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序列学園  作者: あくがりたる
偽りの学園の章
37/138

第37話~学園理事会~

 カンナは響華(きょうか)に乗って歩いた。

 風はいくらか収まってきた。

 響華は平凡な馬だと聞いていたがそんなことはなかった。カンナが乗る限りその能力は並の馬からは頭一つ抜けていた。響華はいつも月華(げっか)と比べられてきた。故に響華は最良の馬である月華の前に霞んでしまったのだろう。

 カンナを挟む形で茉里(まつり)詩歩(しほ)が馬で併走している。

 村人達は相変わらず(せわ)しなく働いていた。

 ゆっくり村を見たことがなかったカンナはどこに何があるのかをよく観察していた。

 茉里は涼しい顔をしていた。


「久しぶりの任務。そして(ひいらぎ)さん以外の方との任務。ワクワク致しますわ」


 茉里は嬉しそうに言った。

 茉里のその笑顔、その言葉は紛れもなく本心からのものなのだと、カンナは感じた。


後醍院(ごだいいん)さんは柊さんとは仲良いんですか?」


「そうですわね……悪くはないと思いますわよ? わたくしもあの方と一緒にいる時は心が穏やかですから」


 舞冬(まふゆ)には相手の心に語りかける何かがあるのだろうか。カンナも舞冬とは自然と仲良くなっていた。


「でも柊さんは変わった方ですわね。最初に出会った時はいきなり鼻を近付けてきて私の香りを嗅いでいましたのよ? 不快だったのでその時は殴ってしまいましたわ。躱されましたけど」


 茉里もやられたのか。カンナも舞冬と出会った時の事を思い出した。確かにビックリして咄嗟に手が出てしまった。

 くすりと隣で笑い声が聴こえた。

 見るとカンナの左側を歩いていた詩歩が笑いを堪えながら口を抑えていた。


「ご、ごめん。舞冬さん、皆にそんな事してたんだと思って‥‥想像したら、可笑しくなっちゃって」


 カンナはこの任務に来て初めて詩歩の笑顔を見た。その笑顔を見て少しほっとした。


(ほうり)さんもやられたの?」


「うん。私も最初は気持ち悪っ! て思ったけど、あの人はどうも憎めないね」


「そうだね」


 カンナと詩歩は初めてお互いに笑顔を見せ合った。

 ふと、隣からは鋭い視線を感じた。

 振り向くと茉里がこちらを睨み付けていた。


「わたくしと澄川(すみかわ)さんのお話だったのに。あーあ。つまんないのぉ」


 茉里は詩歩にも聴こえる大声で不満を漏らした。

 詩歩は下を向いた。もちろん笑顔は消えた。

 カンナはそれを見て怒りがこみ上げてきた。何故仲良く出来ないのか。茉里は何故詩歩を嫌うのか。

 舞冬のようにカンナは茉里に同情することが出来なかった。

 カンナは決断した。


「後醍院さん。宿に戻ったら、私と2人でお話しましょうか」


 茉里は嬉しそうに笑顔を見せた。


「本当ですの? それは嬉しいお誘いですわ! 是非2人きりで!!」


 カンナは無表情で前を向いた。

 今喜ぶところではない。しかし茉里はとても嬉しそうに鼻歌を歌い始めた。

 詩歩はカンナを心配そうな目で見つめていた。


「カンナ……」


 カンナは詩歩に微笑んだ。



****



 学園では臨時の理事会が召集された。

 学園総帥・割天風(かつてんぷう)を始め、7人の武術師範、そして上位5人の生徒達で構成される合議体である。

 例の如く、序列1位に君臨する神髪瞬花(かみがみしゅんか)と序列3位の久壽居朱雀(くすいすざく)は欠席。序列4位の影清(かげきよ)は療養中という理由で欠席だった。

 実質メンバーで参加している生徒は序列2位の美濃口鏡子(みのぐちきょうこ)と序列5位の畦地(あぜち)まりかだけだった。

 欠席の3人の生徒の穴埋めという形で繰り上げ参加という形が採られた。

 理事会に繰り上げ参加になった生徒は、序列6位の外園伽灼(ほかぞのかや)、7位の斑鳩爽(いかるがそう)、8位の柊舞冬(ひいらぎまふゆ)の3名である。

 繰り上げ参加のメンバーは丁度欠席している上位メンバーとそれぞれ同じクラスの生徒であった。


「神髪さんなんですけど、毎回理事会に参加しないのはずるくないですか? 久壽居さんと影清さんは理由があるけど、神髪さんは興味ないからっていう理由だけですよね? いっその事理事会メンバーから外してしまいません?」


 畦地まりかが不満を(あらわ)にして物申した。


「外したければ、まりか、あなたが序列1位になることね。1位の特権を使えば下位の理事を解任出来るじゃない。そうしなさいよ」


「鏡子さんは意地悪ですね! そんなこと分かってますよ。でも出来ないから言ってるんじゃないですか」


 鏡子は冷ややかな目でまりかを睨んだ。

 まりかはその視線に対してもにこりと微笑んで笑顔を見せた。

 鏡子はそれを見て鼻で笑った。


「まぁまぁまぁ! 喧嘩しないでお2人とも! ささ、早いところ本題に入りましょう!」


 黙っていた舞冬が手を挙げて言った。

 一同が舞冬を見た。


「あぁ、その前に聞きたいことがあるんですが~」


 続けて舞冬が身を乗り出して言った。


「何じゃ? 早く済ませよ」


 部屋の一番奥の席に堂々と座っていた割天風は長い顎髭(あごひげ)を撫でながら言った。


「今回の村当番のメンバーって、どうしてあの3人なんですか??」


 一同がまりかの方を見たので舞冬も釣られてまりかの方を見た。


「はぁ、うるさい子が理事会に入ってきたわね。しょうがない、説明するわよ」


 一同の視線を受けて、まりかは渋々説明を始めた。何故まりかが説明するのか、理由は分からなかった。


「まず、3人編成にした理由だけど、大陸側での青幻(せいげん)我羅道邪(がらどうじゃ)の抗争。これを受け、この島にも被害が及ぶことを案じて3人体制にしたのよ。で、メンバーの人選は、上位序列を優先的に配備したら必然的にこうなったわ。カンナちゃんはこの前の仕合の時に素晴らしい闘いぶりを見せてくれたし、茉里ちゃんは鏡子さんの弟子だからね、実力なら折り紙付きよ。それに、それ以外の上位序列は前月、前前月に割り当てちゃってたし……別にそこまで不思議な人選ではないと思うんだけどなぁ」


 まりかはそういうと言葉を止めた。

 舞冬はまりかが詩歩の事を話さないので問い詰めた。


「それじゃあまりかさん。詩歩ちゃんはどうして一緒にしたんですか?」


 まりかはまたにこりと微笑んだ。


「え? だって、詩歩ちゃんて、カンナちゃんと仲良いでしょ? カンナちゃんは初めての任務だし、仲良い子と一緒の方がいいでしょ? それを考慮してあげたのよ」


 まりかの笑みには悪意が滲み出ていた。


「嘘だ!!! まりかさん何か企んでますね!? その人選には私は納得出来ません!! その理屈なら(あかり)ちゃんの方が適任じゃないですか!?」


 舞冬は立ち上がるとまりかに怒声を浴びせた。


「おい、柊、よせよ。理事会だぞ」


 隣に座っていた斑鳩が舞冬を(たしな)めた。


「何かしら? 理事会の決定よ? 決議の時あなたはいなかったのだから口出しされる筋合いはないわ。さ、話は終わり。文句があるなら、終わってから2人で話す?」


 まりかは笑顔を崩さず舞冬に言い放った。

 すると笑い声が聴こえた。


「ははは、いいねぇ! まりか! カオスだねぇ! いつもカオスを呼ぶ女! ブレないねぇ!」


 まりかの隣に静かに座っていた伽灼が横を向きケラケラと笑いながら言った。

 舞冬はその笑い声に熱くなった気持ちが不思議と収まった。


「伽灼? あなたもいつも空気を読まず良くそんな大笑い出来るわね?馬鹿なの?」


 まりかもさすがにイラついたのか口調が荒くなっていた。


「寝首かかれないように気を付けろよ」


 伽灼がぼそっと物騒な事を言った。

 まりかの笑顔はさすがに消えた。

 その伽灼を見詰めるまりかの目はこの世のものとは思えない程の恐ろしさを秘めているような気がした。


「あなた達、いい加減にしなさい。総帥も師範達もいらっしゃるのですよ?」


 鏡子の言葉に舞冬もまりかも伽灼も襟を正した。


「うむ、では、理事会を始める。今回の議題は先程話に上がった青幻と我羅道邪の対策じゃ」


 割天風がゆっくりと話し出した。

 青幻と我羅道邪という2人の名前を聞いて場は緊張に包まれた。


「久壽居の斥候(せっこう)からの報告によると2ヶ月以内に青幻の軍勢がこの島へ侵攻してくる可能性があると言ってきておる」


「何ですって!?」


 話を聴いていた生徒達はもちろん、師範達でさえ驚きの声を上げていた。


「この島に来てどうするつもりなのかしら? 過去に一度訪れて、学園の力に失望して帰っていきましたよね?」


 まりかが唇に指を当てて言った。

 舞冬はその仕草に苛立ちを覚えた。


「久壽居の情報だろ? 疑う余地はない。奴が何を考えているのかは分からないが、侵攻に備える必要はある」


 剣特師範の袖岡(そでおか)が言った。

 袖岡がまりかを見るとまりかは目を逸らし軽く頷いて見せた。


「総帥はこの島の防衛に関してどのような配備をされるのですか? 数が違いますぞ? 青幻の軍勢はおよそ1万。そのうちの数百、あるいは数千がこの島に押し寄せてくるのでしょう。かつてこの島に青幻が来た時に息の根を止めておくべきでしたな」


 かなり歳のいった見た目の男、剣特師範の太刀川(たちかわ)が皮肉を込めて言った。

 生徒達は誰もそれに対して意見を述べられなかった。

 割天風の表情は変わらない。いや、(しわ)の深い顔は元から表情など読めない。

 この学園の師範達は皆割天風の教え子、つまりかつてこの学園で修行をした生徒達だった。学園から外へは出ずにこの学園の師範として貢献しているのだ。


「青幻の目的は単純に支配であろう。武術集団の国家を作るとか言っておるらしいからのぉ。ようやくこの島を手中に治める余力が出来たと言うことじゃろう。防衛体制じゃが、7人の師範達各1人を隊長にした6人1組の小隊を編成してもらう。そして各小隊を島の各所に配置。青幻の軍勢を迎え撃つ」


「はは、総帥、ちょっとそれは人数的に無理があるんじゃ……」


 舞冬が苦笑しながら言った。


「もちろん、この島に上陸させないように、久壽居のいる軍にも協力はしてもらう。じゃが如何(いかん)せん青幻が我羅道邪と連携していては上手くこちらに軍を回せぬかもしれぬからのぉ。それと村の自警団の酒匂(さかわ)にも協力を依頼する」


「私達が……島の最終防衛線ってことですか……」


 割天風の説明に舞冬は俯いた。


「怖いの? 舞冬ちゃん?」


 まりかが微笑みながら舞冬に言った。


「怖くなんかないですー! まりかさんこそ怖いんじゃないですか?? べーだ!!」


「うふふ、可愛いわね、舞冬ちゃん」


 まりかの挑発に簡単に乗ってしまったが、舞冬の挑発返しは彼女には効かなかった。

 舞冬は頬を膨らませ腕を組んでそっぽを向いた。

 伽灼が笑いを堪えているのが見えたがそれは知らない振りをした。


「総帥、その小隊はどのように決めるのですか?」


 鏡子が冷静に言った。


「それについてはこれからこの場で話し合いのもと決めることとする。久壽居はもちろんじゃが、瞬花も数には入れるなよ。あ奴に集団行動は出来ぬ」


「またですかぁ!?」


 神髪の特別扱いにまりかはまた不服そうに嘆いた。

 舞冬はまりかを見た。

 この女の好きにはさせてはいけない。恐らくこの理事会の意見はまりかが支配している。明らかに不適切なことはさすがに却下されるだろうが、まりかは上手いこと言いくるめて自分の思い通りにしてきたに違いない。

 カンナが茉里と一緒になったこと。詩歩が一緒になったこと。

 斉宮(いつき)つかさの考えだとカンナと詩歩を苦しめるために茉里と組ませたというのだ。考えてみればまりかがカンナと詩歩を恨む理由は先の影清の制裁仕合の件から十分に有る。

 舞冬はそれを確かめたかったが真実は有耶無耶にされた。

 

 畦地まりか。この女だけは注意しなければならない。


 その事を念頭に起きながら、舞冬は小隊の編成を考え始めた。


****


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