表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
序列学園  作者: あくがりたる
地獄怪僧の章
67/138

第67話~帝都軍司令官・宝生~

 狼臥村(ろうがそん)からは帝都軍の中型船で大陸側に渡ることになった。馬を4頭も船で運ぶとなるとどうしても中型以上の船になってしまうそうだ。

 宿を出る時、和流(せせらぎ)瀬木泪(せきるい)に挨拶してきた。和流はカンナとの別れを惜しんでいた。瀬木泪という男はあまり人との交流が得意ではないのか軽く頭を下げただけだった。

 この学園のある孤島から大陸側へは船で3時間といったところらしい。

 帝都軍の乗組員は5名で皆操舵室に篭っているのか甲板には見当たらない。

 甲板では茉里(まつり)滝夜叉丸(たきやしゃまる)の入った鳥籠をそばに置いたままぐったりと横たわっていた。カンナも船縁(ふなべり)に身を乗り出すようにもたれ掛かりぐったりとしていた。

 船酔いである。

 その2人の様子を(あかり)は笑いながら見ていた。真っ赤なコートが風に靡いている。


「せっかくの船出日よりなのに、お前ら可哀想だな。この潮風を楽しめないとは」


 船酔いの辛さを知らない燈は楽しそうに言った。その横をつかさがふっと通り船縁でぐったりしているカンナの所へ行った。つかさはカンナの背中を優しく(さす)り持っていた小袋から小さな木の実のようなものを取り出した。


「カンナ、大丈夫?さっきね馮景(ふうけい)がくれたんだけど、これ、”死辛(ししん)の実”って言ってね、船酔いに凄く良く効くの。ただね、死ぬほど苦いから吐かないで我慢して噛み砕いて飲み込んで」


 つかさは意識が朦朧とする程の状態のカンナの顔の前に優しく死辛の実を差し出した。見た目は青い状態の梅の実のようなものだ。


「ありがとう、つかさ。でも、今そんな苦い物食べたら……絶対吐いちゃう」


 カンナは船縁にもたれ掛かったまま死にそうに言った。


「このまま3時間も辛いのと一瞬だけ辛いのどっちがいいの?」


「え……いや……でも」


 カンナが迷っていると燈がその死辛の実をくすねた。


「あ!燈!」


「カンナが食わないならいいだろ!おーい、後醍院(ごだいいん)、大丈夫か?薬だ。噛み砕いて飲み込め!吐くなよ」


 燈はつかさから奪った実を甲板で横たわっていた茉里の所へ持っていき、抱き起こしそっと口に入れた。そして茉里の顎を勝手に手で動かし死辛の実を噛み砕かせた。


「ふぐっ!!??」


 茉里は奇声を発し目を見開きその実を吐き出そうとした。しかし燈はそうさせまいと茉里の口を手で押さえ付けていた。

 茉里は酷く暴れていたと思ったら次第に大人しくなりまた倒れてしまった。

 カンナとつかさはその様子を言葉もなく見ていた。


「え……つかさ、あれを私に食べさせようとしたの?」


 カンナは目を潤ませながらつかさに言った。


「カンナが苦しそうなのに何もしてあげられないのは辛いから」


 つかさはしゅんとして俯いた。


「つかさ、その実、まだある?」


 カンナが聞くとつかさは小袋からもう一つ死辛の実を取り出した。

 カンナはそれを受け取ると迷わず口に入れ噛み砕いた。そして聴いたことのないような声で悶え口を押さえた。

 つかさは突然のカンナの行動に驚いたが下手にカンナに触ることが出来ずあたふたしていた。

 カンナはゴクリと死辛の実を飲み込んだ。つかさは先程と同じ状態で船縁にもたれ掛かったカンナに自分の水筒を開け、その蓋に水を注ぐと急いでカンナに飲ませた。


「カンナ!死なないで!!」


 カンナのあまりにも苦しそうな声とその後の微動だにしない挙動に不安に苛まれたつかさはカンナの背中を擦り続けた。


「つかさ、大丈夫だよ。口の中が堪らなく不快だけど、揺れる感じはなくなったかも」


 カンナが弱々しく言うと、つかさはほっと胸をなでおろした。


「おい、後醍院も大丈夫そうだ!もう意識取り戻してるぞ」


 茉里はぼーっと座ったまま空を見上げていた。


「2人とも死辛の実が効いて良かった。とりあえずこれであと数時間の船旅も大丈夫そうだね」


 つかさは微笑んだ。

 カンナは口の中の不快感がまだ抜けていないが真っ直ぐ立てるまでに回復した。

 そしてつかさの底知れぬ優しさにカンナは心を奪われていった。



 数時間後、無事に4人は大陸側に到着した。

 船を降りると帝都軍の兵士と久壽居朱雀(くすいすざく)が仰々しい格好で出迎えてくれた。


「お前か、澄川(すみかわ)


 久壽居は真っ先にカンナに声を掛けてくれた。

 カンナは一礼した。


「久壽居さん。あなたに言われた”氣”に頼り過ぎという欠点。克服してきました!」


 久壽居はにやりと笑った。


「そうか、なら今度また手合わせしてやろう。次は一撃で終わってくれるなよ」


 カンナは頷いた。

 久壽居は他のメンバーを見渡した。


斉宮(いつき)つかさに後醍院茉里、火箸(ひばし)燈か。なんだ、だいぶ上位メンバーが召集されたんじゃないか。立ち話もなんだし、こっちに来い。宝生(ほうしょう)将軍がお呼びだ」


 久壽居はそう言うと待機していた騎馬隊の先頭の乗り主のいない馬に跨った。

 宝生という名を聞いて4人は緊張に包まれた。

 船で運んでくれた帝都軍の兵士達に礼を言うと、久壽居に従い、カンナ達も馬に跨り宝生の屋敷へ向かった。

 茉里の馬の背には滝夜叉丸が入った鳥籠が括りつけられており、時々様子を確認していた。どうやら茉里は動物が好きなようだ。滝夜叉丸を見る時の茉里の目はとても優しかった。

 大陸側には電気、ガス、水道、そして車もあるにはあった。

 しかしこの船着場にはそれを感じさせるものは一切なく、島での光景とさほど変わらない。

 久壽居が率いている帝都軍が車ではなく、馬を使っているのは、武術を使う兵士にとっては使いやすいからなのだろう。




 30分程で宝生の屋敷に到着した。

 見るからに権力者の豪邸といった佇まいだ。

 すぐに屋敷の召使いのような男が現れ、久壽居とカンナ達を案内してくれた。

 通された大きな客間は煌びやかでここには電気が使用されており、大きなシャンデリアが存在感を示していた。

 部屋の中央には長いテーブルが白いクロスを掛けられて上品に置いてあった。その上にところ狭しともてなしの料理が用意されておりカンナ達の空腹な胃袋を視覚と嗅覚から刺激した。


 召使いの男に席に座るように促されたので、久壽居に続きカンナ達も席に腰を下ろした。

 するとすぐに奥の扉から髭面の屈強な身体付きの男が現れた。

 久壽居は一度立ち上がり一礼したのでカンナ達も真似をして一礼した。

 男は右手を少し挙げて挨拶をするとテーブルの上座に座った。

 そして立ったままだった一同を座るように手で合図した。


「初めましてだな、学園の諸君。俺は帝都軍の総司令官をしている宝生という者だ。見たところ女の子しかおらんようだな」


 宝生が喋り出したので久壽居が隣に座っていたカンナから順番に序列を含めた紹介をしていった。

 久壽居が4人全員の紹介を終えると宝生は顎の髭を弄りながら口を開いた。


「澄川に後醍院。有名どころだな。澄川孝憲(こうけん)のご息女と後醍院零暝(れいめい)のご息女。俺は孝憲と零暝には若い頃に世話になってな。そのご息女達とこうしてお目にかかれるとは光栄だ」


 宝生は嬉しそうに笑顔を見せた。

 後醍院家は有名な財閥で経済界に大きな力を持っていたと聞く。しかしその後醍院財閥も我羅道邪(がらどうじゃ)の勢力の拡大にともない資産を奪われ崩壊した。後醍院零暝がどうなったのかまでは知らないが恐らく茉里がここにいるという事はもうこの世にはいないのだろう。

 宝生は4人に食事を勧めた。

 茉里は抱えていた鳥籠を椅子の横に置いて座った。燈は真っ先に目の前の料理に食らいついた。

 カンナは先程の船酔いのせいでまだ食欲まではなかった。茉里も出された水だけを飲んだ。


「カンナ、大丈夫?まだ具合悪いなら無理して食べなくても」


 つかさはカンナの隣に座り、様子を見て気遣いの言葉を掛けてくれた。


「ありがとう。大丈夫だよ、気にしないでつかさは食べてね」


 つかさは頷くと静かにナイフとフォークを取り、肉を上品に切り口に運んだ。


「さて、食べながらで構わない。お前達に話を聞こうか。学園の陰謀とはなんだ?」


 宝生はいきなり核心を付くことを訊いてきた。つかさと燈は食べるのをやめて宝生を見た。カンナと茉里も驚いて目を見開いた。

 久壽居は食事には手を付けず腕を組んで目を瞑っていた。


「澄川、今回の任務は斑鳩(いかるが)から俺に依頼があったものだ。そして俺が宝生将軍に学園に任務を依頼するようお願いした。だから宝生将軍には話して大丈夫だ」


 久壽居が目を瞑ったまま言った。


「やっぱり斑鳩さんが……ありがとうございます」


 カンナはつかさ、茉里、燈を見渡すと皆頷いたので御影(みかげ)達との話し合いで分かったことを宝生と久壽居に話した。

 カンナの話を聴き、宝生は明らかに顔色を変えて頭を抱えた。

 久壽居は相変わらず腕を組んだまま目を瞑っている。


「学園と青幻(せいげん)が繋がっている……か。なるほど、割天風(かつてんぷう)め何を考えている」


 宝生は溜息をついた。


「割天風先生はずっと俺達生徒を騙してきたという事か」


 久壽居もカンナの話に失望したように嘆いた。


「あの……私からも質問して良いでしょうか?宝生将軍」


 カンナは小さく手を挙げて宝生に言った。

 宝生は頷いた。


篁光希(たかむらみつき)が青幻に狙われた理由をご存知ないでしょうか?」


 ずっと疑問だった。わざわざ孟秦(もうしん)という強者を使ってまで光希を連れて行ったのだ。それも水音(みお)が死んだ時を待っていたかのように。

 宝生の目玉がぎょろりとカンナを見た。

 カンナは背筋をピンと伸ばした。


「それなんだがな、久壽居と話をしていて分かったことがある。篁光希は慈縛殿体術(じばくてんたいじゅつ)を体得していたらしいな」


 ”慈縛殿体術”それは水音が使っていた体術の名だ。光希が使っていた体術とは全く違う。もし本当に光希が”慈縛殿体術”を体得していたとすると2種類の体術を使えることになる。しかし、それが何の関係があるのか。カンナには分からなかった。


「慈縛殿体術を体得した者は死んだ時、別の慈縛殿体術の体得者の身体を()(しろ)に生き返る事が出来るという伝説がある」


「何だよそれ?降霊術みたいなもんか?」


 燈が宝生の話に興味を示した。


「そうだ。まあそういう言い伝えがあるというだけで、実際にそれで復活した死者を見た者はいない。だが解寧(かいねい)ならやりかねんという気がするのだ。あの妖怪じじいならな」


 解寧。それは確か孟秦が光希を連れ去る時に口にした名前だ。


「孟秦は”解寧の遺言”と言っていました。まさか、本当に光希を依り代に解寧は復活を目論んでいるってことでしょうか!?」


 カンナの言葉に一同は騒然とした。

 宝生と久壽居の顔にも若干の焦りを感じた。


「青幻は本当に解寧を復活させるつもりかもしれん。だとすると、非常にまずい。解寧が復活すれば奴は慈縛殿体術の体得者以外の肉体にも死者の魂を入れる事が出来ると聞く。その依り代は生者でも死者でもどちらでも構わない」


「つまり、解寧が復活したら、死者の軍勢が生み出される!?」


 つかさがテーブルに身を乗り出して言った。

 カンナも茉里も燈も一様に言葉を失った。


「そういう事になる。青幻はその死者の軍勢を勢力下に置こうとしているのではないか。あくまでも、可能性の話だ。確証はない」


「それでは、水音が殺された時に孟秦が現れたのは何なのでしょう?水音の死と解寧の復活に何か関係があるのでしょうか?」


 カンナはさらに疑問をぶつけた。


「そこまでは分からん。俺も慈縛殿体術という武術にそれ程詳しい訳ではない。割天風の爺さんなら詳しいだろうが……まあ喋らんか」


 宝生が知らないとなると今言った可能性を頼りに光希を探すしかなさそうだ。


「なんだかとても複雑怪奇な事になっているみたいですわね。その解寧とかいう妖怪を退治すれば良いのですね?」


「違うよ茉里!解寧の復活を止めて光希ちゃんを救うの!解寧が復活したら私達の手には負えなくなる!」


 茉里は敵を倒すという事を優先したがる所がある。つかさは瞬時に茉里の考えを訂正させた。


「分かりましたわ」


 茉里は素直に頷いた。


「あー、それじゃあとりあえず、どこを探せばいいんだ?」


 燈は目上の久壽居や宝生がいるにも関わらずいつも通りの口調で言った。


「まずは慈縛殿に行ってみろ。ここからそう遠くはない。青竜山脈(せいりゅうさんみゃく)の山の中にある大きな寺だ。地図を用意させる。ここから馬で2日走らせれば行き着くだろう。車も出せるが、結局山の中は馬の方が百倍いい」


「馬で2日かぁ、しんどいなぁ」


 燈が溜息をついた。


「燈、頑張ろう!なんとしてでも光希を助けて解寧の復活を止めなきゃ!」


 燈は頷いた。


「万が一、人手が必要になったらすぐに俺に連絡しろ。軍の力は貸す。久壽居、お前は慈縛殿以外の怪しい場所をしらみ潰しに探せ。これは学園への介入ではない。我々軍の正当な任務だ」


「はっ!」


 宝生の命令に久壽居は襟を正して凛々しい返事をした。


「そうだ、青竜山脈に入ったら慎重に行動しろよ。お前達が今まで見たこともないような化け物がいるからな」


「化け物!?」


 カンナの顔は青ざめた。

 その時、近くで剣を抜く音が聴こえた。

 燈が椅子から下り、戒紅灼(かいこうしゃく)を抜いて天に向けて構えていた。


「化け物?望むところだ!あたしのこの戒紅灼で叩き斬ってやるよ!」


 燈が威勢よく言った。


「ほう、戒紅灼か。良い剣を持っているな。だが気を付けろ。青幻は色付きシリーズを狙っている」


「この剣はその青幻の部下を倒して手にいれたものを友達があたしにくれたんだ。今更青幻に返せって言われても返さない!むしろ黄龍心機(こうりゅうしんき)を奪い返してやるぜ!」


 燈の威勢の良さに宝生は声を出して笑った。


「す、すみません宝生将軍、久壽居さん。燈が無礼なことを」


「構わん。まったく頼もしいじゃないか。さぁお前達、腹が減っては戦は出来んぞ。出発前に腹ごしらえしておけ」


 宝生は燈の無礼な態度にも気を悪くする様子はなく食事を勧めてくれた。

 燈は戒紅灼を鞘に収めると、また目の前の料理に食らいついた。

 カンナはつかさと顔を合わせて苦笑いした。

 茉里は1人静かに食事を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ