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序列学園  作者: あくがりたる
地獄怪僧の章
64/138

第64話~島外任務~

 斑鳩爽(いかるがそう)は見つからなかった。島内から出た形跡はない。必ずこの島のどこかにいるはずだ。

 畦地(あぜち)まりかは割天風(かつてんぷう)の執務室でそう報告した。

 まりかはいつも通り腰には2本の刀を()いている。

 目の前の割天風は長い髭と深く刻まれた皺で表情が読み取れない。


鵜籠(うごもり)も始末した方が良いかもしれんな。鵜籠の手の者が鵜籠の名を吐いていれば奴が狙われる。そうなれば今度は」


「それに関してはご心配ありません。斑鳩爽が鵜籠を狙うかもしれない。そう思いまして鵜籠の警護を強化致しました。まあ、鵜籠を始末するのであればそう致しますが」


「そうか。まあそれで良い。斑鳩がそこに現れるかもしれんからな。まりかお前も鵜籠を良く監視しておけ」


「はっ!」


「ところで、帝都軍の司令官宝生(ほうしょう)から篁光希(たかむらみつき)捜索及び奪還の依頼が届いた」


「宝生将軍から!?」


 まりかは珍しく声を上げて驚いた。宝生は学園には関係のない人物。ましてや下位序列の生徒の奪還などを依頼するメリットはないはずだ。

 割天風は顎の髭を撫でた。


久壽居(くすい)じゃろうな」


 そう言われてまりかも軽く頷いた。


「なるほど。確かに今宝生将軍と繋がりがある学園関係者は久壽居さんのみ。久壽居さんと繋がってるのが斑鳩爽というわけですね」


 割天風は頷いて机に出されていた茶を啜った。

 斑鳩が久壽居に学園の事を伝え、久壽居が宝生に口添えをしたのか。そうだとしたら事態は思わしくない状況になる。割天風が宝生を無視すると今後の関係性が危ぶまれる。宝生は大陸側の一大勢力帝都軍の総司令官。今は良好な関係を保っているが宝生の依頼をむげにすれば今後は帝都軍の力を利用出来ない。

 割天風は飲んでいた茶の湯呑みを置いた。


「まりか。宝生将軍の依頼だ。断る事は出来ぬ。生徒達に島外遠征任務の許可を出す。ただし、序列9位以上は出すな。貴重な戦力だからな」


「し、しかし、良いのですか?青幻(せいげん)が篁光希を連れ去ったのを学園が連れ戻すような事をして」


 まりかは青幻に逆らう事に不安を抱いていた。

 割天風は表情を変えずにまた口を開いた。


「今は仕方が無い。青幻が何か言って来たら宝生からの依頼で体裁上動いているだけだと言えば良い」


 まりかはその言葉に軽く頷いた。

 割天風は青幻とも宝生とも今まで通りの関係を保ちたいのだ。


「畏まりました。では、本来任務に参加出来るのは序列30位以上の生徒。今回は序列10位から序列30位までの中から選びます。ご希望はございますか?」


 割天風は机の引き出しから生徒の序列と名前が記された紙を取り出し眺め始めた。


「分からんな」


「はい?」


 割天風がまりかの質問とは違うことを答えた。


孟秦(もうしん)が篁光希を連れ去った理由じゃ。儂は事前に聞いていなかった。まりか、孟秦は何か言っていなかったか?」


 まりかは孟秦と会った夜の記憶をもう一度辿った。


「あ……そう言えば”解寧(かいねい)の遺言”とか訳の分からないことを」


「何じゃと!?」


 割天風は突然怒鳴り声を上げた。

 まりかは思わず膝から崩れ落ちた。


「馬鹿者が!!何故それを早く言わぬのだ!!」


「も、申し訳ございません!!」


 まりかは自分が報告し忘れた事が割天風を今まで見たことがないほどに激怒させてしまったことに立ち上がることもままならずただ謝ることしか出来なかった。


「役立たずめ」


 割天風は吐き捨てるように言うと窓の方へ顔を背けてしまった。

 まりかは言葉もなく俯いた。


「解寧の名で篁光希を連れ出したということは……不味いかもしれん」


 割天風はまた落ち着いた声で話し始めた。


「不味い……?」


「まりか、任務の人選は各クラス1名ずつ計4名。剣特・火箸燈(ひばしあかり)、体特・澄川(すみかわ)カンナ、槍特・斉宮(いつき)つかさ、弓特・後醍院茉里(ごだいいんまつり)。以上。すぐにここへ呼べ」


「はっ!」


 まりかは割天風の命令を一言一句間違えずに復唱するとすぐに割天風の執務室を後にした。


「序列10位から13位までを一気に使うなんてかなりやばいみたいね……にしても、役立たずですって!?私が役立たず!?」


 まりかは苛つきながら足早に校舎の廊下を歩いて行った。握った拳は汗が滲んでおり堪らなく不快だった。





 カンナは食堂でつかさと昼食を取っていた。

 学園の食堂はこじんまりとしていて席も少ない。せいぜい20席くらいだろう。その席が全て埋まることは少なかった。今も数人が食事をしているだけだ。ここの生徒達はほとんど食堂を利用しない。大抵はパンなどを買って各々好きな場所で食べたりしているようだ。カンナも初めのうちはそうだった。入学当初は響音(ことね)に嫌がらせを受けていたので食堂で食事など落ち着いて出来ず毎日東の岩壁の上で1人パンをかじっていた。

 しかしそれも過去のこと。今となってはたくさんの友達が出来た。いつも一緒にいてくれるのは槍特の斉宮つかさだった。暇さえあればつかさはカンナを訪ね、またカンナもつかさを訪ねていった。そしてつかさとは毎日食堂で食事をするようになった。


 カンナは好物のオムライスを食べながら向かいに座って同じオムライスを食べているつかさの豊満な胸を見ていた。


「カンナだから許すけど、見過ぎだよ。胸。そんなに凝視されたら、私だって一応恥ずかしいからね」


「あ!ご、ごめん!!そんなつもりじゃ……つい!」


 つかさに指摘されるまでカンナは自然につかさの胸に目がいっていた事に気付いていなかった。


「そんなつもりって。それより、カンナ」


 つかさはカンナに耳を貸せという仕草をしたのでカンナは食卓に身を乗り出し耳を近付けた。


「斑鳩さんに告白したの?」


 思いがけない質問にカンナはつかさに耳を貸した体勢のまま恥ずかしさで顔を赤らめ固まった。


「な、何のこと!?いきなり、つかさ!!」


「可愛いねーカンナ。顔真っ赤だし、目泳ぎまくってるし。隠したって無駄だよ。私はカンナの事ならなんでも分かるんだ!」


 つかさは胸を張って言った。

 カンナは恥ずかしさでつかさの目を見られず食べかけのオムライスを見つめた。


「好きなんでしょ?」


 カンナは観念してこくりと頷いた。


「もしかして……初恋?」


 カンナはまたこくりと頷いた。


「そっか!!ま、彼は非の打ち所のない完璧超人。惚れるのも分かるよ。あ、安心して、私はそういう気持ちないから」


「つかさは……好きな人いるの?わ、私だけばれるのは……その、不公平だよ」


 カンナは俯いたままもじもじして言った。


「はは、カンナあなた子供みたいなこと言うね。私は、カンナが好きだよ!」


「からかわないでよ!!」


「ホントの事だもん」


 カンナは意地悪を言うつかさの目を見た。しかしその目はからかってるとかそういうものがなく真っ直ぐだった。


「ま、私のことはともかく。斑鳩さん。今何処にいるかも分からないし、危険なことやってるから心配だよね。辛くなったらいつでも言いなよ?私で良ければ話聞いてあげるからさ」


 つかさは天使のような笑顔だった。その笑顔にカンナは斑鳩の時と似たような心がキュンとする感覚を味わった。


「ありがとう!つかさ!私もあなたの事好きだよ」


「やめてよ、気持ち悪い!」


「何よそれ!!?」


 つかさの冗談に2人は声を出して笑った。

 ふと、つかさが笑うのをやめた。カンナがつかさの視線を追って後ろを振り返った。


「女の子同士でイチャイチャしてるところ悪いけどちょっといいかしら?」


 カンナの視線の先には笑顔のない畦地まりかが立っていた。


「は?何よカンナちゃん。その目は?私だってあなたになんか会いたくないわよ」


 カンナの目は無意識にまりかに対する嫌悪感を表していたようだ。


「何の用ですか?」


 つかさは無表情で言った。


「総帥からの任務よ。よく聞きなさい」


 任務と聞き、カンナとつかさは同時に襟を正した。


「学園序列34位・篁光希を島外にて捜索及び奪還せよ。メンバーは序列10位・澄川カンナ、序列11位・斉宮つかさ、序列12位・後醍院茉里、序列13位・火箸燈。以上4名は早急に総帥の執務室へ出頭すること」


 まりかは一息に淡々と割天風からの任務を何も見ずに告げた。


「はい!」


 返事はしたものの、(にわか)には信じられない任務であった。学園と青幻が繋がっているのなら青幻が連れ去った光希を学園が連れ戻すという任務をやらせるはずはない。

 罠か。

 カンナはそう考えたが斑鳩が「考えがある」と言っていたのを思い出した。もしかしたら斑鳩が手を打ってくれたのかもしれない。


「後醍院茉里と火箸燈にはあなた達から伝えて。集まったら執務室に来なさい。急ぎなさいよ?宜しくね」


 まりかは終始苛ついた様子で用件を告げるとすぐに食堂から出て行ってしまった。

 カンナはつかさと顔を見合わせた。


「まさか学園側から私達に光希ちゃんの奪還任務をさせるとはね」


 つかさがカンナと同じ疑問を口にした。


「きっと斑鳩さんが手を回してくれたんだと思う。とにかく、任務を受けた以上やらなくちゃ!」


 カンナは気持ちを切り替えて任務の事だけを考えることにした。光希を正式に奪還しても良いという許可が出たのだ。それに尽力する以外選択肢はない。


「私は後醍院さんを呼んでくる。つかさは燈を呼んできて」


「分かった」


 カンナとつかさは手分けして残りの任務のメンバーを呼びに走った。





 カンナ、つかさ、茉里、燈の4人は割天風の執務室に出頭した。


「なるほど、各クラスから1名ずつ呼ばれたんだな。しかも連番じゃん」


「無駄口を叩かない」


 燈の発言にすぐにまりかのお叱りが入った。

 燈はまりかを睨み舌打ちをした。

 カンナとつかさ、茉里は大人しく割天風の言葉を待っていた。

 ゆっくりと割天風は口を開いた。


「今回の任務は必ず成功させなければならない。青幻は篁光希を使って良からぬことを企んでおるようじゃ。詳しくは言えんがとにかくどんな手を使ってでも篁光希を奪還せよ」


「はーい!総帥!だったら上位序列の人もメンバーに加えてくださいよー!」


「火箸さん!」


 軽口を叩く燈をつかさが睨みつけた。


「燈ちゃん。いい加減にしなさいよ?上位序列は貴重な戦力。学園にも戦力は必要でしょ?燈ちゃんの頭じゃ理解できないかぁー」


 まりかの小馬鹿にするような言い草に燈の身体が動きかけた。


「火箸さん。上位序列の方々のお手を煩わすまでもありませんわ。むしろ、(わたくし)と澄川さんの2人でも充分なくらいですわ」


 茉里は燈の腕をそっと掴んで言った。

 燈はゆっくりと腕を掴んでいる茉里を見た。


「よお、てか後醍院。お前久しぶりだな。2人で充分だと?冗談はその喋り方だけにしとけよ鬱陶しい」


 燈は止めてくれた茉里にも毒を吐いた。

 茉里は何も言わず目を閉じてしまった。

 カンナが茉里の手を見ると拳は固く握り締められており微かに震えていた。

 カンナは茉里の隣りに行きその拳を取り、胸の前で優しく包んだ。


「落ち着いて、後醍院さん。皆で協力しよう」


 茉里はカンナのその行為に頬を染め表情がほぐれ、拳が(ほど)けた。


「火箸さんも私達4人は仲間です。私達4人いれば、上位序列の方にも勝るとも劣らない。力を合わせましょう」


 つかさが燈を諌めた。

 燈は頭を掻きながら軽く頷いた。


「分かってるよ……あたしだって別にやる気がないわけじゃないんだ。悪かったよ」


 燈は素直にカンナ、つかさ、そして茉里に頭を下げた。


「先行きが不安ですね、総帥」


 まりかは呆れながら言った。


「お前達4人の実力は買っている。心配はしておらん。それよりも、初の島外任務じゃ。狼臥村(ろうがそん)での任務と違いすぐにこちらと連絡が取れん。連絡は昼間は狼臥村に置いてある鷹を使え。夜は大陸側の港より鏡で連絡せよ。鏡通信のやり方は大丈夫じゃな?」


 カンナを除く3人は同時に返事をした。カンナだけ返事をしなかったのでつかさ、茉里、そして燈はカンナの顔を見た。


「え……カンナ、まさか」


 つかさが心配そうに言うとカンナは苦笑いしながら頷いた。


「大丈夫ですわ。(わたくし)が手取り足取り教えて差上げますから」


 茉里はそう言うとカンナに微笑んだ。

 まりかは頭を抱えて俯いている。


「本日中に狼臥村へ向かい、明日早朝には狼臥村より船で大陸へ渡れ。鷹を連れて行くのを忘れるな」


「了解しました!」



 かくして、澄川カンナ、斉宮つかさ、後醍院茉里、火箸燈の4人は篁光希捜索及び奪還の島外任務へと赴くのだった。


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