事は好きだった。以前母の料理の手伝いをしていた事もあって簡単なものなら作れるのだ。


「カンナ、私も手伝います」


 光希がひょっこりと隣に現れ自分のエプロンを付けていた。

 光希や水音(みお)の方が何故か料理は上手い。むしろ2人はかなり料理が上手い。


「いいよ、光希は休んでて。今日は私の当番だから」


「ううん、いいんです。これからは毎日2人で作りましょう」


 光希はカンナの顔を見て言った。

 カンナは胸がキュンとするのを感じた。

 妹がいたらこんな感じなのかな。

 本当に光希の罰が減刑されて良かったと心から思った。

 光希の顔を見て微笑んだまま固まってしまったカンナを見て光希が首をかしげた。


 カンナと光希は自分達で作った食事を終えると片付けを済ませ寝転がった。


「あー、美味しかった!光希の手料理はやっぱり美味しい」


「カンナのだって美味しいです」


 その部屋には以前は考えられなかった普通の女の子同士の会話が溢れ返った。


「ところで、さっき御影(みかげ)先生が言ってた畦地(あぜち)さんを捕まえる作戦、本当にやるのかな?失敗したら今度こそ危なそうだよね」


 カンナが天井を見ながら言った。


「う、うん。あ、あの、カンナ。その…斑鳩(いかるが)さんのこと、好きなの?」


 突然、光希が耳を疑うような質問をしてきた。

 カンナは驚き光希に背を向けた。


「え!?い、いきなり何よ!?そ、その、光希も好きなんだよね?」


「うん。でも、カンナが好きなら私は応援します。カンナいい人だし、斑鳩さんともお似合いですよ。美男美女、同じ体術使い。私の願いは2人が幸せになること」


「光希……」


 光希の人が変わったような態度にカンナは驚きをかくせなかった。


「私は……斑鳩さんの事好きなんだと思う。恋って……よく分からないんだ。でも、斑鳩さんの事ばかり考えて夜も眠れないの。ずっと、ずっと胸が苦しくて…私は斑鳩さんとずっと一緒にいたい」


 カンナは初めて自分の気持ちの全てを他人に話した。

 言い終わり、恥ずかしさが後から来たようでカンナは顔を真っ赤にして手で顔を覆った。


「可愛い……カンナ」


 光希が呟いた。

 その言葉で余計にカンナは恥ずかしくなった。







 石造りの地下牢はこの季節になるとさらに寒さを助長させた。

 鵜籠(うごもり)は牢の前の椅子に座り呑気に昼寝をしている。

 畦地まりかは斑鳩を閉じ込めてある牢の前に食事を運んで来た。


「斑鳩くーん!起きてる?食事の時間よ?私が愛を込めて作ったのよ?鵜籠さん、早く扉開けてください」


 鵜籠は面倒くさそうに欠伸をしながら斑鳩の牢へ近付き扉の鍵を開けた。

 中はさらに薄暗く、壁の窪みにある蝋燭が1本だけ灯されているだけだ。その暗闇の中に斑鳩はいた。上半身は血の滲んだ包帯でぐるぐる巻きにされており両手首と両足首を壁に固定された鎖に繋がれ膝立ちの状態だった。

 まりかは瀕死の斑鳩に差し入れの食事を持って近付き顔を覗き込んだ。


「気分はどう?喋る気になった?」


 まりかは笑顔で話し掛けたが斑鳩はまりかに目も合わせずただ一点を見つめていた。


「あ!お腹空いて機嫌が悪いのね!それじゃあ、はい!まりか特製炒飯(ちゃーはん)!このお米をパラパラにするの、すっごくコツがいるのよ!一生懸命作ったから、食べてね?はい、ふーふーしてあげる!ふー!ふー!はい!あーん」


 まりかが自分の息で冷ました炒飯をレンゲで一口分斑鳩の口に近付ける。


「自分で食える。余計な事をするな」


「遠慮しないでー!斑鳩君両手塞がってるんだから食べられないでしょ?ほら、口開けて?あーん!」


 斑鳩の口に無理やり運ばれたまりかの炒飯は斑鳩の口に入った瞬間弾き返されまりかの顔にご飯粒が大量に付着した。


「さっさと殺せよ!!畦地!!」


 斑鳩はまりかを睨み付けた。

 まりかは顔に付いたご飯粒を1粒ずつ指で取りそして自分の口に運んだ。


「ひどーい、斑鳩君。私が一生懸命作ったのよ?美味しくなかったの?泣きそう」


 まりかは口を尖らせて言った。

 斑鳩はまた口を閉ざした。

 まりかは食事をそばに置き牢の奥に置いてあった机を斑鳩の前に運びその上に腰掛け、おもむろに靴を脱ぎ始めた。そして靴下を脱ぐと裸足の足を(あらわ)にし斑鳩の顔の前へ突き出した。


「ねぇ斑鳩君。ここから出たい?助けて欲しい?だったらほら、舐めて?私の足、舐めて?そしたらここから出してあげてもいいわよ?総帥には内緒にしてあげるから」


「舐める奴がこの世界にいるのか?いいからその汚い足、さっさとしまえ」


 斑鳩が言った瞬間まりかの差し出した足が横に振られた。

 斑鳩の口からは血が飛び散った。


「舐めて欲しいのよ斑鳩君……もし舐めてくれたら、私はあなたに足を舐められた世界でただ1人の女になれるんだから」


 まりかは不気味に笑って言った。


「舐めたら最後、俺はこの世界から消されるとも聴こえるな」


「頭いいわね、さすが斑鳩君。そそるわ〜、興奮しちゃう。そうよ、私が唯一の女になる為にあなたは死んでもらう事になるのよ」


「お前は頭がイカレ過ぎていて理解出来ないよ」


 斑鳩の言葉にまりかは笑顔を見せた。


「まあいいわ、それなら早くあなたとグルの反逆者を教えて?」


「俺1人で動いていると、何度も言っているだろ」


 斑鳩は無表情で言った。


「ふーん、そう。斑鳩君、舞冬(まふゆ)ちゃんに会いたくない?」


 斑鳩は不意を付くまりかの言葉に一瞬視線が動いてしまった。


「あいつは学園に殺されたんじゃないのか?お前達が消したんじゃないのか?」


「あら?どうしてそう思うの?殺してないわよ?特殊任務に行ってもらってるだけよ?」


 まりかは靴下を履き直しながら笑顔で言った。


「東の岩壁の上に(ひいらぎ)の血痕があった。それは海に続いていた。あの血の量で海に落ちたなら助からない…お前達が殺したんだろ!!!」


 斑鳩は突然声を荒らげた。

 まりかは少しビックリしたようで目を見開いた。


「あぁ、あれは、事故ね。確か何かの訓練中に大怪我したって言ってたわ。本当に生きてるわよ?信じないの?会わせてあげるって、言ってるでしょ?」


 まりかの眼は蒼い不気味な光を放ち斑鳩の目を見つめた。


 ”神眼(しんがん)


 この女の前では嘘を言っても見抜かれる、何も喋らなくても反応だけで見抜かれる。つまり、心を読まれているのと同じだ。全てを隠すには自分が死ぬしかない。しかし、最後の最後でまりかは”舞冬”の名を出してきた。舞冬の事を想っていた事さえもこの女にはお見通しだったのか。だがこの女は嘘をついている。それは何故だか本能で感じる。


「俺は……柊が生きていたとしても、お前に話す事は何もない。さっさと殺せよ。殺さないなら自害するぞ」


 なかなか口を割らない斑鳩にまりかは平手打ちを食らわせた。


「舞冬ちゃんじゃダメか……そうよ、あいつは死んだのよ!私が、私がこの手で殺したの!だってさぁあの子知らなくていい事を嗅ぎ回るんだもん。総帥には殺すなって言われてたんだけどつい殺しちゃったのよね」


 まりかは楽しそうに言った。


「やはりお前か……よくも柊を」


 斑鳩の表情が変わった。歯をむき出しにして今にも自分の鎖に繋がれた両手首を引きちぎってでもまりかに襲いかからんとする勢いだ。

 しかしまりかはそれにすら動じる様子はなく相変わらずの蒼い眼の笑顔で斑鳩を見つめている。


「斑鳩君が舞冬ちゃんの事好きなのは知ってたわ。私の”神眼”は誤魔化せない」


 舞冬が死んだ。分かっていたことだったが、改めて宣言されると心が砕けそうになる。

 もう、死のう。

 斑鳩は御影を初めとした仲間達の事を墓場まで持って行こうと決めた。


「本当に死んでいいの?」


 斑鳩の考えている事を見透かしたようにまりかは笑顔で言った。


「私の”神眼”は誤魔化せないって言ったわよね?今度はカンナちゃん。殺しちゃおうかな?」


「やめろ!!!!!あいつは関係ないだろ!!?」


 斑鳩は怒鳴った。


「な〜に〜?そんなに大きな声出さなくても聴こえてるわよ。舞冬ちゃんが通じないなら今度はカンナちゃんね。カンナちゃんは斑鳩君の事が好きみたいだから」


「頼む。澄川(すみかわ)には手を出さないでくれ」


 斑鳩が頭を下げて言った。


「じゃあ喋る?」


「それは……出来ない」


 まりかの眼が光った。


「どっちも嫌だ嫌だじゃ通らないのよ!!!」


 まりかはいつの間にか腰の刀を抜いており斑鳩の右肩に突き刺した。

 斑鳩の呻き声。

 まりかは刀を抜くとその刃に付いた血を美味しそうに舐めた。そしてすぐに鵜籠に今刺した傷口の手当をさせた。


「頼む!!澄川は」


「うるさいなぁ。いい?あなたが自害したらカンナちゃんを殺す。あなたはカンナちゃんを(おび)き出すための餌にするわ。私はどんな手を使ってでも反逆者共を洗い出して粛清しないといけないの。で、カンナちゃんを捕まえたらここに連れてきてあなたの目の前で拷問してあげるわ!楽しみ〜!私あの子大っ嫌いだから、信じられないくらいの拷問しちゃうかも!じゃあね。斑鳩君」


 まりかは最後まで笑顔で斑鳩に言うと、牢から出て行った。牢から出た時のまりかの顔にはもう笑顔はなかった。


「畦地まりかーーーーーー!!!!!」


 斑鳩の叫び声が地下牢に響いた。

 まりかは振り向きもせずそのまま石造りの階段を上っていってしまった。

 斑鳩の肩の傷を手当していた鵜籠は気にせず傷の手当を続けていた。

 斑鳩は俯き、自分の無力さに涙を流した。



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