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序列学園  作者: あくがりたる
地獄怪僧の章
72/138

第72話~つかさVS阿顔、カンナVS牙牛~

 牙牛(がぎゅう)は馬を下りた。

 のしのしと異様な氣を放ちながらカンナの方へ近づいて来る。


「ジジイ!! カンナに近付くなって言ってんだろ!!」


 つかさはその様子を見て叫んだ。


「余所見をするとは、阿顔(あがん)、お前舐められてるぞ」


「どうせ殺す。問題ない」


 阿顔は槍を構えたままつかさを射抜くような目で凝視していた。

 つかさは舌打ちをした。この男を始末しないとカンナの助けには行けない。


「つかさ。こっちは大丈夫。私ね、何だか氣の力が上がってるみたいなの。だからこんな奴ら瞬殺よ」


 カンナは構えた。

 牙牛は斧を肩に担ぎながらにやにやとしていた。


「殺さずに生け捕りってのはどんくらい加減すりゃいいんだ? 脚を切り落とすのはありか?」


 牙牛の斧は巨体のせいで大した事はなく見えるが実際はカンナの頭5個分程の大きさだろう。それを振り回して闘うとなると破壊力は凄まじいが機動力がないはずだ。隙さえあれば身体にカンナの氣を打ち込んで一撃で終わらせられる。

 カンナがまず仕掛けた。

 牙牛の背後に素早く回り込んだ。がら空きだ。やはりカンナのスピードにこの巨体は付いてこれない。

 カンナは手に氣を集め掌底を放った。


篝気功掌(かがりきこうしょう)壊空掌(かいくうしょう)!!」


 その時だった。牙牛は物凄い早さでカンナの方を振り返り大きな左手で裏拳を放った。

 避けられずカンナはモロに牙牛の強烈な裏拳を食らって吹き飛んだ。


「やべぇ、殺しちまったか」


 牙牛は若干焦りを浮かべていた。


「この野郎!!! カンナをよくも!!」


 つかさの怒声が響いた。

 しかしカンナはよろよろと立ち上がった。

 その姿を見てつかさはもちろん、牙牛と阿顔も驚いているようだった。


「俺の攻撃をモロに食らったただのガキが、立ち上がっただと!? どうなってやがる」


「篝気功掌を舐めるな。あなたの攻撃の瞬間、身体の氣を全て打撃面に回し防御したのよ。それなのにこんなに吹き飛ばされるなんて、なんて馬鹿力」


「面白いな、この女。篝気功掌か。初めて見る武術だが、確かに青幻(せいげん)様が認めるだけはある」


 牙牛は言いながら右手に持っている斧は使わずに左手と両脚の蹴りのみで襲い掛かってきた。

 カンナは極力受けないように躱すが巨体から繰り出されるものとは思えないほどに素早い攻撃に次第に疲労の色が見え始めた。

 やがて牙牛の拳はカンナをまた捉え正面から殴りつけた。カンナも両腕で拳を受けたが威力が尋常ではなく、後方へ飛ばされ後ろの木に激突した。


「あうっ!!」


 カンナは呻き声を上げた。


「カンナ!!」





 つかさがカンナに気を取られた時、阿顔の槍が首を狙って真っ直ぐに突っ込んできた。つかさは反射的に棒で槍を弾いた。


「余所見をしないほうがいいぞ」


「わかったわよ、あんたを先に始末する。後悔しないでね」


 つかさはまた得意げに棒をくるくると身体の周りで回した。


「ふん、何故どいつもこいつも学園の生徒は自信過剰なんだろうか」


 阿顔はつかさの棒使(ぼうづか)いを冷ややかな目で見て言った。


「その口、黙らせてやるわ!」


 つかさは棒を阿顔の顔面に突き出した。

 阿顔はひらりと苦もなくそれを躱すと蹴りを放った。つかさはそれを棒で受けると阿顔の頭へ棒を振り下ろす。

 槍で止められた。槍の石突が下から来た。また棒で防ぐ。

 そんな一進一退の攻防を何合も繰り返していった。山中には棒のぶつかり合う音が響いていた。

 阿顔の放った蹴りがつかさの腹に入った。そのまま後方へ吹き飛ばされ坂になっていた脇道へ転がり落ちていった。


「つかさ!?」


 その様子を横目で見たカンナが叫んだ。

 しかし牙牛の猛攻を振り切りつかさの側へ行く余裕はない。

 つかさは暗い闇の木々の中で身体中に落ち葉を纏いながら倒れていた。よろよろと起き上がり坂の上を見上げた。阿顔が槍を携えこちらを見ていた。


「お前が弱いのは学園の怠慢かそれとも己自身の問題か」


「は? 意味分かんないこと言ってんじゃないわよ。さっさとかかってきなさいよ! 槍鬼来(そうきらい)


 阿顔はつかさの言葉を聞き、それ以上口を開かず槍を構え身体を回転させながら飛び掛ってきた。

 つかさも棒を構え跳ね大きく脚を振り上げた。


破軍棒術(はぐんぼうじゅつ)崩頭鬼(ほうずき)!!」


 つかさの渾身の一撃が阿顔のこめかみを狙う。阿顔の槍がつかさの棒を遮った。


「嘘!?」


 つかさが呟いた瞬間、阿顔の槍の柄はつかさの脇腹を打った。

 つかさはまた吹き飛ばされた。呻き声を上げて倒れた。

 阿顔がゆっくり近付いて来た。


斉宮(いつき)つかさを連れ帰れという(めい)は受けていない。殺す前に少しその躰で遊ばせてもらおうか。ははは」


「近寄るな!! やめろ!!」


 つかさは突然喚き散らした。

 恐怖。男。過去の凄惨な記憶が脳裏を過ぎる。

 殺さねば。こいつを殺さねばまた……

 棒を手当り次第に振り回した。しかしつかさの抵抗も虚しく簡単に槍で弾かれてしまった。

 阿顔がにやにやと笑いながら槍をつかさの首元に近付けた。

 辱めを受けるくらないなら舌を噛み切って死のう。そう覚悟した時、一迅の風が吹き、槍の刃先がつかさの首元から遠く離され、その槍を持っていた阿顔も木々の奥に吸い込まれるように吹き飛び大きな木の幹に身体を打ち付けた。


「何!?」


 つかさが恐怖に身体を震わせながら吹き飛んでいった阿顔の方を見た。暗闇に誰かもう1人が立っているようだ。

 つかさが目を凝らしてもその人物の顔は分からなかった。男か女かさえ。

 阿顔はその者にいつの間にか奪われた槍の刃先を首元に突き付けられていた。

 何か阿顔が喋っているようだが聴き取れない。

 つかさが震える脚に鞭を打って立ち上がると阿顔が叫び声を上げそして液体が地面に落ちる音が聴こえた。

 つかさの方へ気配が近付いて来る。つかさは近付いて来る気配の主を見た。


「あ……!!? あなたは!!!」


 つかさの反応に、その者はにやりと口元で笑った。






 つかさが坂の下へ落ちていくのが見えた。その後を槍を持った阿顔が追うのも見えた。

 助けに行きたい。しかし、目の前のこの斧を持った大男をどうにかしなければならない。

 牙牛は首を鳴らしながら倒れているカンナに近付いてきた。

 氣を全力でぶつければ勝てる。しかし、この後またさっきの(さい)の部隊が現れたら、孟秦(もうしん)や青幻が出て来たら……

 カンナは今全力を出すべきではないと思っていた。


「どうした? 出し惜しみか? 使えるもんは使わないと俺には勝てねーぞ? まぁ使ったところで勝てねーけどな」


 牙牛は大声で笑った。

 カンナは拳を握り締め立ち上がった。

 牙牛は油断している。不意をつければ最小限の氣で倒せるはずだ。

 カンナは地面に手を付き氣を流し込んだ。


「篝気功掌・地龍泉(ちりゅうせん)!!」


 カンナの氣は地面を流れ地に元々ある氣と混ざり合い地表に放出された。


「ぬ!? なんだ!? これは!?」


 牙牛の巨体は地面から湧き上がる見えない力に押し上げられた。


────今だ────


 カンナが宙に浮きバランスの取れない牙牛に飛び掛った。


「甘い!」


 牙牛は持っていた大斧をカンナ目掛けて投げつけた。

 カンナは咄嗟に重心をずらし回転しながら飛んでくる大斧を回避し着地した。

 その隙を突かれ牙牛も着地してしまった。

 大斧はカンナの後ろの木を何本も薙ぎ倒し木々の奥に消えた。


「危なかったぜ。氣とかいう力はまったく目に見えないんだな。地面から何かに持ち上げられる感覚があったが、おそらくそれが氣なんだろう。へっ! 俺に斧を使わせるとはやるじゃねーか。だが、今の技は2度と使わせねーぞ」


 牙牛が体術の構えをした。

 もう同じ技は通じない。カンナがまた体内の氣を練ろうとした時、目の前の景色が歪んだ。この感覚は重黒木(じゅうくろき)と氣を止められたまま稽古に臨んだ時の氣の枯渇する感覚だ。何故今なのだ? まだ数回しか氣を使っていないはずだ。

 カンナは立っていられず片膝を付いた。


「お? どうした? 降参か? だが油断はせん! まずはお前の手足をへし折って動けなくしてやるわぁ!!」


 牙牛はその巨体でカンナ目掛けて突進してきた。この突進をまともに食らったら手足どころか全身の骨が粉々になってしまう。


 カンナは朦朧とする意識の中必死に立ち上がろうとした。しかし身体は言うことをきかない。


────死ぬ、死ぬ、死ぬ!! 動いて!! 私の身体!! 何でこんな時に!!────


 カンナの眼前には牙牛の顔。

 その刹那。牙牛の顔が急に地面に叩きつけられた。


「ごぼぁぁ!!?」


 牙牛はカンナの目の前で地面に顔を埋めて沈黙した。


「あら、カンナ。こんな所で会うとはね。響華(きょうか)も元気そうで何よりだわ」


 聞き覚えのある声にカンナは倒れた牙牛の背中の上に立っていた人物を見上げた。

 そこには隻腕(せきわん)の凛々しい女が笑顔でカンナを見つめていた。


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