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序列学園  作者: あくがりたる
響月の章
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第8話~序列が支配する世界~

 この学園は龍武帝国という国の領海内の孤島に存在している。

 通称『学園島』と呼ばれるこの島には大きな山がある。学園は山の(いただき)にあり、とても広大な敷地を有していた。(ふもと)には人口500人程の浪臥村(ろうがそん)という小さな村がある。漁業が盛んな村で、大陸側の龍武の街とはよく船で取引をしている。

 カンナは学園から2km程東の森を抜けたところの岩壁の上に立ち、水平線の彼方を見つめていた。

唯一落ち着く場所なのだ。

波の音も潮風もカンナの学園での苦痛や両親を失った悲しみを優しく洗い流してくれるようだった。

 カンナは両手を広げ、この気持ち良さを全身で感じた。

 負けたら死ぬ。そう思ってもその時はその時だと思うことにした。自分が死んでも悲しむ人などいはしないのだ。

 そう思いかけた時、2人の顔が頭に浮かんで来た。

 斉宮(いつき)つかさと(あかね)リリア。

 つかさは自分の為に響音(ことね)に掴みかかろうとしてくれた。リリアは自分の為に仕合を止めさせようと駆けつけてくれた。そんな2人がとても愛おしい存在になっていた事に気付いた。

2人の為にも死ぬわけにはいかない。

響音を倒して、彼女の自分に対する非道な仕打ちを止めさせる。それだけでいいのだ。


また()が1つ近付いてくる。

カンナの氣の感知能力の有効範囲は半径300m程だ。その範囲に入ったある程度の氣を持った人間は自分自身の氣とぶつけることで感知することが出来た。

あまり馴染みのない氣だったが、覚えがある。先日、浪臥村での熊退治の任務に出掛けた時に会った火箸燈(ひばしあかり)の氣だった。馬で近付いてくる。


「リリアさんがここにいるだろうって教えてくれてさ。聞いたぜ? 多綺(たき)と仕合するんだって?」


 燈は笑顔だった。とても興味深そうにカンナの顔を見つめている。


「ええ。そうです。何か用ですか?」


 カンナは相変わらずの無表情で問い掛けた。


「あんたが多綺からどんな仕打ちを受けてるかは知ってる。あたしも剣特(けんとく)だからね。でもあんたじゃ多綺には勝てないと思うぜ? あんたあの女の力何も知らないだろ?」


 カンナは自分が苛立つのを感じた。いきなり現れて何を言うのかと思えばあまりにも無礼だ。本気で心配してくれたリリアとは正反対だ。特に気に障ったのは「勝てない」という言葉。「勝てない」そう言われたのは生まれて初めてである。今まで負けたことがないカンナにとって不愉快以外の何物でもない。


 篝気功掌(かがりきこうしょう)は1対複数を想定した体術である。その修行の一つに100人同時組手というものがあり、カンナは9歳の時に100人同時組手を成功させた。もちろん相手は自分より体格のいい大人達だった。名前の通り1人1人が順番に組み合っていくものではなく、100人全員が一斉に組みかかってくるのだ。それを全員倒したのだ。

 その頃から自分は誰にも負けないと思っていた。実際に学園に入学するまで何組かの盗賊団と闘ったことがあったが、全て1人で倒してきた。

だから他人に勝てないと決めつけられるのは腹が立った。


「剣特でも()()多綺は嫌われてるよ。序列が高いからほとんどの生徒が逆らえないだけ。多綺より序列の高い外園(ほかぞの)畦地(あぜち)さん、影清(かげきよ)さんはもう相手にすらしてないみたいだけど」


 燈は腰に()いている刀の赤い柄を左手で握ったり離したりしながらどこか寂しそうな目で言った。


この学園では実力が全て。つまり序列が全てでもある。

一度カンナは学園内で氣を感知してみたことがあった。序列10位未満の生徒の氣はそこまで大差ないほどであったが、序列10位以上の氣は違っていた。特に序列5位以上の生徒達の氣は強く、何か特殊な力を持っているように感じた。だが、その中でも群を抜いて異常な者がいた。

 それはカンナが序列1位と思われる者の氣を感知した時の事だ。その者は、カンナが放った氣を逆に感知し、あろう事か自分の氣で押し返してきたのだ。その有り得ない強さの氣によってカンナの体内の氣の許容量を超え、胃の中のものをすべて吐き出してしまった。学園の師範達でさえそのような強さの氣を持ち合わせていないのだから、序列1位、神髪瞬花(かみがみしゅんか)の氣だけは異常だった。二度と感知したくないと思った。

 一方、学園総帥の割天風(かつてんぷう)は、普段氣を抑えているのかまるで一般人並の氣の大きさしか感じなかった。しかしながら、氣を抑えるという芸当も並の人間には出来ない技なので、おそらく割天風も相当異常な氣を持っているに違いない。


 そんな連中の君臨する序列10位以上の世界。序列11位のカンナと1つしか違わないのにこれ程までの氣の違い。そこに響音もいる。しかも響音は利き腕の右腕がない。にもかかわらず、序列8位にいる。

 カンナは改めて考えて、自分の(おご)りが少しだけ、ほんの少しだけ恥ずかしくなった。


「あんたが強いことはあたしにも分かるよ、カンナ。そんな細い身体で熊を素手で倒すんだからな。でも、上には上がいる。総帥の序列制度は絶対。分かりやすくて助かるよな」


 燈なりに心配してくれたのだろう。やはりこの人は悪い人ではなさそうだ。

 ふと、響音と榊樹月希(さかきるい)という女の話を思い出した。カンナはその2人のことについてもう一度詳しく知りたくなった。知らなければけないような気がした。


「火箸さん、多綺さんと榊樹さんの話……知ってますか? 知ってたら詳しく聞かせて欲しいです。多綺さん、昔はあんなじゃなかったって」


「知ってるよ。同じ剣特だし。あと、あたしのことは燈でいいよ。敬語もやめろ」


 燈は馬から降りて海を見た。

 カンナも隣に並び海を見た。


「あれは3年前の話だ」


 燈が話始めた。その表情はやはりどこか切 なげだった。

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